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電子帳簿保存法は「一の矢」、インボイス制度は「二の矢」。では「三の矢」は? ~エビデンスの電子化を迫る「三本の矢」とは~

電子帳簿保存法は「一の矢」、インボイス制度は「二の矢」。では「三の矢」は? ~エビデンスの電子化を迫る「三本の矢」とは~

 中田 清穂(なかた せいほ)

今回は、各社ごとの対応というレベルの話ではなくて、日本全体の課題として見ていきます。

■一の矢:「電子取引」の電子的保存を義務化した電子帳簿保存法の改正

このコラムで見てきたように、メールでやり取りしたり、サイトからダウンロードするなどの「電子取引」のエビデンスは、すでに紙での保存は認められなくなりました。
改正前までは、「すべてのエビデンスは紙で出力して保存しなさい」と厳しく言っていたのに、180度の方向転換です。
真反対の規定になったわけですから、多くの方々が混乱されたことでしょう。
しかし考えてみると、これまで紙の保存で大きな問題はなかったのに、どうして180度の大転換をしなければならなかったのでしょう。
改正前までの電子帳簿保存法は、なんとか「紙」のエビデンスを減らしていこうということで、「紙」のエビデンスをスキャンして、PDFファイルなどを作成して、「任意で」電子的に保存することを認める内容でした。
「電子取引」でやりとりしたエビデンスについては、原則を電子的保存としながら、紙での保存も認める規定内容でした。

これまでの電子帳簿保存法の「任意による紙の電子化」では、日本企業のエビデンスの電子化が、期待していたほどには広まらなかったものと思われます。
そこで、「電子取引」に目を付けて、容認規程であった「紙保存」を禁止して原則的手続きだけにする措置に出たのです。

なぜそこまでする必要があったのか?
この点は最後に触れます。

何はともあれ、これが「日本企業にエビデンスの電子化を迫る『一の矢』」です。

■二の矢:電子インボイスの電子的保存を組み込んでいるインボイス制度

いよいよ来年、2023年10月1日から、インボイス制度が全事業者に適用されます。
まず、目先の手続きとしては、『適格請求書発行事業者』としての登録を、約半年後(2023年3月31日まで)に申請しなければなりません。
インボイス制度については、このコラムの最初の連載で触れています。ただ、「適格請求書等(インボイス)」を、電子的にやり取りする「電子取引」に該当する場合で「電子的に保存する場合」には、改正電子帳簿保存法に準拠して対応する必要があります。例えば、インボイスを発行して得意先に「電子的」に送る場合には、以下のいずれかの対応が必要です。

(1)    インボイスにタイムスタンプを付与してから得意先等に送る。

(2)    インボイスを得意先等に送った後で、インボイスにタイムスタンプを付与して控えとして保存する。

(3)    訂正削除ができないか、できても履歴が残るクラウドサービスを使ってインボイスをやり取りする(この場合タイムスタンプは不要)

(4)    訂正削除をしないことを原則として、訂正削除する場合には所定の申請書の記載と共に社内承認を得る「社内規定」を整備し、この規定に準拠して、電子インボイスの手続きを行う。

インボイス制度は消費税法に係る制度であり、電子インボイスであっても「紙」での保存がまだ認められています。
しかし所得税法に係る電子帳簿保存法では、電子取引に該当する請求書等を紙で保存することは認められなくなりました。
したがって、電子インボイスを「紙」で保存した場合、「仕入税額控除」は受けられますが、所得税においては、「適切に保存されたエビデンスがない」状況になります。
したがって、当該取引が、申告漏れに絡んでいたりすると、「通常よりも重い重加算税(45%)」を課されたりするリスクが残ります。

結局、電子インボイスは、「電子的に保存」することになるでしょう。
電子インボイスは、改正電子帳簿保存法の網にかかっていると言えるでしょう。

これが「日本企業にエビデンスの電子化を迫る『二の矢』」です。

■改正電子帳簿保存法とインボイス制度の保存要件を緩和する措置

改正電子帳簿保存法には、何度も「税務調査の際に、税務職員からダウンロードの求めがあった場合」という表現が出てきます。

これは税務調査などで、必要なエビデンスを「見せる」だけではなくて、「電子ファイルそのものを渡せることができるような状況になっている」ということです。
このような場合には、改正電子帳簿保存法で要求されている「検索要件」が緩和されます。
改正電子帳簿保存法で要求されている「検索要件」は以下です。

⑴「 取引年月日その他の日付」、「取引金額」及び「取引先」で検索できること。

⑵ 「日付」又は「金額」については、その範囲を指定して検索できること。
(例:「4月から6月まで」とか、「3万円以上」など)

⑶ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること。
(例:4月から6月で、3万円以上のAAA株式会社など)

ところが、税務調査などで、ダウンロードして電子エビデンスを提供できるようにしている場合には、(2)(3)の要件は必要ないということです。
ダウンロードして、電子ファイルをごっそりもらったら、後は調査官がサクサク検索するから、調査先企業には高いレベルを求めないということでしょうか。
この場合、調査官のITスキルとITツールがカギになるでしょう。

■三の矢:税務行政DX(税務行政のデジタルトランスフォーメーション)

1で記載しましたが、「なぜ電子取引について、容認規程であった「紙保存」を禁止して原則的手続きだけにする措置」にしたのでしょうか。
また、税務調査などで、ダウンロードして電子エビデンスを提供できるようにしている場合に、どうして保存要件を緩和したのでしょうか。

これらの疑問と、「税務行政のDX」は無関係ではないと考えています。

税務行政に限らず、日本政府は、2005年のe文書法制定以来、日本企業のIT化の遅れを深刻に受け止め、各種法制度を新設・改訂してきました。
17年たっても一向に進まない日本企業のIT化(最近はデジタル化とかDX化などと言われています)に対して、いよいよ税制面から強く対応すべく、改正・新設されたのが、改正電子帳簿保存法でありインボイス制度なのです。
しかし所詮これらは、各企業が対応する課題であることから、今後もIT化を進める決定打にはならないように思えます。
その根拠の一つは、例の「宥恕措置」が公表されたとたんに、「電子取引」への対応はしぼんでしまいました。

しかし、このような状況の中、国税庁は、令和3年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション―税務行政の将来像2.0-」を公表し、着々と対応を進めているのです。

ここでは、あまり詳しい解説はできませんが、「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱としつつ、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に向けた構想等を示しています。
そして、その実現に向けた工程表まで作成しています。
最終的に、国税庁や税務署の調査は、調査先企業を訪問しないで、リモートで効率よく調査をすることを目指しているのです。

興味がある方は、より詳細な内容を、SuperStream導入企業の情報交換の場である「SuperStream Users Group(SSUG)」の分科会(9月)で実施しますので、ご参考にしてください。

国税庁と税務署は、着々とIT武装とIT軍団を組成しています。
これに対応するためにも、皆さんは、「嫌々」とか「義務的」に対応するのではなく、積極的に対応しておいた方が、後々の税務調査などで楽になるでしょう。
 

 

 

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