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税効果会計とは?基本的な概念と目的や手順、適用時の注意点を解説

作成者: スーパーストリーム|2023.12.26

企業を運営し、利益を上げるには、法人税やその他の所得にかかる税金を支払わなければなりません。

しかし、会計上の費用・収益と、税務上の費用(損金)・収益(益金)の額に相違がある場合には、上記のような税金の計算や支払いに差異が生じます。

税効果会計とは、このような企業会計と税務会計のズレがある場合に、法人税やその他の所得にかかる税金を適切に期間配分することによって、損益計算書の税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させる目的で行われる会計手法のことです。

本記事では、この税効果会計についての基本的な概念と目的、手順、適用時の注意点を徹底解説します。企業の経理を担当する方は、ぜひ参考にしてください。

税効果会計とは?税効果会計の重要性も解説

税効果会計とは、企業会計と税務会計のズレを調整する手続きのことです。企業会計と税務会計では、収益と費用、または益金と損金の認識時期や考え方が異なるため、その差異により生じる不整合を調整するために税効果会計が導入されています。

企業会計は、主に営利企業に適用される会計手法のことで、企業の業績を正確に把握するために収益から費用を引いて企業の利益を求めます。一方で、税務会計とは、税法の規定に従って処理する会計手法のことで、公平な課税のために行うものです。

この税効果会計は、すべての企業に適用が義務付けられているものではありません。税効果会計の適用義務があるのは、主に上場企業や金融商品取引法の適用を受けている非上場企業、そして会社法上の大企業となっています。

税効果会計を導入することで得られるメリットには、当期純利益を正確に把握できることや、経営指標を健全化できる点、企業のステークホルダー(利害関係者)に正確な財務情報を開示できる点などが挙げられます。

税効果会計の重要性

税効果会計は、企業会計において非常に重要な役割を果たします。これは、会計上の利益と税務上の課税所得の違いから生じる税金の差異を調整し、財務諸表に正確に反映させるためのものです。

税効果会計を適用することで、以下のようなメリットがあります。

  • 正確な当期純利益の把握ができる
  • 経営指標を健全化できる
  • 利害関係者(ステークホルダー)への正確な情報開示ができる
上記の3つのメリットは次の項で解説します。

税効果会計は、大企業や上場企業においては必須の会計処理となっています。これは、税法と会計基準の違いによって生じる一時差異や永久差異を適切に処理し、企業の財務諸表が実際の経済活動を正確に反映するようにするためです。また、国際的な会計基準に準拠するためにも、税効果会計は不可欠です。

税効果会計の適用には、会計基準と税法の知識が必要で、適切な計算と処理が求められます。企業は、税効果会計を通じて、将来の税金負担に対するリスクをより適切に評価し、リスクマネジメントの戦略を構築することができます。

以上の点から、税効果会計は企業の財務戦略において中心的な役割を担い、企業の持続可能な成長と透明性のある経営に貢献する重要な会計手法であると言えるでしょう。

税効果会計の目的とメリット3つ

税効果会計の目的は、企業会計上の費用・収益と税務会計上の損金・益金の差異を合理的に調整することです。

具体的には、以下のような目的とメリットがあります。

1.当期純利益を正確に把握できる

税効果会計を適用することで、税引前当期純利益と法人税等の税金費用を合理的に対応させることが可能になり、実際の業績を反映した、会計上正確な当期純利益を把握できます。

2.経営指標を健全化できる

税効果会計では「繰延税金資産」という勘定科目を用いて、会計上と税務上のズレを解消します。これにより、自己資本が増加し、決算書の数字では利益が確保されます。

また、自己資本比率が高いほど企業経営が安定しているとみなされるため、経営指標の健全化にも役立ちます。

3.ステークホルダーに正確な財務情報を開示できる

税効果会計によって企業の正確な利益を示すことは、ステークホルダーへの適切な情報開示につながります。これにより、金融機関や投資家などの利害関係者は、企業の経営状況を主に決算書で確認することが可能となります。

税効果会計の適用対象企業

税効果会計を適用する義務がある企業は以下の通りです。

上場企業

上場企業とは、公開市場で株式を取引している企業のことです。上場企業の財務情報は、多くの投資家にとって重要な意味を持つため、税効果会計の適用が義務付けられています。

金融商品取引法の適用を受けている非上場企業

金融商品取引法の規制を受けている非上場企業も、その財務情報が投資家にとって重要であるため、税効果会計の適用が義務付けられています。

会計監査人を設置している企業(非上場企業を含む)

会計監査人を設置している企業も、その財務情報の信頼性を確保するために、税効果会計の適用が必要とされています。

なお、非上場の中小企業については、税効果会計の適用が強制されていません。ただし、親会社などの会計方針に合わせる観点から、親会社が税効果会計を適用している場合、子会社や持分法対象の関連会社は中小企業であっても同じように適用するのが望ましいとされているため注意が必要です。

税効果会計の基本的な手順3つ

税効果会計の手順は以下の通りです。

1.一時ズレを集計する

まずは、会計上の収益・費用と、税務上の益金・損金を確認し、一時ズレを集計します。

2.繰延税金資産を算出する

一時ズレの集計が完了したら、次は、集計した一時ズレの額に法定実効税率を掛けて、繰延税金資産や繰延税金負債の額を計算します。

3.税効果会計上の仕訳をする

繰延税金資産や繰延税金負債の算出ができたら、税効果会計上の仕訳を行います。

税効果会計のキーポイント1.一時差異と永久差異の違いを理解する

税効果会計は、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の額が異なる場合に、その差異を調整して適切に期間配分する手続きを指します。

この差異には「一時差異」と「永久差異」の2種類があるため、以下でその違いを解説します。

一時差異とは?

