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資産除去債務と税効果会計の考え方と仕組み、仕訳例をわかりやすく解説

資産除去債務と税効果会計の考え方と仕組み、仕訳例をわかりやすく解説

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資産除去債務とは、固定資産の除却に伴って発生する将来の支出義務のことです。例えば、建物を建てたときに、将来その建物を解体するときにかかる費用を見積もっておく必要があります。この見積もり額を資産除去債務と言います。

資産除去債務は、固定資産の取得時に発生するため、その時点で費用計上するのが原則です。しかし、その費用は将来の出来事に基づくため、不確実性が高く、正確に計算するのは困難です。

そこで、税効果会計の考え方を用いて、資産除去債務の計算や仕訳の方法を決めることになります。税効果会計とは、会計上と税法上での差額(一時的差額)を調整するための会計処理のことです。

税効果会計の適用によって資産除去債務の費用計上や減損処理などが変わるため、資産除去債務と税効果会計は固定資産の会計処理において重要なテーマですが、難解で理解しにくいものでもあります。

そこで今回は、資産除去債務と税効果会計の考え方と仕組み、仕訳例をわかりやすく解説します。企業の会計業務に携わる方は、ぜひ参考にしてください。

資産除去債務とは?会計処理の概要と税効果会計の必要性を解説

資産除去債務とは、有形固定資産の取得や使用によって生じる通常の使用の結果、固定資産の除去に関する法律上の義務で、法令や契約で要求されるものです。例えば、賃貸不動産の原状回復費用や原子力発電所の廃炉費用などが該当します。

一方、税効果会計とは、企業会計と税務会計のズレを調整し、損益を算定する手続きのことです。企業会計と税務会計では、収益や費用、益金や損金の認識時期や計算方法が異なるため、会計上の利益と税法上の課税所得に差異が生じます。この差異を税効果会計で調整することで、税引前当期純利益と法人税等の税金費用を合理的に対応させることができます。

資産除去債務の会計処理の概要

資産除去債務の会計処理の概要は以下のとおりです。

  • 資産除去債務は、その時点の割引現在価値で負債として計上します。割引率は、資産除去債務の性質や期間に応じたものを使用します。
  • 資産除去債務を負債として計上する際は、その相手勘定科目として、計上した負債と同額を、対象の有形固定資産の帳簿価額に加算します。これにより、資産除去債務に係る除去費用を減価償却により使用期間の各期に配分します。
  • 時間の経過に伴い、資産除去債務の現在価値は増加します。この増加分は、利息費用として損益計算書に計上し、資産除去債務の残高に加算します。
  • 資産除去債務の履行時には、実際に支払った除去費用と資産除去債務の残高との差額を、除去費用にかかる費用配分と同じ区分で損益計算書に計上します。

資産除去債務の税効果会計の必要性

資産除去債務の税効果会計の必要性は以下のとおりです。

 

  • 資産除去債務の会計処理は、法人税法では認められません。法人税法では、資産除去債務に対応する除去費用は、実際に除去した時点で損金として認められます。これにより、会計上の利益と法人税上の所得に差異が生じます。
  • この差異は、一時差異と呼ばれるもので、将来の税金の負担に影響します。一時差異は、将来減算一時差異と将来加算一時差異に分類されます。将来減算一時差異は、将来の所得を減らすもので、繰延税金資産として計上されるものです。一方、将来加算一時差異は、将来の所得を増やすもので、繰延税金負債として計上されます。
  • 資産除去債務では、将来減算一時差異と将来加算一時差異の両方が発生します。将来減算一時差異は、資産除去債務に対応する除去費用が、会計上は負債計上されているのに対し、法人税上は除去時に損金となることによるものです。一方、将来加算一時差異は、資産除去債務の分だけ取得原価が増えることにより、会計上の減価償却費が法人税上の減価償却費を上回ることによります。
  • 税効果会計とは、一時差異に対応する将来の税金の負担を現在の財務諸表に反映させる会計処理です。税効果会計を行うことで、資産除去債務による税負担のタイミング差を適切に表現できます。また、税効果会計を行うことで、資産除去債務に関する情報の透明性や比較可能性が向上します。

