会計・人事を変える。もっとやさしく、もっと便利に、もっと楽しく

新リース会計基準対応を生成AIで乗り切る 第1回:生成AIに「リースの識別」について聞いてみよう!

新リース会計基準対応を生成AIで乗り切る 第1回:生成AIに「リースの識別」について聞いてみよう!

 中田 清穂(なかた せいほ)

最近の生成AIの進歩は目覚ましく、経理業務においても有効な使い方ができるようになったと感じています。いろいろな経理業務の局面でも実際に使われているようです。
特に、昨年公表された新リース会計基準については、基準の文章がわかりにくく、理解できないという方も多く、また、まだ適用されていないため、事例もない中での対応が必要であり、こういった困難な状況で生成AIを有効に使えたら、実務において頼もしい存在になるでしょう。

そこで、これから3回にわたって、実際に私が生成AIを利用して、新リース会計基準への対応を少しでも円滑にできるような使い方を示していきたいと思います。

今回は、「リースの識別」について、生成AIを利用してみましょう。
利用する生成AICopilotです。

【中田】
新リース会計基準における「使用権」について説明してください。 

Copilot
新基準では、リース契約により得られる資産の使用権を、借手が資産として認識することが求められます。
つまり、リース契約によって得られる“使用する権利”そのものが資産とみなされるのです。

背景と目的

- 従来のオペレーティング・リースでは、貸借対照表に資産・負債を計上しないケースが多く、財務の透明性に課題がありました。

- 新基準では、ほぼすべてのリースをオンバランス化することで、企業のリース活動をより正確に財務諸表に反映させることが目的です。 

こんな回答内容では、新リース会計基準において、とても重要で会計基準の中心概念である「使用権」についての理解を深めるには役立ちませんね。

そこで、追加の質問をしてみます。

【中田】
ありがとうございます。
しかし、ご説明にある「リース契約によって得られる“使用する権利”」がよくわからないのです。

「借りたものであれば、どんな制限があっても使うことができれば、“使用する権利”があるということになるのですか? 

Copilot
とても鋭いご質問です。
実は「使用する権利(Right-of-Use)」という概念は、単に「使えるかどうか」だけではなく、**契約上のコントロール(支配)**があるかどうかが重要な判断基準になります。


「使用する権利」は“使える”だけでは足りない

新リース会計基準では、借手が「使用する権利」を持っていると認識されるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります:

① 資産の使用をコントロールできること
- 借手が使用方法や目的を決定できる(例:いつ、どこで、どのように使うか)
- 他者がその使用を制限できない(貸手が細かく指示する場合は要注意

② 経済的便益を享受できること
- 使用によって得られる利益や効用を借手が受け取る(例:製品の製造、サービス提供など)


例で考えてみましょう

使用権があるケース

借手が倉庫を借りて、自社の製品保管に使う。
契約期間中は借手が自由に使え、貸手は干渉しない。
→ 借手は「使用方法を決定」し、「経済的便益を享受」しているため、使用権資産を認識します。


使用権がないケース

借手が機械を借りるが、貸手が常に操作し、借手は使い方を指示できない。
借手は成果物だけを受け取る。
→ 借手は「使用方法をコントロールしていない」ため、使用権資産として認識しない可能性があります。


清穂さんのご質問に戻ると…
「借りたものであれば、どんな制限があっても使うことができれば、“使用する権利”があるのか?」
答えは **「制限の内容による」**です。
単に使えるだけではなく、その使い方を自ら決定できるかどうかが鍵です。

たとえば、貸手が「この機械は毎日9時〜17時にこの作業だけに使ってください」と細かく制限している場合、借手が実質的にコントロールしていないと判断される可能性があります。 

かなり的確に答えていると思います。
ちょっと気になるのは、赤字で下線を引いた「貸手が細かく指示する場合は要注意」という部分です。
このような内容は、新リース会計基準にはないと思います。
新リース会計基準の内容を、他のサイトなどを参考にしている表現なのかもしれません。

ただ、まだはっきりと理解できるレベルではないと感じます。

そこでさらに突っ込んでみましょう。

【中田】
ありがとうございます。
しかし、ご説明にある「細かく制限している場合、借手が実質的にコントロールしていない」という部分の「細かく」というのは、どのくらいの細かさなのかが明確ではありません。
新リース会計基準にも、これについての表現は見当たらないように思います。