一時差異は、会計の認識や計上の時期にずれが出ることにより発生する差異であり、将来的に解消される見込みがあるものを指します。具体的には、将来解消されたタイミングで、課税所得が減る「将来減算一時差異」と逆に課税所得が増える「将来加算一時差異」の2つに分類されます。

例えば「将来減算一時差異」の例としては、貸倒引当金がある場合や退職給付引当金等の引当金で、損金算入限度超過額がある場合などです。

また「将来加算一時差異」の例としては、利益処分によって、租税特別措置法上の諸準備金等を計上した場合や連結会社相互間の債権と債務の消去によって、貸倒引当金を減額した場合などがあります。

永久差異とは?

一方、永久差異とは、会計上と税務上の費用と収益の計上基準の違いが、そもそも異なることにより発生する差異です。会計上と税務上の考え方自体が異なるため、一時差異とは違い将来的に解消される見込みがないのが特徴です。

例えば、「永久差異」の例としては、交際費の損金不算入や受取配当金の益金不算入などが該当します。これらは将来的に解消される見込みがないため、一時差異とは異なり税効果会計の適用対象にはなりません。

税効果会計のキーポイント2.繰延税金資産と繰延税金負債を理解する

繰延税金資産と繰延税金負債は、税効果会計の中核的な概念であり、会計上の利益と税法上の課税所得の間の一時的な差異を調整するために使用されます。

以下では、それぞれの違いについて解説します。

繰延税金資産とは?

繰延税金資産は、将来の課税所得を減少させる一時差異(将来減算一時差異)がある場合に計上されます。これは、将来の税負担を軽減する効果を資産として認識するものです。

例えば、会計上の減価償却が税法上の減価償却よりも早い場合、その差額は将来の税金の支払いを減らすため、繰延税金資産として計上されます。ただし、繰延税金資産は回収可能性を検討する必要があり、将来回収できると合理的に見込まれる場合にのみ計上されます。

繰延税金負債とは?

繰延税金負債は、将来の課税所得を増加させる一時差異(将来加算一時差異)がある場合に計上されます。これは、将来の税金の支払いを増やす効果を負債として認識するものです。

例えば、税法上の減価償却が会計上の減価償却よりも遅い場合、その差額は将来の税金の支払いを増やすため、繰延税金負債として計上されます。繰延税金負債は、将来の税金の支払いが見込まれる場合にのみ計上されます。

相殺表示とは?

繰延税金資産と繰延税金負債は、貸借対照表上で相殺して表示されることがあります。これは、流動項目の繰延税金資産と繰延税金負債が相殺され、どちらか一方のみが表示される場合があるためです。

なお、繰延税金資産は「投資その他の資産」に、繰延税金負債は「固定負債の部」に分類されるのが一般的です。

これらの違いを理解することは、税効果会計において企業の財務状態を正確に把握し、適切な財務戦略を立てるために不可欠です。繰延税金資産と繰延税金負債は、税法と会計基準の違いによって生じる一時差異を管理し、財務諸表の透明性を高めるために重要な役割を果たします。

税効果会計の適用時の注意点4つ

税効果会計は、会計上の収益・費用と税務上の益金・損金の認識時点が異なる場合に、その差異を調整して適切に期間配分する手続きを指します。

以下では、税効果会計を適用する際の主な注意点をまとめます。

1.実効税率と表面税率(法定実効税率)の違いに注意する

注意したいのは、表面税率(法定実効税率)と税効果会計の計算で使用する実効税率は異なることです。税制改正などで企業の規模や所在地が変わらなくても、実効税率が変化することもあるので注意しましょう。

2.繰延税金資産と繰延税金負債の使い分けに注意する

税効果会計の対象となるのは一時差異だけですから、その差異は将来必ず解消するのが前提です。そして前述したように、解消期に課税所得、つまり法人税の課税対象額が減額するものを「将来減算一時差異」といい、繰延税金資産として計上します。逆に、一時差異が解消したら、その期の法人税の課税対象額が増額するものを「将来加算一時差異」といい、繰延税金負債、つまり未払税金費用として計上します。

3.回収可能性を考慮する

差異があるから必ずしも認められるわけではなく、将来減算一時差異は、回収可能性がないと資産計上できません。課税所得の十分性なども考慮する必要があります。

課税所得の十分性とは、企業の通常の事業活動から、将来減算一時差異、税務上の繰越欠損金を解消できるだけの課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断することを指します。つまり、企業が将来的に課税されることが予想される所得が、現在の事業活動から十分に見込まれるかどうかを判断することです。

