会計・人事を変える。もっとやさしく、もっと便利に、もっと楽しく

気候変動の会計処理

気候変動の会計処理

 中田 清穂(なかた せいほ)

今年7月末に、国際財務報告基準審議会(以下、IASB)が、「財務諸表における気候関連及びその他の不確実性の報告を改善するための設例」の提案をしています。
IASBと記載しましたが、書き間違いではありません。
これはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)ではなく、会計基準を作成するIASBからの公開草案です。
つまり「会計基準」に関する会計基準です。

IASBが財務諸表における気候関連及びその他の不確実性の報告を改善するための設例を提案

結論からお話すると、サステナビリティ開示は、「非財務情報」にとどまらず、「財務情報」として取り扱うことになります。
具体的には、有価証券報告書の「事業の状況」で「サステナビリティに関する考え方及び取組」に開示することが義務となりましたが、それに加えて、「経理の状況」でも開示しなければならなくなる可能性が出てきたということです。

私は、この公開草案が、日本の上場企業に与える影響が少なくないのではないかと感じました。

公開草案の位置づけ

この公開草案については、コメントの提出期限は、2024年11月28日までですが、
FINALになったら即適用」のようです。
つまり、発行日(適用開始日)はないのです(BC46参照)
理由は以下の2つのようです。

  1. 引当金会計基準(IAS 第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」)や減損会計基準(IAS 第36号「資産の減損」)で、すでに要求されていたものであり、気候変動に関しても例外ではなく、今回の例示で明確にしただけである。
  2. 引当金会計基準や減損会計基準にとどまらず、IAS第1号第31項で要求している、一般的な開示原則により、気候変動について重要性がある事象は、個々の会計基準での開示要求がなくても、開示する必要があることには変わりないことを明確にした。
つまり、これまでのIFRSの変更ではなく、事例を追加しただけの位置づけなのです。

公表の背景

この公開草案が公表されたのは、IASBが行った第3次アジェンダ・コンサルテーションに対して回答者から得られた二つの不満があったからです。
二つの不満とは以下です。

  1. 財務諸表における気候関連リスクの影響に関する情報が不十分だという不満
  2. 企業が財務諸表の外部に提供する情報、特に他の汎用財務報告書で報告された情報と矛盾しているように見えるという不満

少し具体的に説明します。

近年、日本だけでなく世界中の企業で、気候変動を始めとするサステナビリティに関する情報を、CSRや有価証券報告書で開示しています。
しかし、企業がこのようなサステナビリティ開示をしていても、財務諸表に与える影響までは、ほとんど開示されていません。

IASBは、企業が「気候関連の移行計画」などを開示している以上、その計画に沿った企業活動をしていけば、財務諸表に影響を与えることを検討するのは当然だという見解を公表することで、より適切な財務諸表が作成されるであろうことを期待しているのです。

公開草案での具体例

公開草案には、8つの具体例が記載されています。
その一つが以下のような内容です。

「Example 7—Disclosure about decommissioning and restoration provisions」では、石油化学施設のプラントの除去タイミングが、気候変動の影響を受けて早まることで、割引現在価値が大きくなり、重要性が増加することへの影響を取り上げています。
IAS第37号「引当金、偶発負債および偶発資産」の開示要求を満たす必要があるかどうかを例示していると思われます。
つまり、資産除去債務に関する注記の例示だと思われます。

この他にも、減損会計の回収可能額の算定への影響などが例示されています。

日本企業への影響

日本基準を採用している企業は「気候関連の移行計画」を、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組み」欄で開示されていますが、「経理の状況」における基本財務諸表での表示や注記での開示は、ほとんど行われていません。
いいかえれば、今回の公開草案に記載されている、IASBが行った第3次アジェンダ・コンサルテーションに対して回答者から得られた二つの不満が、日本基準を採用している企業には確実に存在していると感じられます。

今回のIASBの公開草案が最終化された後で、ASBJでも何らかの動きが出てくる可能性があると感じています。
[Footer]会計システム更新担当者が知っておきたいポイント_CTA_WP

関連記事