公認会計士 中田清穂のインボイス制度と電子帳簿保存法の解説講座 2022.08.08 (UPDATE:2024.11.20)
中田 清穂(なかた せいほ)
このコラムで見てきたように、メールでやり取りしたり、サイトからダウンロードするなどの「電子取引」のエビデンスは、すでに紙での保存は認められなくなりました。
改正前までは、「すべてのエビデンスは紙で出力して保存しなさい」と厳しく言っていたのに、180度の方向転換です。
真反対の規定になったわけですから、多くの方々が混乱されたことでしょう。
しかし考えてみると、これまで紙の保存で大きな問題はなかったのに、どうして180度の大転換をしなければならなかったのでしょう。
改正前までの電子帳簿保存法は、なんとか「紙」のエビデンスを減らしていこうということで、「紙」のエビデンスをスキャンして、PDFファイルなどを作成して、「任意で」電子的に保存することを認める内容でした。
「電子取引」でやりとりしたエビデンスについては、原則を電子的保存としながら、紙での保存も認める規定内容でした。
これまでの電子帳簿保存法の「任意による紙の電子化」では、日本企業のエビデンスの電子化が、期待していたほどには広まらなかったものと思われます。
そこで、「電子取引」に目を付けて、容認規程であった「紙保存」を禁止して原則的手続きだけにする措置に出たのです。
なぜそこまでする必要があったのか?
この点は最後に触れます。
何はともあれ、これが「日本企業にエビデンスの電子化を迫る『一の矢』」です。
いよいよ来年、2023年10月1日から、インボイス制度が全事業者に適用されます。
まず、目先の手続きとしては、『適格請求書発行事業者』としての登録を、約半年後(2023年3月31日まで)に申請しなければなりません。
インボイス制度については、このコラムの最初の連載で触れています。ただ、「適格請求書等(インボイス)」を、電子的にやり取りする「電子取引」に該当する場合で「電子的に保存する場合」には、改正電子帳簿保存法に準拠して対応する必要があります。例えば、インボイスを発行して得意先に「電子的」に送る場合には、以下のいずれかの対応が必要です。
(1) インボイスにタイムスタンプを付与してから得意先等に送る。 (2) インボイスを得意先等に送った後で、インボイスにタイムスタンプを付与して控えとして保存する。 (3) 訂正削除ができないか、できても履歴が残るクラウドサービスを使ってインボイスをやり取りする(この場合タイムスタンプは不要) (4) 訂正削除をしないことを原則として、訂正削除する場合には所定の申請書の記載と共に社内承認を得る「社内規定」を整備し、この規定に準拠して、電子インボイスの手続きを行う。 |
インボイス制度は消費税法に係る制度であり、電子インボイスであっても「紙」での保存がまだ認められています。
しかし所得税法に係る電子帳簿保存法では、電子取引に該当する請求書等を紙で保存することは認められなくなりました。
したがって、電子インボイスを「紙」で保存した場合、「仕入税額控除」は受けられますが、所得税においては、「適切に保存されたエビデンスがない」状況になります。
したがって、当該取引が、申告漏れに絡んでいたりすると、「通常よりも重い重加算税(45%)」を課されたりするリスクが残ります。
結局、電子インボイスは、「電子的に保存」することになるでしょう。
電子インボイスは、改正電子帳簿保存法の網にかかっていると言えるでしょう。
これが「日本企業にエビデンスの電子化を迫る『二の矢』」です。
改正電子帳簿保存法には、何度も「税務調査の際に、税務職員からダウンロードの求めがあった場合」という表現が出てきます。
これは税務調査などで、必要なエビデンスを「見せる」だけではなくて、「電子ファイルそのものを渡せることができるような状況になっている」ということです。
このような場合には、改正電子帳簿保存法で要求されている「検索要件」が緩和されます。
改正電子帳簿保存法で要求されている「検索要件」は以下です。
⑴「 取引年月日その他の日付」、「取引金額」及び「取引先」で検索できること。 ⑵ 「日付」又は「金額」については、その範囲を指定して検索できること。 ⑶ 二以上の任意の記録項目を組み合わせて検索できること。 |
ところが、税務調査などで、ダウンロードして電子エビデンスを提供できるようにしている場合には、(2)と(3)の要件は必要ないということです。
ダウンロードして、電子ファイルをごっそりもらったら、後は調査官がサクサク検索するから、調査先企業には高いレベルを求めないということでしょうか。
この場合、調査官のITスキルとITツールがカギになるでしょう。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。