公認会計士 中田清穂の会計放談 2022.01.05 (UPDATE:2022.01.06)
中田 清穂(なかた せいほ)
最近多くの企業では、大黒柱のビジネスに陰りが生じ、新しいビジネスを作ることに大きな関心が生まれています。
そういった企業では、中期経営計画の中に「イノベーションを起こす」という目標が掲げられることが多いと思います。
イノベーションはどのようにして起こすのか多くの企業が悩んでいると思います。
ウィキペディアではイノベーションを以下のように定義しています。
イノベーション(英:innovation)とは、物事の「新機軸」「新結合」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。 ・出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 |
最も大切な要素は、
① 新たな価値を生み出して
② 社会的に大きな変化を起こす
という2点だと思います。
これらは意図的にできることではないと思います。
また、お金をかければできることでもないと思います。
しかし、意識し続けることが、とても重要なポイントだと思います。
早稲田大学社会人教育事業室『WASEDA NEO』の小柳津誠氏が、イノベーションの例として良くあげられている、カツ丼誕生の話で考えてみましょう。
カツ丼にもいろいろあります。
卵でとじたものや、ソースに浸けたもの、デミグラスソースをかけたもの、あるいは、タルタルソースをかけたカツ丼もあるようです。
小柳津氏が取り上げるカツ丼は、カツオ出汁で煮て、卵でとじるカツ丼の話です。
このタイプのカツ丼の発祥についても諸説あるようです。
その中でも有名なのが、早稲田大学近くの老舗蕎麦屋三朝庵(さんちょうあん)を発祥の店とする話です。
ウィキペディアでは以下のように説明されています。
1918年、宴会のために肉屋から仕入れたトンカツが、宴会のキャンセルで大量に余り、冷めたトンカツの処理に朝治郎が苦慮していたところ、常連客だった学生が玉子丼のようにしてはと提案し、朝治郎はトンカツを卵でとじる丼物を作り上げ、これがカツ丼の起源となったという。 ・出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 |
それからというもの、「蕎麦屋のメニューにカツ丼があるのは当たり前」になったという話です。
まさしく「社会的に大きな変化」が生まれたのです。
イノベーションの観点から、ポイントをあげると以下になります。
① 1918年当時、すでにトンカツは大衆化して、蕎麦屋が肉屋から仕入れて店で出すほどの環境があった。
② 宴会はキャンセルされても、今のようにキャンセル料を取れる環境ではなかった。
③ 大量のトンカツを前に困り果てている蕎麦屋の主人に、料理のシロウトである学生が、「卵でとじてみたら」と発言した。
④ 料理のプロである蕎麦屋の主人が、シロウト考えを笑わずに受け止めて、料理に取り入れた。
ポイントは以上です。
イノベーションを起こすには、
① まず大きなニーズに対して、
② 大きな課題を抱えていて、
③ 真剣に取り組んでいるタイミングで、
④ シロウトの突拍子もない発言で劇的変化のチャンスが生まれ、
⑤ クロウトがシロウト考えを受け止めてチャンスを生かす
といった要素があるのだと思います。
クロウトがいくらお金をかけて深く悩み考えても、イノベーションは起きにくいように感じます。
最も重要なポイントは、「シロウト考えを生かす」ことだと思います。
今、日本企業では、経験が浅かったり、畑違い(部門の違い)などの社員の意見は、ほとんど聞いていないのではないでしょうか。
新人や他部門の「シロウト考え」を聞く機会を増やすしくみや組織風土にしていくことは、企業がイノベーションを起こす上で、とても大切で意味のあることだと思います。
経理部門は、自社のすべての部門に関わる部門です。
経理処理に関連して、現場部門に確認や問い合わせをする中で、いろいろな意見(文句?)を聞くことができます。
予実分析の過程で、予実に乖離が発生した時に、その原因を多くの社員に聞くこともあります。
そうすると、経理部門は普段の活動の中で「どの部署に、意見を発信する社員や発想の豊かな社員がいるのか」といったことをキャッチしやすい部門の一つだという見方ができるのではないでしょうか。
自社にイノベーションを起こしたいのであれば、経理部門も「あの部署にいつも鋭い考えを持っている人がいる」とか、「あの社員は発想がおもしろい」といった感想を大切に覚えて(できれば記録して)おいて、業務改革や新規事業開発の課題を抱えている部門に、「あの社員に意見を聞いて見たらどうでしょう」といった「つなぎ」ができれば、イノベーションを起こす可能性が高まるように思います。
「まさか自分たち経理が、うちの会社のイノベーションに関わることになるなんてありっこない」なんてことを考えていたら、いつまで経っても変わらないでしょう。
イノベーションを起こすチャンスを経理が活かす会社であれば、変化に耐えうる強い会社になるでしょう。
中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。