日本の新リース会計基準の元になっている、IFRS16号には、「使用権」について、もっと胸落ちする表現はないでしょうか。 

Copilot
ご指摘の通り、「細かく制限している場合」という表現は曖昧で、実務上の判断に迷いが生じやすい部分です。
清穂さんのように契約条項のニュアンスに敏感な方にとっては、IFRS16号の原文に立ち返ることが、より納得感のある理解につながると思います。

IFRS16号における「使用権」の定義と支配の判断

IFRS16号では、リースの定義に関して、**「識別可能な資産の使用を支配する権利」**という表現が用いられています。
特に注目すべきは、**付録BAppendix B**の「リースの識別」に関するガイダンスです。


支配(control)の判断基準:IFRS16 Appendix B9B30より

以下の2つの条件を満たす場合、借手は資産の使用を支配していると判断されます:
- 資産の使用から生じるほぼすべての経済的便益を借手が享受すること
- 資産の使用方法を決定する権利を借手が有していること

この「使用方法の決定権」について、IFRS16では以下のような具体的な例示があります:
- 借手が資産の運用上の意思決定(例:稼働時間、用途、順序)を行えるかどうか
- 資産の設計が借手の仕様に基づいており、貸手が実質的に関与できない場合は、借手が支配しているとみなされる
- 一方で、貸手が資産の使用方法を契約上または実質的に決定している場合は、借手は支配していない

つまり、「細かく制限している」とは、借手が資産の使い方について実質的に選択肢を持たないほどに、貸手が使用方法を決定している状態を指します。

 

清穂さんの疑問に対する胸落ちする表現

IFRS16号の中でも特に腑に落ちるのは、以下のような考え方です:
“契約が借手に資産の使用方法を決定する権利を与えていない場合、その契約はリースではない。”

この一文は、「使えること」と「使い方を決められること」は別物であるという本質を突いています。

黄色のマーカーを引いた部分「IFRS16号の原文に立ち返ることが、より納得感のある理解につながると思います。」は重要なポイントです。

皆さん参考にしてください。

ただ、やっぱりまだ胸落ちするほどの理解が得られていません。
実は、私はIFRS16号を読み込んでいくうちに「そうか、そういうことか」と胸落ちした条文があります。
それはIFRS16号のBC105項の以下の条文です。 

IFRS16号は、顧客が特定された資産の使用を一定期間(所定の使用量によって決定される場合もある)にわたり支配するのかどうかに基づいて、リースを定義している。

顧客が特定された資産の使用を一定期間にわたり支配する場合には、当該契約はリースを含んでいる。

顧客が資産の使用に関する重要な決定を、自らが使用する所有資産に関して決定を行うのと同様の方法で行う場合には、これに当てはまる。

そのような場合、顧客(借手)は資産を使用する権利(使用権資産)を獲得しており、それを貸借対照表に認識すべきである(ただし、IFRS16号の第5項における認識の免除の適用がある)

これと対照的に、サービス契約では、サービスの提供に使用される資産の使用を供給者が支配している。 

赤字で下線を引いた部分「自らが使用する所有資産に関して決定を行うのと同様の方法で行う」部分が非常に重要です。
つまり、「借りたものでも、自分で買って所有している資産と同じように使い方を決められる状態」が「支配している状態」ということです。

これが新リース会計基準の根本概念です。

買ってないから自分のものでもない、ただ借りただけのものなのに、貸借対照表に資産として計上する根拠がここに示されているのです。

残念なことに、このあとCopilot君に質問を変えても、IFRS16号のBC105項まではたどり着いてはくれませんでした。

新リース会計基準への対応において、生成AIを利用するポイントは、

  1. 1. まずは漠然とした内容でも良いから、問いかける。
  2. 2. 生成AIからの回答を見て、より具体的な説明が欲しい部分について追加質問をする。
  3. 3. 生成AIの回答内容に、会計基準のパラグラフ番号が明記されていないときには、これを求める。

こんな感じでしょうか。

生成AIに聞いてもわからないことがあれば、私のコラムやセミナー講演を参考にしていただけると、もう少しお役に立てるかもしれません。

無料ダウンロード

関連記事