公認会計士 中田清穂の会計放談~RPA編~ 2019.06.01 (UPDATE:2020.12.21)
中田 清穂(なかた せいほ)
今回も、実際にRPAを導入して自動化した、具体的な業務を紹介します。
出典は前回同様、株式会社矢野経済研究所が公表した『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場の実態と展望 2018』です。
第2弾の今回は、欧州の某製造業企業が自動化した「買掛金請求書業務」です。
この企業では、ERP システムを導入したものの買掛金業務の自動化が進まなかったようです。
通常、従来の手作業をERPシステムの機能を利用して自動化することで、人件費の圧縮や業務の生産性(効率)の向上が期待されます。
しかし、この企業では、ERPを導入したにも関わらず、買掛金業務は自動化できなかったということです。
最初から自動化の対象外だったのか、当初は自動化の範囲だったが、導入中に断念したのかはわかりません。
いずれにしても、買掛金業務は手作業のまま変わらない状況にあったということです。
手作業の具体的なステップは以下です。
上記ステップを全て人力で行っていたようです。
この作業をRPAでロボ化して、(1)から(4)の入力・チェック・転記部分を自動化できたそうです。
このロボ化によって、以下の効果がありました。
A)約6~7 割程度の作業時間圧縮に繋げられた。
B)エラー数の削減・手戻り回数の抑制など作業品質の改善に繋がった。
A)は、「人件費の圧縮」つまり「コストダウン」の効果だけではなく、「生産性(効率)アップ」の効果があったことになります。
B)は、「業務品質の向上」の効果があったことになります。
RPAを利用して業務をロボ化する効果は、「コストダウン」だけではないことがわかります。
これは今の日本企業におけるRPAの導入のあり方の参考になります。
というのも、日本企業でのRPA導入は、「コストダウン」ばかりに目が向いていて、「生産性の向上」や「業務品質の向上」にはあまり重点が置かれていないと感じられるからです。
具体的には、社内や部内でRPA導入の稟議を申請しても、「費用対効果はあるのか」という一言で、明確に立証できないことから、RPAの導入が断念されるケースを、非常に多く耳にしています。
「費用対効果」と言われると、RPAでロボ化しようとしている業務が、現在、何人で何時間かかっているのかを調査・集計することになります。
なかなか正確には計測できない上に、計測したところで、あまり時間がかかっていないということになると、「ロボ化する意味がない」ということになってしまいます。
しかし、私はこれは逆の話だと思います。
帳票のエクスポートやメールの配信など、ちょこまかとした、あまり工数のかかっていない作業が、他の業務の間に入ってきていて、じっくり考えることを妨げるのであれば、時間がかかっていなくても、RPAで自動化して人間がやらなくても済むようにすれば、人間の作業効率や創造的な作業がじっくりできるようになります。
「収益認識」や「リース」などの会計基準が大きく変わり、自社がどのように対応するべきかとか、自社のビジネスが変ったときに、管理会計はどうすればよいかなど、人間でしか対応できないことがどんどん増えている中で、ちょこまかとした作業を自動化する意味は、小さくないと思います。
ちょこまかとして作業をロボ化して、「塵も積もって」毎日8時間分の作業をRPAで実行できたとしたら、一人分の人件費が浮いたことにもなるでしょう。
現在、何人で何時間かかっているのかなんて、調査・集計せずに、「ちょこまか作業」をどんどんロボ化する方が早いと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。