公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
日本の会計基準では、開発にかかったコストは、すべて開発を行った会計期間の費用として計上しなければなりません。
ここに問題があります。
例として、新製品を開発するケースで説明します。
まず、新製品を開発する目的は、現在の販売能力を維持したり、さらには将来の売上を伸ばすために行われるものですね。
つまり、「企業の成長」のためにとても重要な活動です。
「企業価値」を高めるための活動とも言えます。
しかし、現在の日本の会計基準では、開発にかかったコストを、新製品が実際に販売される会計期間に費用として計上するのではなく、開発を行った会計期間に費用として計上することが義務付けられています。
この会計基準が日本の企業をダメにするのです。
なぜなら、ある会計期間の業績が悪く、当初もくろんでいた利益があげられないと予想された時に、開発費を削って当初予定していた費用をカットして、当初予算の利益をあげようという経営判断を導きやすいからです。
これは、ある意味「利益操作」と言えるでしょう。
「操作」というと、いささか人聞きの悪い印象ですが、「不正会計」や「粉飾決算」を行って利益を出すわけではなく、「合法的」な「操作」です。
「合法的」に「操作」しているので、経営者には何のお咎めもないのですが、業績が悪いということで、将来の業績をアップさせるための開発コストをカットしていたのでは、本末転倒ではないでしょうか。
IFRSでは、開発にかかったコストは、一定の規準を満たせば、開発を行った会計期間ではなく、新製品が販売される会計期間に費用を計上することになります。
韓国は2011年度からIFRSを強制適用しましたが、サムスン電子は2009年度からIFRSを先行適用しました。
その結果、リーマンショック後に日本企業が開発費をカットしたのと対照的に、サムスン電子は毎期数兆円規模の開発投資を行っています。
かたや、日本企業は、業績が悪くなると開発費をカットして、なかなか業績が回復しない。 かたや、サムスン電子は、毎年の業績とは関係なく、開発投資を毎年増やし続けて、長期的な成長を実現している。
当然、会計基準の違いだけではなく、何を開発するのか、マーケットのニーズに合った製品を開発しているのかどうかといった違いもあるでしょう。
しかし、開発費の総額自体が圧倒的に違えば、開発の中身以前に、企業の成長力に差が出るのは当たり前ではないでしょうか。
日本の会計基準もIFRSと同様に、開発費を全額費用として処理するのではなく、資産計上した上で、新製品の販売開始とともに費用を計上する「論点整理」まで公表されましたが、現在棚上げになっている状態です。
このままでは、ますます日本企業の競争力が失われて行くのではないかと危惧しています。
以上
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。