公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
IFRSを適用する際に耐用年数への対応が問題となるケースが多いようです。
プロジェクト当初には、「従来の税務上の耐用年数表の耐用年数でいいでしょう」と言っていた会計監査人も、IFRSへの理解が深まるにつれて、「やはり利用実態に合った耐用年数にしなければ適切とは判断できません」と対応が変わるケースが増えているようです。
企業サイドとしては、理屈ではわかっていても、購入した資産ごとに取得した際に耐用年数を見積もることは非常に煩雑であり、税務メリットも受けにくくなるので、できれば避けたいところです。
そこでIFRSの趣旨を理解し、それを逆手にとってなるべく税法上の耐用年数に近づけたり、資産ごとの耐用年数の見積もりをしなくてすむような工夫が見られるようになりました。 特に利用実態を調査した結果、利用期間が税法上の耐用年数を大幅に超えるケースについては、なんとか従来の税法上の耐用年数にしたいものです。
今回はその例をいくつか紹介しましょう。
部品や製品を製造するための機械や金型は、その部品や製品を量産する期間だけではなく、量産終了後も、修理や交換に備えて除売却しないで保有し続けることは、良く行われています。
このような機械や金型の経済的便益は、主に量産によって費消されるのであり、量産終了後にはほとんど経済的便益をもたらさないと言えるということで、当該有形固定資産の経済的耐用年数を、過去の「保有期間の実績」ではなく、過去の「保有期間のうち量産終了後の期間を含めない期間」とするのです。
その結果、税法上の耐用年数をそれほどかい離はしていないということで、IFRS適用後も税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
過去の「保有期間」を調査して、単純にそれを耐用年数にはしないで、「利用実態」をもう一段踏込んで分析して、その結果で判断することこそ、IFRSの趣旨に合っているということです。
全資産あるいは資産の種類ごとに過去の保有期間を調査すると、税法上の耐用年数を大幅に超えていても、取得した年代ごとに分析してみると、最近購入した資産については、技術革新や競争の激化などにより、昔に購入した資産と比較すると、利用期間が短くなる傾向がみられるケースが多いようです。
このような場合には、一概に税法上の耐用年数よりも長い耐用年数にすべきと判断しないで、今後購入する資産の耐用年数ですから、最近の傾向も勘案して決定すべきでしょう。 その結果、税法上の耐用年数をそれほどかい離はしていないということで、IFRS適用後も税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
過去の「保有期間」を調査して、単純にそれを耐用年数にはしないで、「取得年次ごとの利用実態」をもう一段踏込んで分析して、その結果で判断することこそ、IFRSの趣旨に合っているということです。
個々の資産ごとに耐用年数を見積もるのは、重要性のある資産だけにして、重要性のない資産については従来通り税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
IFRS第16号「有形固定資産」には、重要性の判断規準は明記されていませんが、「財務報告のフレームワーク」に、すべての基準に横たわる基本的な考え方として「重要性」の考え方が明記されていますので、会計監査人が「IFRS第16号には重要性規定がないので、すべて厳格な処理をするように」と言ってきても、押し返せる理論的根拠になるでしょう。
ちなみに、有形固定資産の耐用年数の取扱いについては、IFRSと日本の企業会計制度の間に相違はありません。
いずれも経済的耐用年数です。
ところが、日本公認会計士協会が税法上の耐用年数としても、会計監査においては適切と判断するよう委員会報告で認めているので、日本の会計実務においては、経済的耐用年数ではなく、税法上の耐用年数を採用している企業がほとんどの状況になっています。
したがって、この論点はコンバージェンス対象とはなりません。
逆に、日本公認会計士協会が前述の委員会報告を廃止すると、IFRSと日本の会計実務に相違はなくなるので、注意が必要です。
つまり、この論点の会計実務差を解消するのは、ASBJでもなく、金融庁企業会計審議会でもなく、実は日本公認会計士協会なのです。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。