基礎からのIFRS講座
アクタス社会保険労務士法人
A1:IFRSは、「国際的に共通した会計基準」として作られたものですが、日本基準との比較上、IFRS基準書全体に共通する、いくつかの大きな特徴があります。
原則主義(プリンシプル・ベース)IFRSは、財務報告に関する原理・原則を明らかにするとともに、例外規定は極力認めず、その解釈や運用は、企業の 判断に任せる考え方です。一方、日本基準は、詳細で具体的な規定や数値基準を設ける対照的な「細則主義(ルール・ベース)」と云う考え方で、制定されています。
資産・負債アプローチIFRSは、資産・負債の評価とその差額としての純資産、つまり、財政状態計算書に計上されている財産価値を重視しています。その財産価値の、会計期間の期首から期末までに増加した(または減少した部分を利益(または損失)として認識します。利益算出の考え方を「資産・負債アプローチ」と云います。そしてこの認識された利益は「包括利益」と呼ばれています。
従来の日本基準では、収益から費用を差し引いた利益を重視し、その計上された純利益の結果、純資産が増加すると云う考え方で、これを「収益・費用アプローチ」と云います。
IFRSでは、将来の経済的便益の提供能力の算定と云う考え方から、公正価値による評価が重視されます。公正価値は、「・・・・・当事者間で資産が交換され、負債が決済される価額」と定義されますが、平たく云えば、「時価」を指しますが、IFRSでは、資産や負債の公正価値変動額が「包括利益」の一部を構成しますので、「資産・負債アプローチ」と資産・負債の公正価値評価と包括利益の算定には密接な関係があります
その他、財報告における経営管理区分(セグメント)を重視した「セグメント・アプローチ」(日本基準でもセグメント情報に採用済み)、財務情報の比較可能性の重視、形式より実質(実態)を優先して、企業の経済的実態をを明らかにしようとしている考え方等がIFRS基準書全体に共通する特徴となっています。
IFRSの主な特徴
A2:原則主義は、原理・原則のみを会計基準にしておくという考え方であり、判断を要する場合に、立ち戻るべき原理・原則を明確にし、例外を極力作らない考え方で基準が作られています。
一方、日本基準や米国基準は、実務対応報告や適用指針などのガイダンスにより、数値基準や例外規定など、会計基準を補足する詳細なルールによって構成されています。これを細則主義(ルール・ベース)と云います。
このようにIFRSでは、詳細な運用ルールが網羅的に規定されているわけではないので、企業は、IFRSが規定する原理・原則を踏まえた上で、実務上、どのように適用していくかの判断が求められることになります。その際には、取引の実態や企業の状態を正確に表すために最適な会計処理を考える必要があり、法的形式などにとらわれずに、取引の実質を見極めて判断していくことになります。このことを「実質重視主義」と云います。
企業は、こうして決定した会計処理などの採用根拠や判断基準には、合理的な説明ができるようにしておかなければなりません。財務報告の中で、明確に説明する「説明責任」を負わされているからです。
なお、具体的な会計処理を決定する場合、会計基準に記載されていない内容について、IFRSの原理・原則に立ち返る際によりどころとなるのが「概念フレームワーク」です(本稿では第4回で取り扱います)。また、IFRSでは、SICやIFRICによって公表された解釈指針がありますが、この中でも数値基準等の詳細な規定はないことに留意しなければなりません。