公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
自民党・日本経済再生本部は、昨年5月10日に公表した自民党の成長戦略である「中間提言」を改訂し、「日本再生ビジョン」として、2014年5月23日に公表しました。
今後、政府(安倍首相が座長の産業競争力会議)が6月末にかけて改訂予定の「日本再興戦略」の中に、この自民党の提言がどれだけ採用されるかが注目されます。
その中に、IFRSに関する記載が数か所あります。
今回は、その記載箇所を示すとともに、補足的な説明をします。
まず、42ページ目に以下の記載があります。
安部首相が表明している「集中投資促進期間」のできるだけ早い時期に、わが国としての国際財務報告基準(IFRS)の強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定するよう、各方面からの意見を聴取し、議論を深めることを求めており、政府は、タイムスケジュールの決定に向けて具体的作業を早急に始めるべきである。 |
「集中投資促進期間」とは、2013年から2016年までの3年間のことです。
したがって、ここでは、2016年までのできるだけ早い時期に、強制適用にすべきかどうか、強制適用をする場合には、いつから適用させるか、そのタイムスケジュールを決定する作業を、具体的にかつ早急に実施するべきだということを提言しています。
これも42ページ目の記載です。
2016年のIFRS財団モニタリング・ボードのメンバー定期見直し後もメンバーとしての責任を果たし、IFRSの基準策定に日本として発言権を維持するためには、要件として課されているIFRSの「顕著な適用」が不可欠なことから、自民党・企業会計小委員会が昨年6月にまとめた提言では、2016年末までに300社程度の企業がIFRSを適用する状態にすることが求められた。 政府は、その実現に向けてあらゆる対策を検討し、実行に移すとともに、積極的に環境整備に取り組むべきである。 |
昨年の6月に提示された数値目標について、全く変更していないことがわかります。
「2016年までに」というのは、上記「集中投資促進期間」の「2013年から2016年までの3年間」と合致しています。
今年はもう2014年ですから、あと2年です。
目標とする適用会社数は、「300社」です。
1年経って、まだ40社前後ですから、進捗は著しく遅いと考えられます。
これも42ページ目の記載です。
(JPX日経インデックス400)では、社外取締役やIFRSは「加点項目」とされたももお、それぞれの導入を強力に促進するにはやや力不足である。 今後JPXにおいては、当該指数銘柄に採用された企業に関しては、社外取締役やIFRS導入動向状況をモニターし、全体として十分な進展がみられない場合、当該企業への働きかけや、それらの加点割合を増加させる等、一層の促進策の検討を行うべきである。 |
JPX日経インデックス400に採用された企業には、IFRSの任意適用を積極的に働きかけるとあります。
「半強制的」のイメージです。
「ソフト・ロー」とか、「ゆるやかな義務化」などと表現される手法です。
また、「加点割合を増加」させるという表現もあります。
今のところ、定量評価の上位から400社前後のボーダー以下に位置する企業について、IFRSを適用していれば加点し、400位以内の企業と入れ替えて選定することになっています。
本コラムの第19回「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」でも一部触れましたが、定量スコアで540点台で430位前後だった企業が当選し、逆に定量スコアで580点近くで380位前後だった企業が落選したようです。
これから考えると、IFRSの「加点割合を増加」されると、この入れ替え戦の動きが、現在より激しくなると予想されます。
具体的には、定量スコアで450位、あるいはもっと下位の500位くらいでも、新指数の銘柄として選定される可能性が高まるということでしょう。
逆に定量スコアで350位、あるいはもっと上位の300位以内にいても、落選する可能性が高まるということでしょう。
これも42ページ目の記載です。
IFRSの任意摘要会社(適用予定会社を含む)は、約40社となっている。 これらの会社がIFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットには、どのようなものがあったのか、等について、実態調査・ヒアリングを行い、未だIFRsへの移行を逡巡している企業の参考としてもらうため、金融庁において「IFRS適用レポート(仮称)」として公表し、移行を検討中の企業の後押しを行うべきである。 |
「IFRSを任意適用して何が良いの?」という素朴な疑問に対して、実際に先行適用した企業の実態をレポートとしてまとめて答えようということです。
すでにある程度調査を行い、手ごたえを感じているのではないでしょうか。
こちらは45ページ目の記載です。
大企業やベンチャー企業が将来有望な技術やモデルを持つベンチャーに対して行うM&Aを支援することは、成長戦略の推進においてきわめて重要である。 この点、わが国の企業会計基準がこうしたM&A活動の障害となる事態は避けるべきである。 現在の日本基準においては「のれんの償却」が義務付けられており、のれんの非償却が認められる国際財務報告基準(IFRS)との関係で競争力に問題が生じかねない。 こうした成長戦略の観点をさらに踏まえつつ、IFRSへの移行を促進し、IFRSの使いやすさの向上を図るため、経済産業省、金融庁、ASBJ(企業会計基準委員会)等で設置している「IFRS対応方針協議会」において検討を行い、早期の問題解決を図る。 M&A促進、米国企業とのイコールフッティングを考慮するならば、のれんは非償却とすべきとの声が強い。 |
「成長戦略」は、安倍政権の最重要課題です。
「のれんの償却」は、その阻害要因だというわけです。
これに対応するには、日本基準でも「のれんは非償却」にするか、「IFRSを適用しやすくするか」どちらかの対応が必要になるでしょう。
J-IFRSは、この流れに合致していると感じます。
最後に、冒頭の繰り返しにもなりますが、政府が6月末にかけて改訂予定の「日本再興戦略」の中に、この自民党の提言がどれだけ採用されるか、特にIFRSの「強制適用」の是非とスケジュールに関して、どこまで具体的に踏み込まれるかが注目されます。
そう言えば、IFRS適用への動きにストップをかけたのも「政治」でしたね。 金融庁ではありませんでしたね。
IFRS適用に向かって、再び大きく動き出すのも「政治」かもしれません。
以下が、今回取り上げた、自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」が掲載されているサイトのURLです。
https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/economic_recovery/125095.html
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。