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人的資本情報の集計・開示のポイント 第9回 安全衛生等に関する情報開示のポイント

 労働者は、「安全で、働きやすい環境の下で働きたい」と思っています。会社が「労働災害の発生状況」や「過重労働の防止対策」等に関する情報を開示することは、労働者に「安全な職場づくりに取り組んでいる」という印象を与え、採用力を強化するうえで大きな効果を発揮します。また、これらの情報開示によって、投資家や顧客に「従業員を大切にしていて、トラブルが発生しにくい会社」という印象を与えることもできるので、株価上昇や売上増加にも結びつくことになります。

 今回のコラムは、安全衛生に関する情報開示のポイントについて説明します。

安全衛生に関する情報(指標)の開示

 事業者は、労働災害が発生した場合には、被災者の名前や災害発生状況等を記入した「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長に提出しなければなりません。また、定期健康診断やストレスチェックを実施したときには、それを受けた労働者数等を記入した報告書を提出することが義務付けられています。

 これらの報告事項に関連する指標(厚生労働省の統計調査で使われている【図表1】にリストアップした指標)について、会社は、労働災害が発生していない状況であっても、情報開示することが望ましいと言えます。

 

【図表1】 企業が開示するべき安全衛生に関する情報

 

 なお、労働災害の発生件数・割合、死亡数、損失時間等に関する情報は「ISO30414」等でも情報開示が求められている項目であり、国際基準への対応という観点からも、企業は、【図表1】にリストアップした指標を公表するべきでしょう。

過重労働防止対策、メンタルヘルス対策等に関する情報の開示

 過重労働防止対策やメンタルヘルス対策に関する情報を開示することも、労働者に安心感を与えて、会社の採用力向上に結びつきます。具体的には、企業は、【図表2】にリストアップした情報を開示するべきです。 

 

【図表2】 企業が開示するべき過重労働防止、メンタルヘルス対策等に関する情報

 

 なお、都道府県労働局は、事業主に対して「安全衛生管理計画及び実施結果報告書」の作成を推奨しており、そこに記載する情報は、安全衛生において把握するべき重要項目と捉えられます。会社として安全衛生に関する情報開示を検討するときには、この計画・報告書の項目を参考にすると良いでしょう。

 

安全衛生に関する情報を開示しないリスク

 「労働災害や過重労働の状況に関する情報を開示すると、会社の恥をさらすことになり、かえって採用力が落ちてしまうのではないか?」と心配される人もいるでしょう。このような人は、「安全衛生に関する情報を開示しないリスク」について考えてみてください。

 労働災害や過重労働等が発生した場合、それらに関する情報は、SNSを通じて、瞬時に世界中に拡散されます。SNS上の情報は、世間の注目を集めるために、労働者側の被害が誇張して書かれてしまうこともあります。このような情報が広がると、会社は「労働者を酷使しているブラック企業」というレッテルを貼られて、採用面で大きなダメージを負うことになります。

 SNSによる情報拡散が始まった段階で、会社が労働災害の発生状況等に関する記者会見などを行っても、「時すでに遅し」です。「対応が遅い」、「情報を隠蔽しようとしていた」など、会社に対する批判がさらに勢いを増して、最悪の場合、会社は危機的状況にまで追い込まれてしまうこともあります。

 「安全衛生に関する情報を開示しないこと」は、大きなリスクがあるのです。

 このようなリスクを回避するうえで、常日頃から労働災害や過重労働の状況に関する情報を開示して、「安全衛生対策をしっかりと行っている会社」というイメージを世間に持ってもらうことが大切になります。

 また、労働災害等が発生したときに、会社は、速やかにその状況を世間に報告しなければなりません。このような報告を的確に行うためにも、人事部門は、労働災害等に関する情報開示を通じて、事故・事件の背景説明等に慣れておいたほうが良いでしょう。

 安全衛生に関する情報を開示することは、採用力強化や企業価値向上の面で効果を発揮し、また、会社に関する間違った情報が拡散するリスク等を軽減します。このようなメリットに着目して、人事関係者は、安全衛生に関する情報を効果的に開示することをご検討いただきたいと思います。