前回のコラムで、トルネードチャートの欠点として以下の説明をしました。
このトルネードチャートの欠点を解決する方法が、モンテカルロ・シミュレーションです。
モンテカルロ・シミュレーションは、得られる結果がどのくらいの確率で達成できるのかがわかります。
同じことを何度も(1000回とか10000回とか)繰り返して、最初に設定した幅の中で、どの結果が何回出るかを予測します。
結果が最大値になる回数や、最小値になる回数は、通常少ないです。
幅の中心値あたりの結果が出る回数が最も多くなります。
例えば、第2回で説明した契約件数や契約販売価格が、最初に設定した幅の中で変動した時に、売上が最小値から最大値の間で、どのくらいの確率で達成できるのかが見えるようになります。
あくまでも統計による予想値です。
しかし、「経験」と「勘」による予想とは違って、どのような要因で、どのように予想したのかが、ほかの人にも見えることが重要なポイントです。
従来、予算をどのように作ったのかについて、とても不透明だったので、予実差異を追求することに困難を感じられた方も多いと思います。
しかし、トルネードチャートやモンテカルロ・シミュレーションを使い、結果を出すプロセスとして説明資料に追加すれば、予算を作った人が、どのような前提で、どのような手法で予想したかが「見える化」できるのです。
これは予算策定の質を向上させるうえで、とても有用だと思います。
予想については、それが的中するのかどうか、その「確率」を示すことで、不確実な将来を予測するための意思決定がしやすくなります。
意思決定をするうえで重要なことは、起こりうるすべてのことに対して対応することが難しい時に、比較的確率の高い範囲で対応できるようにすることです。
例えば、今後雨が降るかもしれないし、降らないかもしれない。
ベランダに洗濯物を干すかどうかの意思決定を行う場合、どのくらいの確率で雨が降るかを統計的に見るために、気象庁などが発表した降水確率を参考にして、干すかどうかを決めたりしますね。それと同じです。
また、夏の時期になると台風の進路予想を参考にすることが多いと思います。
出典:気象庁HPおよび国土交通省「各種防災気象情報の解説」https://www.mlit.go.jp/common/001083026.pdf
例えば、上の図が台風の進路予想の例です。
台風の進路を予想する際に、台風の中心が通る「線」ではなく、「円」の中に入るイメージで表現されています。
円の縦方向は、「速度」の幅です。横方向は「東西の方向」の幅です。
第2回で説明したように、台風の進路予想も「幅」をもって表現されているのです。
それでは、気象庁などが発表している進路予想の「円」の中に、中心が入る(的中する)確率は、何パーセントでしょう?
答えは70パーセントです。
この確率を知っている人は、予報円の外であっても、30パーセントは中心が来る可能性があることを理解していることになります。
この理解によって、「30パーセントなら、台風がくる確率としては見過ごせないレベルだと感じるから、旅行先が予報円の外にあっても、とてもお金がかかる旅行はやめて、近場で遊ぼう」という意思決定をするかもしれませんね。
これを企業の業績予想に当てはめて考えると、予算を「幅」をもって示す際に、70パーセントの確率で起こりうる範囲での「幅」に限定することで、経営者や各部門の意思決定を、より合理的にしていくことにつながると思います。