公認会計士 中田清穂の会計放談 2021.11.08 (UPDATE:2021.11.07)
中田 清穂(なかた せいほ)
表計算ソフトで様々な関数を使ったり、シートやファイルにリンクを貼ったりすると、最低限の入力をするだけで、つながりのあるデータが一度に出来上がったりするので、とても便利です。
しかし、シートのどのセルになんの関数があり、どのシートやファイルとリンクしているのかを、他の社員が確認することはとても大変です。
また、複雑なシートを作ると、そのうち作った本人もわからなくなります。
行や列の挿入や削除を行うと、それまで作成していた関数やリンクがこわれてしまうことが多々あります。
一度壊れたファイルを復元する機能もありますが、壊れたことに気づかないで、「上書き保存」などしていると、厄介なことになります。
表計算ソフトの種類にもよりますが、表計算ソフトはこちらが望まなくてもバージョンアップをします。会社のシステム部の方針で、会社として表計算ソフトをバージョンアップした際に、旧バージョンでは使えていた関数やマクロが使えなくなることがよくあります。
すでに作成していたファイルを、新バージョンで開いて使って初めておかしな状況になっていることに気が付きます。そこまでだけでも結構時間を要することもあります。
次に、経理業務で特に問題となりそうな課題に触れてみます。
経理業務で表計算ソフトを利用する場合、会計システムからエクスポートしたデータなどを使うと、とても大きなシートになりがちです。その結果、ファイルの容量が大きくなり、そのファイルを開いたり保存したりする際に、かなり時間がかかるようになります。
また、そういったシートで一つのセルに入力すると、再計算に時間がかかるようになります。
業務に忙殺される中で発生する「手待ち時間」は大変な無駄になります。
経理業務では、一つの部門の表を作成したら、別のすべても部門でも使えたり、過去の年度で作成した表が毎年使えたりしますので、同じような表やシートをいくつも作成する場合には、コピーや貼付けを行うと思います。
しかし、貼付けた後の結果をきちんと確かめないと、間違った表などができてしまいます。そして、その間違いに気づかないことも十分にあり得ます。
一度作成しても、プリントアウトしてみたら、数字の関連におかしなところが判明すると、作り直すことになります。
一度作った表に手を加える場合、経理業務で作成する表は大きな表になることが多いので、慎重に行わないと、一部を直したことで、他の箇所の結果がおかしくなってしまい、何度も作りなおすことになり、思った以上の時間をかけてしまうことにつながります。
経理・決算業務の特徴として、間違えることが許されないというと言い過ぎかもしれませんが、できるだけ間違えないやり方を進める必要があると言えるでしょう。
したがって、壊れたり、使えなくなったり、引き継げなかったり、間違いに気づきにくくなったりする表計算ソフトは、経理業務ではできるだけ使わない方が良いと思います。
それではどうすればよいでしょうか。
現在みなさんの会社で使っているシステムをもっと活用することです。
実は、表計算ソフトにデータを入力したり取り込んだりして表を作らなくても、すでに使っているシステムの帳票が用意されている場合があります。
しかし、普段使っていない機能や表は、有ることに気が付かないケースがとても多いのです。せっかくお金を払って使っているのだから、それを使わない手はありません。
ただ、システムの機能一覧や帳票一覧で探そうとしても、その中身がすぐにはわからないので、探すのは大変です。
一番手っ取り早いのは、保守サポート部門に問い合わせをすることです。
「こんな表を毎月作っていますが、同じような帳票やそれを簡単に作れる機能はないか?」といった感じで問い合わせるのです。日本人の場合、「そんなこと言ったら、保守担当の人に嫌われないかしら?」と感じてしまうことも多いでしょう。
しかし、ソフトウェアベンダーにとって、ユーザさんからの問い合わせや要望こそ、製品・サービスの機能を高める上での「宝箱」です。
したがって、こんな表が欲しいといった声を開発元に発信することは、お互いにメリットのあることなのです。
給与計算、固定資産管理、文書管理、税務申告書作成、連結決算などなど、現在表計算ソフトでやってしまっていることの多くの業務について、ソフトウェアやオプション機能が開発されて、多くに企業が使っています。
今表計算ソフトで行っている業務について、該当するソフトウェアやオプション機能がないか、情報を収集してみることは、重要なステップです。
「表計算ソフトでできていることに、お金を出すのはもったいない」というのは、今回示した課題を理解していないということになるのではないでしょうか。
特に経理業務は、壊れたり、使えなくなったり、引き継げなかったり、間違いに気づきにくくなったりしてはならない業務なのです。
中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。