給与所得控除と所得控除は、税金の計算に大きく関わる重要な概念ですが、その違いや計算方法はなかなか分かりにくいものです。そのため、企業の経理業務を担当する方は、給与所得控除と所得控除の違いを理解して、従業員の給与と税金の状況を正しく把握することが大切です。
また、所得控除には、生命保険料控除や医療費控除など、従業員からの申告を受ける必要があるものもあります。
これらの控除の仕組みを活用することは、従業員の節税につながる可能性があるため、企業の経理や人事労務担当者にとっても重要です。
そこで今回は、給与所得控除と所得控除の違いや計算方法をわかりやすく解説します。企業の経理業務を担当する方は、ぜひ参考にしてください。
以下では、給与所得控除と所得控除の概要と目的について解説します。
給与所得控除とは、給与所得者が所得税や住民税を計算するときに、収入から一定額を引くことで、税金の負担を軽くする制度です。
給与所得控除は、仕事に必要な経費を考慮したもので、自営業者と会社員の税負担の公平性を図るためにあります。
所得控除とは、給与所得控除以外にも、個人や家族の状況に応じて、所得税や住民税を計算するときに収入から引くことができる制度です。
所得控除には、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、医療費控除などがあります。
所得控除は、税金を多く納める余力が少ない人に課税しすぎないようにする性格が強く、人々の生活を守る機能が働きやすいしくみです。
給与所得控除と所得控除の違いは、減算する対象や算定目的です。
給与所得控除は、給与収入を対象として差し引き、給与所得を導き出します。対して、所得控除は、給与所得を対象として減算し、課税所得を導き出すものです。
給与所得控除と所得控除の適用条件と対象者について、以下のように説明できます。
給与所得控除の適用条件と対象者は、給与等の収入金額によって異なります。
給与等の収入金額とは、給与所得の源泉徴収票の支払金額のことで、基本給や賞与、手当などを含む収入です。
給与所得控除の対象者は、給与等の収入を得た人であれば、正社員、パート、アルバイト、派遣などの雇用形態に関係なく適用されます。
所得控除の適用条件と対象者は、所得控除の種類によって異なります。
所得控除の種類には、下記で紹介する15項目があります。代表的な控除項目は、基礎控除や配偶者控除、扶養控除、医療費控除などです。
基礎控除は、所得を得た人であれば、給与所得者でも自営業者でも、無条件に適用される控除項目です。一方、配偶者控除や扶養控除などは、所得金額が一定以下の配偶者や扶養親族がいる場合に適用されるのが特徴です。また、医療費控除は、自分や家族の医療費が10万円以上かつ所得金額の5%を超える場合に適用されるなど、それぞれに適用が異なります。
給与所得控除は、仕事に必要な経費を考慮して税金の負担を軽くする制度で、自営業者と会社員の税負担の公平性を図るためのものです。
給与所得控除の計算方法は、給与等の収入金額に応じて、以下の表のようになります。
給与等の収入金額 |
給与所得控除額 |
1,625,000円まで 1,625,001円から 1,800,000円まで1,800,001円から 3,600,000円まで 3,600,001円から 6,600,000円まで 6,600,001円から 8,500,000円まで 8,500,001円以上 |
550,000円 収入金額×40%-100,000円 収入金額×30%+80,000円 収入金額×20%+440,000円 収入金額×10%+1,100,000円 1,950,000円(上限) |
上記のように、給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて算出します。
給与等の収入金額が660万円以上の場合、速算表を利用することで、簡単に給与所得の金額が算出できます。
給与等の収入金額 |
給与所得の金額 |
6,600,000円以上 8,500,000円未満 8,500,001円以上 |
収入金額×90%-1,100,000円 収入金額-1,950,000円 |
例えば、給与等の収入金額が7,000,000円の場合、給与所得の金額は以下のようになります。
前述したように、所得控除とは、所得税や住民税を計算するときに、所得から一定額を引くことで、税金の負担を軽くする制度です。
所得控除の項目には、以下の15種類があります。
基礎控除は、全ての納税者に適用される控除で、所得金額が2,500万円以下の場合は48万円、それ以上の場合は33万円が控除されます。
配偶者控除は、所得金額が103万円以下の配偶者がいる場合に適用される控除で、13万円から48万円が控除されます。所得金額が1,000万円を超えると控除額は減少し、1,300万円を超えるとゼロになります。
配偶者特別控除は、所得金額が103万円を超えて133万円以下の配偶者がいる場合に適用される控除で、最高38万円が控除されます。所得金額が1,000万円を超えると控除額は減少し、1,300万円を超えるとゼロになります。