4.法人税等調整額を計上する

繰延税金資産と繰延税金負債の差額を期首と期末で比較した増減額を法人税等調整額として損益計算書に計上することで、会計上の利益と税務上の課税所得を調整します。

法人税等調整額の計算方法

法人税等調整額は、企業会計の利益と税務会計の課税所得の相違を調整するためのものです。この調整額は、一時差異の金額に実効税率をかけて求めます。

以下で、法人税等調整額の計算方法を解説します。


一時差異の把握

会計上の利益と税務上の課税所得の間に生じる一時差異を特定します。一時差異とは、将来的に課税所得に影響を与える項目で、例えば減価償却費や退職給付引当金などが該当します。

実効税率の適用

把握した一時差異に対して、法定実効税率を掛けます。実効税率とは、法人税率に地方税などの税率を加味した税率で、実際に企業が負担する税率を反映するのが一般的です。

法人税等調整額の計算

一時差異に実効税率を掛けた結果が法人税等調整額です。この額は、損益計算書において「法人税、住民税及び事業税」の後に表示され、法人税等に対する調整額を示します。

例えば、会計上の利益が100万円で、実効税率が30%の場合、法人税等は100万円×30%で30万円となります。しかし、一時差異がある場合、この計算だけでは実際の法人税等の額とは異なるため、法人税等調整額を計上して差額を調整します。
計算例

  • 一時差異が10万円の減少効果を持つ場合(繰延税金資産が増加する場合)、法人税等調整額は10万円×30%で3万円のマイナスとして計上されます。
  • 一時差異が10万円の増加効果を持つ場合(繰延税金負債が増加する場合)、法人税等調整額は10万円×30%で3万円のプラスとして計上されます。

このように、法人税等調整額は、一時差異と実効税率を用いて計算され、企業の財務諸表における税金の正確な期間配分を実現するために重要な役割を果たします。

税効果会計の事例

税効果会計の事例については、以下のようなものがあります。

税効果会計の事例1

ある企業が1年度の収益を500、費用を400とした場合、その費用400には税務会計上の費用として認められない長期滞留在庫の評価損100が含まれています。なお、税務会計上で認められる損金は300です。

翌2年度の収益は500、費用は300とし、前年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄したため、前年度に発生したズレが解消され、100が損金として認められます。

この場合、税率が40%だとすると、税効果会計を適用することで、企業会計上の利益と税務上の利益の差異を調整することができます。

税効果会計の事例2

貸倒引当金に関する処理も税効果会計の適用例です。企業会計上では、取引相手が倒産して売掛金の回収ができなくなるリスクに備えて費用計上されますが、税務会計上では回収ができなくなるまで損金計上は認められていません。このような差異を税効果会計によって調整し、企業の真の利益を明確にすることができます。

税効果会計の事例3

企業が固定資産を購入し、会計上は減価償却を行いますが、税法上の減価償却方法が異なるため、会計上の利益と税務上の利益に差異が生じます。この一時的な差異は将来の税金の負担を反映した繰延税金負債として計上されます。

税効果会計の事例4

ある企業が研究開発費を投じた場合、会計上はその年度の費用として全額計上することができますが、税法上は研究開発費の一部しかその年度の損金として認められないことがあります。このような場合、会計上の費用と税務上の損金の間に一時的な差異が生じ、繰延税金資産が計上されることになります。

税効果会計の事例5

企業が海外子会社を保有しており、その子会社が赤字を出した場合、国内の親会社はその赤字を利益と相殺することができません。しかし、将来その子会社が利益を出したときに、その赤字を利用して税金を節約できる可能性があるため、繰延税金資産として計上することができます。

このような税効果会計の事例は、会計上の利益と税務上の利益の間に生じる一時的な差異が、繰延税金資産や繰延税金負債としてどのように計上されるかを示すものです。

また、税効果会計は、企業の財務諸表が実際の税負担を正確に反映するようにするために非常に重要なものです。

適切な税効果会計は、投資家やその他のステークホルダーに対して、より透明性の高い情報を提供するのに役立ちます。

税効果会計のまとめ

このように、税効果会計とは企業会計と税務会計のズレを調整し、一会計期間における損益を適切に算定する手続きのことです。

企業会計は主に営利企業に適用される会計で、企業の業績を正確に把握するために、収益から費用を引いて企業の利益を求めます。一方で、税務会計とは、税法の規定に従って処理する会計のことで、公平な課税のために行うものです。

このような複雑な会計処理には、クラウド会計システムが欠かせません。クラウド会計システムは、税効果会計のプロセスを自動化し、効率化する役割を果たします。

クラウド会計システムは、一時差異の追跡して企業会計と税務会計間の一時差異を追跡し、それらが解消されるタイミングを特定します。また、繰延税金資産や負債の計算、法人税などの調整額の計上も効率化することが可能です。

適切なクラウド会計システムを使用することで、企業は税効果会計のプロセスを効率的に管理し、正確な財務報告を作成できます。

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