公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
IAS第23号「借入費用」では、ある資産の購入代金を支払い始めて利用できるようになるまでに「相当の期間」がかかるもの(これを「適格資産」といいます)については、支払利息の一部を、その資産の取得原価に含めなければなりません。
この支払利息には、その資産を購入するための借入金から発生する利息だけでなく、一般的な運転資金のための借入金から発生する利息も含まれますし、その資産とは関係のないファイナンス・リースに関連する財務費用も含まれます。
したがって、有利子負債が多額であったり、ファイナンス・リースを多く活用しているような企業では、十分な注意が必要です。
忘れてならないのが、子会社の存在です。
親会社ではファイナンス・リースが全くなくても、子会社で多く活用されていれば、単純には無視できないのです。
IAS第23号「借入費用」の主旨は、その資産を使えるようにするために必要になった支出は、すべてその資産の取得原価にするべきだという考え方があります。
一般的な運転資金のための借入金も、その資産を購入しなければ繰り上げ返済などで返せたでしょう。他の資産をファイナンス・リースで調達する場合も、その資産を購入しなければ、手元に残っていたはずの資金で購入ができたのであって、リースにする必要はなかったでしょう。
一般的な運転資金のための借入金も他の資産をファイナンス・リースで調達する場合も、その資産を購入することと無関係ではなく、発生した利息などの財務費用も、その資産を取得することと関連があるということになるのです。
したがって、最近の連結ベースでの財務戦略として、銀行借入などの資金調達は、グループ各社がばらばらに行うのではなく、親会社が一括して行い、資金が必要な各子会社には、親会社から貸し付けるしくみが増えています。
この場合、支払利息などの財務費用は親会社で発生しますが、資産の購入は子会社になるので、事態は複雑になるのです。
したがって、子会社の資産の取得原価に含めるべき財務費用について、その金額を誰が決めるのか、どの範囲にするのか、どのタイミングで決めるのかといった問題が発生します。
これらの検討項目を整理すると、通常は、
「適格資産」の確認 ⇒ 「資産化率」の計算
⇒ 資産化する借入費用の決定
という手続きで済みます。
しかし、グループ内での貸付や借入が行われている場合には、以下の手続きが必要になります。
①個別決算の前に、グループ内のどの企業に「適格資産」があるかを把握し、
②グループ内の企業の借入金やファイナンス・リースに関する残高情報を収集・集計し、
③グループ内の企業の借入金やファイナンス・リースに関する財務費用を収集・集計し、
④②と③から、グループベースでの「資産化率」を計算し、
⑤④の計算結果を「適格資産」をもつ子会社に通知し、
⑥⑤の子会社は、④の「資産化率」を用いて取得原価に含める借入費用を計算し、
⑦「適格資産」が有形固定資産である場合には、減価償却計算を行い、
⑧その有形固定資産が製造設備などの場合には、⑦の減価償却費を含めた原価計算を行い、
⑨⑧の結果を受けて、その期の棚卸資産と売上原価を確定させて、個別決算を締める。
何も考えずにIAS第23号「借入費用」に対応すると、会計監査人から上記のような厳密というか厳格な対応が要求されて、とんでもない負担がかかり決算に膨大な時間がかかるでしょう。
したがって、借入費用の資産化については、その決定主体、範囲およびタイミングなどについて、事前に十分検討したうえで対応することが望まれます。
当然、これらの内容については、会計監査人と事前の「協議」をしておくことも忘れないようにしてください。
以上
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。