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リスキリングと人事DXの進め方 第1回「リスキリング」とは何か?

リスキリングと人事DXの進め方 第1回「リスキリング」とは何か?

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 リスキリング(学び直し)に対する関心が高まっています。
 環境変化が進む中、企業は、リスキリングにより従業員一人ひとりのスキルを高めて、生産性を向上させることが必要になっています。一方、労働者は、より高い職務と報酬を得るためには、リスキリングによって専門的な知識・技術を習得していくことが必要になっています。
 今や、リスキリングは、企業と労働者双方にとって最重要課題になっていると言えるでしょう。
 このコラムでは、これから12回に分けて、リスキリングおよびスキルデータを活用して人事管理を行う「人事DX(デジタルトランスフォーメーション)」の進め方や事例について解説していきます。

「リスキリング」とは?

 「リスキリング」とは、「労働者が、すでに身につけている知識・能力とはまったく異なる、新しいスキルを学ぶこと」を言います。社会人になってから新しいスキルを基礎から学ぶことになるため、「学び直し」とも言われます。
 近年、技術革新に伴って、仕事は大きく変わってきています。例えば、小売業においては、仕事の中心が「店員による対面販売」から「Webサイトを通じたネット販売」へと移ってきています。そうなると、小売業で働く労働者には、「接客力」よりも「販売データの分析力」などの新しいスキルのほうが強く求められるようになります。そこで、企業は、労働者に対して、新しいスキルを習得するための再教育を行います。また、労働者も、仕事の進め方の変化に追いつくために、新しいスキルを身につけようと努力するでしょう。リスキリングとは、このような「企業または労働者が、新しいスキルを学ばせる/学ぶ取組み」を意味しています。

これまでの教育訓練とリスキリングとの違い

 リスキリングは、これまでに企業が行ってきた教育訓練とは大きく異なります。(【図表1】参照)
 これまでの教育訓練は、「現在、担当している仕事の質を高める」ことを目的として、企業が実施するものでした。学ぶことは、主に「(社内で使用される)業務知識・技術」などであるため、日常業務の中で先輩社員が後輩を指導するOJT(職場内訓練)を中心に実施されました。一方、リスキリングは、「これから必要となる、新しい仕事に対応する」ことを目的とするため、企業と労働者の双方が挑戦意欲を持って主体的に取組むことが必要となります。学ぶことは「(社外でも通用する)専門知識・技術」や「ITスキル」などになるため、日常業務から離れた特別な研修(OFF-JT)を実施していかなければなりません。
 なお、リスキリングを効果的に行うためには、キャリア開発や人的資本の情報開示などの施策との連動が必要であり、それを可能にする人事データの有効活用(人事DX)も並行して進めていくべきです。

【図表1】従来の教育訓練とリスキリングとの違い
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日本におけるリスキリングが動き出した

 国も、「労働者の職業能力の向上を図るため」また「IT人材を育成するため」に、企業や労働者のリスキリングを支援するようになっています。(【図表2】参照)
 2022年6月、厚生労働省は「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定し、リスキリングの重要性と企業と労働者が協働してリスキリングに取り組む必要性を示しました。また、2024年4月、経済産業省は、DX人材を育成するリスキリングを加速させるため、「第四次産業革命スキル習得講座(専門的なスキルを習得できる教育訓練講座として経済産業大臣が認定したもの)」の拡充を行いました。なお、認定講座のうち一定の要件を満たしたものについては、受講費用の70%を上限とする「専門実践教育訓練給付金」を国から受講者に支給する支援策も実施されました。(なお、2024年10月に、この給付金の上限は「受講費用の80%」に引き上げられています。)
 国からの後押しもあり、日本におけるリスキリングは、いよいよ動き出しました。

【図表2】リスキリングを後押しする行政の動き
02

 
 このように社会全体で見れば、リスキリングは動き出したものの、「現時点では取組みを行っていない」という企業がいまだに数多く存在します。
 これらの企業では、なぜ、リスキリングが進まないのでしょうか?
 次回のコラムでは、この「リスキリングが進まない理由」について説明します。

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