扶養控除は、所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合に適用される控除で、1人につき38万円から63万円が控除されます。扶養親族の年齢や同居の有無によって控除額が異なります。
社会保険料控除は、国民年金や厚生年金などの社会保険料を支払った場合に適用される控除で、1年間に支払った金額が控除されます。
小規模企業共済等掛金控除は、小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの掛金を支払った場合に適用される控除で、1年間に支払った金額が控除されます。
生命保険料控除は、自分や家族の生命保険や介護医療保険、個人年金保険の保険料を支払った場合に適用される控除で、各最高4万円(合計で最高12万円)が控除されます。
地震保険料控除は、地震保険や長期の損害保険契約によって支払った保険料がある場合に適用される控除で、地震保険料は最高5万円、旧長期損害保険料は最高1万5,000円(合計で最高5万円)が控除されます。
ひとり親控除は、ひとり親で所得金額が500万円以下など一定の条件に該当する場合に適用される控除で、35万円が控除されます。
寡婦控除は、配偶者と死別後結婚せず生計を一にする子がいない寡婦で、所得金額が500万円以下など一定の条件に該当する場合に適用される控除で、27万円が控除されます。
勤労学生控除は、所得金額が75万円以下など一定の条件に該当する勤労学生に適用される控除で、27万円が控除されます。
障がい者控除は、自分や控除対象配偶者、扶養親族が障がい者の場合に適用される控除で、27万円(特別障がい者40万円、同居特別障がい者75万円)が控除されます。
医療費控除は、自分や家族の医療費が10万円以上かつ所得金額の5%を超える場合に適用される控除で、超えた分が控除されます。
寄附金控除は、政治団体や公益法人などに寄附した場合に適用される控除で、寄附金額の40%から100%が控除されます。ただし、2,000円を超える部分に限ります。
雑損控除は、災害や盗難などで自分や家族に損害を受けた場合に適用される控除で、損害額から3万円を引いた分が控除されます。
所得控除の申告方法は、年末調整や確定申告で行います。
年末調整は、会社員などの給与所得者が、年末に所得税や住民税の額を調整する手続きです。
年末調整では、基礎控除や配偶者控除、扶養控除などの所得控除が適用されますが、医療費控除や寄附金控除、雑損控除などは適用されません。
確定申告は、個人事業主やフリーランスなどの自営業者や、年末調整で控除されない所得控除を受けたい給与所得者などが、年度末に所得税や住民税の額を申告する手続きです。
確定申告では、全ての所得控除が適用されますが、自分で必要な書類を用意して申告しなければなりません。
所得控除の注意点は、以下のようなものがあります。
給与所得者の特定支出控除とは、給与所得者が業務に関連して自己負担した一定の支出を、所得税や住民税の計算時に所得から差し引くことができる制度です。
特定支出控除の対象費用には、以下の8つがあります。
通勤費とは、通勤に使う交通機関の利用料で、会社から支給される通勤費を超える部分を指します。
転居費とは、転勤に伴う引っ越し費用で、会社から支給される転居費を超える部分を指します。
帰宅旅費とは、単身赴任者が配偶者の住む家に帰るための旅費で、会社から支給される帰宅旅費を超える部分を指します。
研修費とは、職務に必要な技術や知識を得るための研修費用で、会社から支給される研修費を超える部分を指します。
資格取得費とは、職務に必要な資格を取得するための費用で、会社から支給される資格取得費を超える部分を指します。
図書費とは、職務に関連する書籍や定期刊行物などの購入費用で、会社から支給される図書費を超える部分を指します。
衣服費とは、制服や事務服などの勤務に必要な衣類の購入費用で、会社から支給される衣服費を超える部分を指します。
交際費等とは、取引先や顧客などに対する接待や贈答などの費用で、会社から支給される交際費等を超える部分を指します。
特定支出控除の計算方法は、まず、上記の表に従って給与所得控除額を求めます。
次に、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるかどうかを判定します。そして、2分の1を超える場合は、その超える部分が特定支出控除額となる仕組みです。
例えば、給与等の収入金額が5,000,000円で、特定支出の合計額が300,000円の場合、給与所得控除額は以下のようになります。
給与所得控除額の2分の1は720,000円なので、特定支出の合計額はこれを超えていません。したがって、特定支出控除額はゼロとなります。
特定支出控除を受けるには、確定申告を行う必要があります。
確定申告の方法は、以下のようになります。
なお、確定申告の期限は、原則として翌年の2月16日から3月15日までです。
このように、給与所得控除と所得控除は、給与所得者の所得税額を計算する際に重要な要素です。
そこで、企業の経理担当者が注意すべき点としては、以下のようなものが挙げられます。
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