公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
棚卸資産は、原価と正味実現可能価額との いずれか低い額により測定しなければならない。 |
そして、同28項は、評価減を実施する例として以下の項目をあげています。
これらはいずれも、取得原価のままでは「その販売又は利用によって実現すると見込まれる額を超えて評価」することになってしまうケースに当たります。
良く見ると、この中には、いわゆる「滞留による場合」が示されていません。
日本の企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の第9項には、滞留している棚卸資産について明文規定があります。
企業会計基準第9号の第9項では、正味売却価額を合理的に算定することが困難な場合には、以下の二つの方法で処理することを認めています。
滞留月数が、 3ヶ月を超えると50%評価減 6か月を超えると90%評価減 12か月を超えると100%評価減 を実施する。 |
といったような内容で、規則的に帳簿価額を切り下げるものです。
日本の企業では、非常に多く採用されていると思われます。
しかし、冒頭に説明した通り、IAS第2号「棚卸資産」では、滞留を原因とする評価減の規定はありません。
したがって、現在IFRSの導入を検討している企業では、いわゆるAgingによる規則的な滞留資産の評価減が、IFRSでは認められないと解釈して、IFRSを適用して財務報告をする場合には、滞留を原因とする評価減は行わないとするグループ会計方針を策定しているケースがあるようです。
ここで、IFRSでは滞留を原因とする評価減は本当に認められないのか、ということについて検討します。
確かに、IAS第2号第9項には、「原価と正味実現可能価額とのいずれか低い額」で評価するように求めていますが、より重要なのは、『資産はその販売又は利用によって実現すると見込まれる額を超えて評価すべきではない』という考え方です。
したがって、滞留しているという事実が、「販売又は利用によって実現すると見込まれる額」が低下していることの兆候であるならば、評価減を行う必要があると思われます。
また、滞留している場合に正味実現可能価額を見積もることが困難な場合には、過去の実績などを根拠として、規則的な評価減を行うことも問題ないと考えられます。
また、このように正味実現可能価額以外の測定について、IFRSで全く認められていないかというと、そうではありません。
IAS第2号第32項では、原材料の測定方法として、再調達原価による測定が認められる場合について規定しています。
つまり、IFRSでは、正味実現可能価額以外の測定も、『資産はその販売又は利用によって実現すると見込まれる額を超えて評価すべきではない』という考え方に沿っていれば、否定していないのです。
したがって、私の考えでは、明文はありませんが、IFRSでもAgingによる滞留在庫の評価減が認められると考えられますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
以上
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。