このように、資産除去債務の会計処理においては、税効果会計の考え方が必要となるのです。

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資産除去債務の計算方法

次に、資産除去債務の計算方法について解説します。

資産除去債務の計上時点と見積もり方法

資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって発生した時点で負債として計上します。その際に、有形固定資産の除去に要する費用を見積もります。

この見積もりは、合理的で説明可能な仮定や予測に基づく自己の支出見積りによるもので、除去に直接必要な作業や、処分に至るまでの保管や管理のために必要な費用も含めることが可能です。ただし、見積もりは、将来のキャッシュ・フローの現在価値に相当するものでなければなりません。

資産除去債務の割引率の決定方法

資産除去債務の割引率は、資産除去債務の性質や期間に応じたものを使用します。

具体的には、以下の方法があります。

  • 資産除去債務の発生時に、市場で取引されている同等の債務の利率を使用する。
  • 資産除去債務の発生時に、市場で取引されている同等の債務の利率が存在しない場合は、市場で取引されている類似の債務の利率に、資産除去債務の特性に関する調整を加えて使用する。
  • 資産除去債務の発生時に、市場で取引されている同等の債務の利率も類似の債務の利率も存在しない場合は、自己の資金調達費用に、資産除去債務の特性に関する調整を加えて使用する。

資産除去債務の時の経過による増加額の計算方法

資産除去債務は、時の経過によって現在価値が増加します。この増加分は、利息費用として損益計算書に計上し、資産除去債務の残高に加算します。

利息費用の計算方法は、以下のとおりです。

  • 資産除去債務の利息費用=期首の資産除去債務の帳簿価額×当初負債計上時の割引率

資産除去債務の会計処理の具体例

以下では、資産除去債務の会計処理を具体事例を挙げながら解説します。

具体的事例として、以下の条件を仮定します。

  • 会社の決算期は3月
  • 減価償却方法は定額法、残存価額はゼロと仮定
  • R6年4月に固定資産(建物)を取得し、使用を開始
  • 取得価額(10,000,000円)
  • 資産除去債務の見積り額(500,000円)
  • 5年後のR11年3月に契約が終了する
  • 割引率は2%とする

以下は、時系列ごとの仕訳の事例です。

資産除去債務の計上時(R6年4月)の仕訳

資産除去債務は、その時点の割引現在価値で負債として計上します。割引率は、資産除去債務の性質や期間に応じたものを使用するのが原則です。

資産除去債務を負債として計上する際は、その相手勘定として、計上した負債と同額を、対象の有形固定資産の帳簿価額に加算します。これにより、資産除去債務に係る除去費用を減価償却により使用期間の各期に配分します。

具体的な仕訳は以下のとおりです。

借方

貸方

固定資産

10,452,865

現金および預金

10,000,000

   

資産除去債務

452,865

資産除去債務の時の経過による増加額の仕訳(R9年3月の場合)

資産除去債務は、時の経過によって現在価値が増加します。この増加分は、利息費用として損益計算書に計上し、資産除去債務の残高に加算します。

利息費用の計算方法は、以下のとおりです。

  • 資産除去債務の利息費用=期首の資産除去債務の帳簿価額×当初負債計上時の割引率

具体的な仕訳は以下のとおりです。

借方

貸方

減価償却費

2,090,573

減価償却累計額

2,090,573

利息費用

9,423

資産除去債務

9,423

資産除去債務の履行時の仕訳(R11年3月)

資産除去債務の履行時には、実際に支払った除去費用と資産除去債務の残高との差額を、除去費用にかかる費用配分と同じ区分で損益計算書に計上します。この差額を履行差額といいます。

