今年(2024年)9月に、新しく作り替えられた「リース会計基準」(以下、「新リース会計基準」)は、「改訂」ではなく全く新しい基準として開発されました。
企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、『【参考】企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号等との比較)』という、いわゆる「新旧対照表」を公表していますが、旧基準の条文はことごとく「削除」され、新基準の条文がほとんど「新設」されていて、あまり役に立たないと感じられます。
- (ASBJ公表の新旧対照表:
- https://www.asb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/4/lease_20240913_03.pdf)
そこで今回は、リース会計基準の新旧の主な違いを解説したいと思います。
なお、本コラムでは、借手のリースについてのみ言及することをご承知おきください。
主な違いは以下のような項目です。
1. オンバランスの判定方法
2. 少額リースの取扱い(300万円ルールの取扱い)
3. リース負債の算定方法
4. リース期間の決定方法
5. 使用権資産(リース資産)の償却方法
6. リース負債(リース債務)の見直し
オンバランスの判定方法
資産・負債計上(オンバランス)が必要となるかどうかの判定方法については、以下のような違いがあります。
A) 旧基準:
- 次の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合には、ファイナンス・リース取引と判定され、オンバランス処理が必要になります。
- (1) 現在価値基準:
- 解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、購入するものと仮定した場合の取得原価の見積額の概ね90パーセント以上であること
- (2) 経済的耐用年数基準:
- 解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数の概ね75パーセント以上であること
B) 新基準:
- 以下の2つの条件を満たす場合に、リースとして識別され、オンバランス処理が必要になります。
- (1) 特定資産:
- 契約でリースの対象になりうる資産が「特定されている」
- (2) 使用権の移転:
- 購入した時と同じように自由に使用する権利(使用権)が、使用者側に移転している
オンバランス処理を必要とする考え方が根本的に異なるので、旧基準の現在価値基準や経済的耐用年数基準は完全になくなってしまったことを理解する必要があります。
極端な話ですが、旧基準でファイナンス・リースとなってオンバランス処理していた取引でも、新基準ではオンバランス処理をすべきではない取引である可能性があるのです。つまり資産・負債の「過大計上」になることもありうるので、注意が必要です。
したがって、新基準の「特定資産」と「使用権」をしっかり理解することが大変重要なポイントです。
少額リースの取扱い(300万円ルールの取扱い)
金額的に重要性がないのでオンバランス処理をしなくてもよい取引(少額リース)については、以下のような違いがあります。
A) 旧基準:
- リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引
B) 新基準:
- 次の①又は②を満たすリースが少額リースになります。
① リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース
- ② 新品時の原資産の価値が少額であるリース
このように、新基準の適用指針の本文では、明確な金額が不明確になっています。
これについては、適用指針の「結論の背景」に、以下のような説明が記載されています。
BC41項で、旧基準における300万円以下のリースに関する簡便的な取扱いを適用している企業では、新基準でもこの300万円規準を継続することを認めることで、追加的な負担を減らすことができるという考え方を示しています。
そして、BC43項で、新基準で「リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース」というあいまいな表現は、旧基準の300万円規準を踏襲することを目的として取り入れたことが記載されています。
これは微妙な問題です。
2023年5月に公表された公開草案では、適用指針案の本文に「300万円」という金額が明記されていました。
それが、2024年9月に公表された新基準の適用指針では、本文から「300万円」という金額がなくなってしまい、「結論の背景」で触れる形式に変わっているのです。
少なくとも、「リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引」は重要性がないと言えるでしょう。
問題は、300万円を超える金額のリース取引です。
適用指針本文からあえて「300万円」という金額を表現しなかったことで、300万円を超える金額のリース取引も「少額リース」として取り扱える余地が生まれたと考えられます。
そもそも新基準の基になっているIFRS第16号では、企業によって重要性の規準が異なるという考え方が基本になっていて、いわゆる5千米ドルは、「どんな規模の企業、どんな業種の企業」であっても、「重要性がないことを証明しなくても良い金額」として説明されているのです。
つまり「免責規定」と言えるでしょう。
ということは、5千米ドルを超えても、企業にとって重要性がないことを説明できれば、「少額リース」にできるのです。
今回の日本の新基準は、IFRS第16号を基本として開発されたので、このIFRS第16号の考え方を参考にすることに問題はないと考えられます。
特に、適用指針本文から明確な金額が示されなくなったことはその証左と言えるでしょう。
リース負債の算定方法
リース負債を計上する際に、いくらの金額にするのかについて、以下のような違いがあります。
A) 旧基準:
- ちょっと複雑ですが、以下のようにケースを分けて取り扱います。
(1) 所有権移転外ファイナンス・リース:
① 貸手の購入額が明らかな場合:
リース料総額の現在価値と貸手の購入価額のいずれか低い方
② 貸手の購入額が不明な場合:
リース料総額の現在価値と見積現金購入価額のいずれか低い方
- (2) 所有権移転ファイナンス・リース:
- ① 貸手の購入額が明らかな場合:
- 貸手の購入価額
- ② 貸手の購入額が不明な場合:
- リース料総額の現在価値と見積現金購入価額のいずれか低い方
B) 新基準:
- リース料総額の現在価値
- とってもシンプルです。
- 旧基準では、リース料総額の現在価値という「負債」の側面と、購入価額という「資産」の側面を比較して、小さい方の金額をリース負債の計上額にしました。
- これに対して、新基準は、負債の側面だけでリース負債の計上額にしていると言えるでしょう。
リース期間の決定方法
リース負債の計上額を算定する上でも重要になる「リース期間」の取扱いについても、以下のような違いがあります。
A) 旧基準:
- 原則は契約上の期間(契約期間)がリース期間になります。
- ただし、再リース期間がある場合は、借手が再リースを行う意思が明らかな場合のみ、リース期間に含めます。
- また、解約オプションについては明確な定めはありませんので、実務上考慮されていないと思われます。
B) 新基準:
- 「借手のリース期間」は、解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方を加えた期間になります。
(1) 行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2) 行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
この「合理的に確実」というのは、可能性が相当程度高いことを意味していることが、適用指針の「結論の背景」に記載されています。
使用権資産(リース資産)の償却方法
リース負債の同額の金額に、取得に要した費用などを加えた金額を取得原価として計上された使用権資産(リース資産)を償却する方法についても、以下のような違いがあります。
A) 旧基準:
- ちょっと複雑ですが、以下のようにケースを分けて取り扱います。
(1) 所有権移転外ファイナンス・リース:
企業の実態に応じたものを選択適用(一般的に定額法)
(2) 所有権移転ファイナンス・リース:
自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法
B) 新基準:
- 原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算します。
- この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とします。
リース負債(リース債務)の見直し
リース負債(リース債務)を見直す必要性について、旧基準には明確な規定はありません。
新基準では、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、次のいずれかに該当するときには、リース負債の計上額の見直しを行う必要があります。
- (1) リース期間に変更がある場合
- (2) リース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合
細かい点ではほかにも相違がありますが、旧基準と新基準の主な違いは上記のようになります。
参考にされてください。