公認会計士 中田清穂の会計放談~RPA編~ 2019.07.01 (UPDATE:2020.12.21)
中田 清穂(なかた せいほ)
実際にRPAを導入して自動化した、具体的な業務のご紹介は今回で最終回になります。
出典は前回および前々回同様、株式会社矢野経済研究所が公表した『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)市場の実態と展望 2018』(以下、『実態と展望』)です。
第3弾の今回は、「経費精算業務」です。
経費精算・申請は月末や月初など、毎月決まった時期に集中して発生しやすく、また、全体件数が多い上に人件費が高い管理職クラス(上長)の承認を必要とします。
『実態と展望』では以下のような解説があります。
「また、確認負担の大きさから承認時の確認精度も低くなりやすい傾向にある。」
この表現は少々お上品ですね。
私が良く耳にするのは、「うちの現場の上長は、ろくにチェックしないで承認するんですよ。」という、経理担当者のお声です。「確認精度が低い」どころか「確認をしていない」ようです。
私が、「現場の上長がきちんとチェックしていないとなると、経理は大変ですね。」と言うと、
「いえいえ、経理も人手不足で、満足のいくチェックはできていないんです。」というお答えも少なくありません。
経費精算業務が、J-SOXの対象外になっている場合も多いようで、今や経費精算業務は、不正や誤謬のリスクが高い業務の一つと言えるでしょう。
『実態と展望』によると、「某社では、経費精算処理の上長承認をRPA での自動処理に置き替えることによって、申請不備や不正発覚の精度を向上させることに繋げた。」という解説がされています。
なんと!
承認行為をロボがやるようになっているのです!
「そんなことしていいのか!?」と思わず言いたくなりますね。
でもよく考えると、満更悪いことでもないように思います。
これまで上長がやってきた承認行為は、果たして「人間がやるべきだったのか?」という疑問から、「承認行為のうち人間がやらない方が良いものがあるのではないか?」という仮説が浮かび上がります。
例えば、交通費精算で、移動手段(タクシーの利用など)や移動方法(最短・最安ルートで移動したかなど)の適切性について考えてみましょう。
これらは、「路線探索web サイト」などで調べることができますから、RPAで十分にできるのです。しかも「全件」を「正確」にチェックできます。
出張手当や日当などのチェックも、社内規定をあらかじめ設定しておくことで、RPAで「全件」を「正確」にチェックできます。
「人間がやらなくてもよい」し、さらに「人間がやるより、RPAでやる方が網羅的かつ正確に」ミッションを果たせるのです。
承認行為のすべてをRPAでできるわけではありませんし、すべてをRPAでやらせるべきではありません。
承認行為の中身をきちんと整理して把握して、人間がやるべき項目と人間がやるべきではない項目を明確にする必要があります。
人間の上長が行うべき承認行為は、「この経費は、社員個人の負担にするべきものか、会社が負担するべきものか」を判断することです。
人工知能(AI)も発達していますが、まだこういった判断はできないようです。
このように「現場の上長にしかできない」項目を明確にして、その項目以外は、すべてRPAに置き換えることができれば、人件費が高い上長の時間はもっと有効に使うことができるようになります。
上長の業務の「生産性の向上」になり、「効率アップ」になるでしょう。
RPAの導入を検討する際には、上長の承認時間の短縮で浮く人件費(効果)とRPAにかかるコスト(費用)で「費用対効果」ばかりを考えてしまいがちです。
しかし、上長の「生産性の向上」や「効率アップ」がもたらす効果、特に「現場での時間の充実」による、「稼ぐ力」や「企業価値」の増大につながる効果こそ、会社として考えるポイントだと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。