具体的な仕訳は以下のとおりです。ここでは、実際に支払った除去費用が520,000円だったと仮定します。

借方

貸方

減価償却累計額

10,452,865

固定資産

10,452,865

資産除去債務

500,000

現金

520,000

除去費用

20,000

   
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資産除去債務の税効果会計の実務論点について

以下では、資産除去債務の税効果会計の実務論点について解説します。

資産除去債務に対応する除去費用の税効果

資産除去債務に対応する除去費用とは、資産除去債務を負債として計上する際に、対象の有形固定資産の帳簿価額に加算される金額のことです。

この金額は、資産除去債務に係る除去費用を減価償却により使用期間の各期に配分するために必要です。

資産除去債務に対応する除去費用の税効果は、以下のとおりです。

  • 資産除去債務に対応する除去費用は、会計上は有形固定資産の取得原価に含まれますが、法人税法では認められません。したがって、資産除去債務に対応する除去費用の分だけ、会計上の減価償却費が法人税上の減価償却費を上回ります。これにより、将来加算一時差異が発生します。
  • 将来加算一時差異は、将来の所得を増やすもので、繰延税金負債として計上されます。繰延税金負債は、資産除去債務の計上時点で一括して計算されます。その際は、資産除去債務の計上時点での法定実効税率を適用します。
  • 繰延税金負債は、減価償却に伴って、毎期の法人税等調整額として損益計算書に計上されます。その際、資産除去債務の計上時点での法定実効税率を適用します。ただし、法定実効税率が変更された場合は、変更後の税率を適用します。

資産除去債務の回収可能性の判断基準

資産除去債務の回収可能性とは、資産除去債務に対応する除去費用が、将来のキャッシュフローによって回収されるかどうかを判断することです。

資産除去債務の回収可能性の判断基準は、以下のとおりです。

  • 資産除去債務の回収可能性の判断は、資産除去債務の計上時点で行います。その際、資産除去債務に対応する除去費用が、対象の有形固定資産の回収可能額を超えるかどうかを確認します。回収可能額とは、有形固定資産の使用価値と正味売却価額のうち高い方のことです。
  • 資産除去債務に対応する除去費用が、回収可能額を超える場合は、その超過分を減損損失として損益計算書に計上します。減損損失の計上に伴って、資産除去債務に対応する除去費用の帳簿価額を減額します。
  • 資産除去債務に対応する除去費用が、回収可能額を超えない場合は、減損損失は計上しません。ただし、回収可能額が資産除去債務に対応する除去費用の帳簿価額よりも低い場合は、回収可能額に減額します。

資産除去債務の減損処理の税効果

資産除去債務の減損処理とは、資産除去債務の回収可能性の判断に基づいて、資産除去債務に対応する除去費用の帳簿価額を減額することです。

資産除去債務の減損処理の税効果は、以下のとおりです。

  • 資産除去債務の減損処理は、会計上は減損損失として損益計算書に計上しますが、法人税法では認められません。したがって、資産除去債務の減損処理の分だけ、会計上の利益が法人税上の所得を下回ります。これにより、将来減算一時差異が発生します。
  • 将来減算一時差異は、将来の所得を減らすもので、繰延税金資産として計上されます。繰延税金資産は、資産除去債務の減損処理の時点で一括して計算されます。その際、資産除去債務の減損処理の時点での法定実効税率を適用します。
  • 繰延税金資産は、資産除去債務の履行時に、実際に支払った除去費用と資産除去債務の残高との差額(履行差額)として損益計算書に計上されます。その際、資産除去債務の減損処理の時点での法定実効税率を適用します。ただし、法定実効税率が変更された場合は、変更後の税率を適用します。

資産除去債務と税効果会計のまとめ

このように、資産除去債務の処理は複雑で、資産除去債務の見積もりや割引率の決定には、不確実性や主観性が関わります。また、資産除去債務に対応する除去費用の帳簿価額や資産除去債務の残高は、時の経過によって変動するものです。さらに、資産除去債務の会計処理と法人税法の処理には、大きな差異があります。これらの差異を税効果会計で調整するには、一時差異の種類やスケジューリングの判断が必要です。

したがって、資産除去債務と税効果会計の処理を正確に行うためには、クラウド会計システムの導入がおすすめです。クラウド会計システムを使うことで、資産除去債務の計算や仕訳、繰延税金資産や繰延税金負債の計上や振替、財務諸表の作成などが、効率的に行えます。また、クラウド会計システムは、資産除去債務の情報を管理しやすくし、会計監査や情報開示にも対応可能です。

資産除去債務と税効果会計の処理は、難解で複雑なものですが、クラウド会計システムを使うことで、正確かつ効率的に行うことができます。

そこで、もし自社に必要なクラウド会計システムの種類や選び方がわからない場合には、いつでもキヤノンITソリューションズにご相談ください。貴社に適したソリューションを提供いたします。

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