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リスキリングと人事DXの進め方 第6回 リスキリングのステップ3 「スキルの習得方法の選定および仕組み化」

リスキリングと人事DXの進め方 第6回 リスキリングのステップ3 「スキルの習得方法の選定および仕組み化」

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 リスキリングを導入・運用する第3ステップでは、対象となるスキルごとに習得方法を選定し、そのうえで受講時間や費用負担等の取扱いを定める「仕組み化」を行います。スキルの習得方法として集合研修またはオンライン研修のどちらを選ぶのか、また、受講料を会社または従業員本人のどちらの負担にするのか等によって、リスキリングの広がり方が大きく変わってきます。ここでは、スキル習得方法の選定およびリスキリングの仕組み化のポイントについて説明します。

 スキルの習得方法とメリット・デメリット

 従業員にスキルを習得させる場合の主な方法とそれぞれのメリット・デメリットをまとめると、次のようになります。


(1)社内の集合研修や社外セミナー等に参加させる

従業員を集めて社内で研修を実施したり、従業員を社外の研修会社が開催するセミナー等に参加させたりする方法です。この方法の場合、会社が研修、セミナーの出席状況をチェックできるため、受講者に確実にスキルを習得させることができます。また、社内で実施する集合研修の場合、すぐにでも業務に活用できるスキルを教えることができるというメリットもあります。一方、受講者は、研修やセミナーの受講時間・場所を自由に決めることができない、あるいはセミナー受講料などのコストが高い等のデメリットがあります。


(2)オンラインセミナーや通信教育等を受講させる

近年、研修会社がオンラインセミナーや通信教育などのプログラムを豊富に提供しています。会社が従業員にそれらの受講を指示することも、スキル習得の有効な方法です。この方法の場合、従業員は自分の好きな時間・場所で教材を見たり読んだりすることができるため、「受講しやすい」というメリットがあります。また、受講料が比較的安い、セミナー会場に行くまでの時間や交通費が節約できる等のメリットもあります。しかし、配信映像や送付された教科書を読む「一方的な研修」になりがちで、スキルが習得しにくい、あるいは実務での活用が難しい等のデメリットがあります。


(3)公的資格の取得を奨励する

税理士やITパスポート等の国家資格、あるいはビジネスキャリア検定等の公的資格等の取得を会社として奨励する(受験料等を会社が負担する)等の方法により、従業員にスキルを習得させる方法です。公的資格を取得すれば、その分野において社外でも高スキル人材として通用することになることから、会社は、従業員の自主的なスキル習得を促すことができる、また資格保有者数を公表して自社のスキルの高さを社外にアピールできる、というメリットがあります。一方、資格試験に向けた勉強のために従業員が仕事をなおざりにしてしまう、従業員が取得した資格を活かすために会社を退職してしまう等のリスクがあります。


(4)大学院やビジネススクールなどに派遣する

AIやデータサイエンス等に関する専門スキルを習得させるために、従業員を、一定期間、大学院やビジネススクールに派遣して勉強させる方法です。従業員に、最先端の高度なスキルを習得させることができるというメリットがある半面、授業料などのコストが大きい、キャリアアップを目指して従業員が会社を退職してしまうリスクがある等のデメリットがあります。


 このように、スキル習得には様々な方法があり、それぞれにメリット、デメリットがあります。会社は、習得させるスキルの内容等に応じて、上記の方法から適切な方法を選ぶことが必要です。

【図表1】 スキルの習得方法とメリット・デメリット

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 スキル習得の仕組み化 

 会社は、スキル習得方法を選んだ後、スキル習得の対象者(会社が指名する者か、研修受講の希望者か等)や受講の申し込み方法等を決めて、従業員に案内します。このような「スキル習得の仕組み化」においては、「研修等の受講時間の取扱い」および「費用負担」についても明確に定めることが必要です。

 基本的には、業務との関係性が強いスキルの習得を目的とし、会社の指示により、従業員が受講する研修については、受講に要する時間は「労働時間」とし、また受講料等は「会社負担」とするべきです。

 例えば、「自己啓発を目的として受講する通信教育等の受講時間は『労働時間』とはせず、受講料は『本人負担』とする」等の取扱いとするのであれば、従業員にも、そのルールを知らせておくことが必要です。そうしないと、「休日にセミナーを受けたのに代休が取れない」とか「業務で英語を使うから英会話教室に通っているのに、なぜ会社は受講料を負担してくれないのか」等、研修等を受講した従業員から不平不満が出てきて、社内のリスキリングが進まなくなってしまいます。

 ですから、会社は、スキル習得方法ごとに、対象者、申し込み方法、労働時間の取扱いや費用負担等を定める「仕組み化」を行い、リスキリングがスムーズに運用できるようにしておくことが必要です。

 さて、ここまでのステップにより、「リスキリングの対象となるスキルの抽出」および「スキルの習得方法の選定、仕組み化」が完了します。これをもって、とりあえず社内にリスキリングが導入されたことになります。

 リスキリングを社内にしっかりと定着させるためには、ここから、さらに「従業員のリスキリングに関する情報を収集して、職務配分や報酬決定などに活用すること」および「技術革新に対応してリスキリングの対象となるスキルや仕組みを定期的に見直すこと」が必要になります。

 次回は、リスキリングの定着化に向けた「ステップ4:従業員のスキル情報の収集と活用」について解説します。

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