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第182回 収益の認識時期のポイント

作成者: アクタス税理士法人|2025.04.08

 収益を認識する時期は、企業の経営成績を表すための損益計算や、法人税、消費税の適正な税金計算において重要なポイントです。不適切な収益の認識は、誤った経営判断や税務調査での指摘リスクを招く可能性があります。今回は、収益認識の基本ルールを整理し、実務で注意すべき点を解説します。

収益認識の基本

(1)企業会計の基本 企業会計原則では、すべての費用収益は発生した期間に正しく割り当てるように計上する「発生主義」が基本となっております。そのうち収益に関しては、実際にその実現が確定した時点または実現可能と判断された時点で計上する「実現主義」の原則がとられています。

(2)収益認識に関する会計基準(収益認識基準)
 収益認識基準では、約束した財やサービスを顧客に移転し、履行義務(商品やサービス等を提供しなければならない義務)が充足したとき又は充足するにつれて収益を認識します。なお、上場企業や会社法監査の対象企業、その連結子会社等、上場準備企業等は強制適用となり、中小企業等はその適用は任意となります。

(3)法人税法の基本
 法人税法では、資産の引渡しや役務の提供が完了した事業年度において益金の額(法人税法上の収益の額)を認識します。法人税法における権利確定主義の考え方と、会計上の「履行義務が充足したときに収益を認識する」という考え方は一部の例外的なものを除いておおむね一致しますが、例えば業種や取引内容によって次のように具体的な時期が異なりますので注意が必要です。

(4)消費税法の基本
 消費税法では、資産の引渡しや役務の提供が完了した時に課税資産の譲渡等を認識します。したがって、基本的には法人税法の収益認識時期と一致します。ただし、消費税法は「実際に対価として受け取った金額」が課税標準として計算されるため、一部の取引では収益認識時期が法人税法と異なる場合があります。

収益認識時期の誤りがもたらす企業ヘのリスク

(1)税務上のリスク
 収益の計上時期を誤ったものは、期ずれと言われ税務調査で指摘される可能性が高いです。特に、期末に
意図的に売上を翌期にずらす「売上の先送り」は重加算税などの追徴課税の大きな要因となります。

(2)信用上のリスク
 不適切な収益計上が行われると、企業の業績が実態と乖離し、金融機関や取引先からの信頼を損なう可能性があります。取引条件の厳格化や融資条件の悪化といった信用リスクが生じる恐れがあります。

(3)経営上のリスク
 売上の先送りや前倒しによる利益調整が常態化すると、経営陣が正確な業績数値に基づいた判断ができなくなり、結果として中長期的な経営戦略が誤った方向に進むリスクが高まります。

管理体制の整備

 実務上は、収益認識時期が一貫して同じ時期で運用されるよう以下のように体制の強化を行います。

Q&A

Q1.いわゆる「期ずれ」は税務調査で指摘されやすいと聞きました。なぜですか?

A.売上を翌期に先延ばしすることや経費の前倒しをすることにより、意図的に当期の利益を少なくして税額を抑えることが可能になるからです。
 例えば、当期に商品の引渡しが完了しているのにもかかわらず、請求書の発行を翌期にずらして売上を翌期に計上したり、期末までに役務の提供が完了していないのに当期の費用に計上したりすることが考えられます。
 税務調査では、請求書の発行日だけで収益計上時期を判断するのではなく、契約書、納品書、完了通知書などをもとに「いつ権利が確定したか」という目線でチェックが行われます。期末前後の取引は特に注意が必要です。

Q2.「収益認識基準」について簡単に教えてください。

A.収益認識基準は、企業が収益をいつ・どのように計上するかを統一する基準です。従来は、企業会計原則に定められた実現主義の原則に従って収益計上の会計処理を行っていましたが、国際財務報告基準であるIFRS との整合性を重視する目的で収益認識における包括的な基準が設けられました。原則として「契約に基づく収益認識の5つのステップ」を適用し、取引の実態に即した収益計上が求められます。

Q3.収益認識基準と法人税法で、収益認識時期が異なる取引にはどのようなものがありますか?

A.「返品」が該当します。
 収益認識基準では、返品権が付与されている取引について、返品が見込まれる金額を見積り、収益から控除します。一方、法人税法では、実際に返品が発生した時点で収益から控除することになりますので、両者で認識時期のずれが生じます。

Q4.「値引き」や「割戻し」についても、Q3の「返品」と同様の取扱いになりますか?

A.「値引き」や「割戻し」は、法人税法上の取扱いについて「返品」と異なります。
 収益認識基準では、値引きや割戻しが見込まれる金額を見積り、収益から控除します。この点は「返品」と同様です。法人税法においても、その値引き等の内容や算定基準を相手方に明らかにするなどの一定の要件(法人税法基本通達2-1-1の11)を満たした場合には、収益から控除することが認められています。したがって、一定の要件を満たすことができれば、両者で認識時期のずれは生じません。

Q5.収益認識基準及び法人税法と消費税法で、収益認識時期が異なる取引はどんなものですか?

A.「自社ポイントを付与する取引」が該当します。
 収益認識基準では、自社ポイントを付与した場合、将来利用されるであろうポイント見込み分を見積り、収益から控除します。法人税法においてもその付与した自社ポイントを発行年度ごとに区分して管理するなどの一定の要件(法人税法基本通達2-1-1の7)を満たした場合には、収益認識基準と同様の処理が認められます。一方、消費税法においては、あくまでも資産の譲渡という「取引」について課税されるものであるため、自社ポイント付与時には利用見込分を控除せず、実際に自社ポイントが利用された時に収益から控除することになります。したがって、このケースでは、収益認識基準と法人税法の認識時期は一致するものの、消費税法と認識時期のずれが生じます。