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第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」|IFRS徹底解説

第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」|IFRS徹底解説

 中田 清穂(なかた せいほ)

日本でも来年3月には、売上高の包括的な会計基準(収益認識基準)が完成しそうです。
しかし、この収益認識基準は、日本の基準と言いながらも、IFRS15号(収益認識基準)の、ほぼ丸写しです。
つまり日本基準採用企業なのに、売上高の会計処理はIFRSを適用することに他なりません。
数ある基準の中でも、収益認識基準は最も重要な基準だと思います。
なぜなら「売上」は、すべての上場企業に影響があるものだからです。

この収益認識基準が完成すると、次はリース会計の基準が、改訂されるでしょう。

もちろん、IFRS16号(リース会計)が改訂された影響です。

「売上」と「リース」の基準のコンバージェンスが終わったら、日本の会計基準は、再びIFRSと同等になったと言われるでしょう。
その結果、この二つの会計基準に対応した日本企業は、IFRSに移行する負担がほとんどないと言われるでしょう。
ただし、この二つの会計基準への対応で相当な工数を割くことになるのですが・・・。

そうなると、いよいよ「当面」先送りした「IFRS強制適用」の議論がぶり返してくる可能性が高まるでしょう。
そろそろ、IFRSへの対応について、検討を再開する必要が出てきそうです。

任意適用はまったく考えておらず、強制適用の時期が確定するまで、プロジェクトを中断した企業では、IFRSを適用するための決算体制がどうなるか、社内でもイメージがばらばらなまま放置されていることが多いようです。
日本基準からIFRSに移行する期間については、並行作業になると予想されるので、
「当然、経理部員を補強してくれるはず」という思いがあれば、「今の会社の状況からして、経理部員の補強はあり得ない」という思いもあるでしょう。
社内でも全く違うイメージを持っていることになります。

この点についてきちんと打合せを行って、来るべきIFRSへの移行時期の決算体制がどのような内容になるのかを明確にしておくことは、早く決めても無駄にはならないでしょう。
泥縄の状況を作るよりは、賢明なはずです。

移行時期の決算体制には、以下のように整理できます。

  1. 日本基準チームとIFRS決算チームの二重編成にする
  2. そこまでではないにしても、何人かは増員する
  3. 現行の体制でそのまま対応する
  4. 逆に人員を減らすことを前提にする

①は現場の負担が最も少ないでしょう。
現在IFRS対応プロジェクトが立ち上がっている企業では、そのプロジェクトのメンバーがそのまま移行時期でのIFRS決算担当者になるケースが多いようです。

②も比較的現場の負担が少なくてすむでしょう。
増員される候補は、やはりIFRS対応プロジェクトメンバーです。

③は悲惨です。
おそらく今でも決算作業の負荷がオーバーキャパ気味なのに、並行作業時期には、現在の業務はそのままで、さらにIFRS決算作業が上乗せされることになるでしょう。
決算現場の士気は低下して、急に中心メンバーがやめる事態が容易に想像できます。
④はもっと悲惨です。

③と④で重要になるのは、抜本的な決算業務改革です。
目指す方向性は、「現行業務の工数の半減!」です。

この方向性のもと、すべての決算業務を見直して、何のためにやっているのか不明な業務や重要性がないと考えられる業務をどんどん廃止したり、出来る限りシステムを有効活用して、自動化を推進するなどが必要でしょう。
これには、上司、他部門そして監査人との調整が必要になることが多いので、なるべく早く着手しておいた方がよいのです。

参考までに、弊著『内部統制のための連結決算業務プロセスに文書化』で示した「業務効率化と連結決算早期化の着眼点」は、以下の8つです。

  1. 平準化
  2. 事前準備
  3. 廃止
  4. 分担
  5. 標準化
  6. 自動化
  7. 共有化
  8. 並列化

「実際にどのくらいの工数がかかるのかがわからないから検討できない」という声を良く聞きますが、問題を先送りにする "いいわけ" でしかないでしょう。

実は、日本基準とIFRSでの会計差異がなかったと仮定して、日本基準で財務諸表や注記を作成した後で、同じ内容でIFRSベースの財務諸表と注記を作成する工数は読めるはずなのです。

実はこれがIFRS対応にかかる最低限の工数の算定になります。

現行スタッフで並行作業時期を乗り越えるためには、日本基準での年次決算や四半期決算が終わるとすぐに、IFRSでの年次決算や四半期決算をすることになるでしょう。
しかし、たとえば、年次決算の場合には、決算発表が終わったからといって、暇になるわけではありませんね。
注記の作成、有価証券報告書の作成・登録、会社法計算書類の作成や株主総会対応など、作業スケジュールがつまっています。

したがって、決算数値の確定時期も前倒しして、決算発表後の作業ももっと早い時期に押し込まないと、IFRSでの最低限の作業を行うスケジュールも確保できないでしょう。

自見大臣が強制適用時期に余裕をもたせてくれたわけですから、自滅への道をたどらないようにするために、今回のポイントや着眼点について、早めに社内で議論をして、決算業務の抜本的な改革を行うことが望まれます。

"今の" 業務を変える問題ですから、"後で" 検討する根拠はありません。

「IFRSへの検討はストップした」というアンケート調査がある反面、最近、減価償却方法を「定率法」から「定額法」に変更したり、子会社や親会社の決算日を変更する動きが、新聞や経理情報誌で目にするようになりました。
システム対応の検討は先送りにしても、足もとでできることは着々と進めていることが伺えます。

以上

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