公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
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【実際】
海外子会社は、2008年度からIFRSベースで個別財務諸表を作成し、現地監査人からも適正意見をもらってきていても、今後従来報告されてきた通貨では問題となるケースがありうる。
最近になって数件、立て続けに、お付き合いをしている企業様から相談を受けました。
それは、以下のような内容です。
例えば、昨年度まで、ベトナムなどの海外子会社は、IFRSベースで個別財務諸表を作成してきた。
報告通貨は、ベトナムのドンだった。
現地監査人からもドン・ベースで作成された個別財務諸表で問題は指摘されず、IFRSベースの監査として適正意見だった。
ところが、最近急に親会社の会計監査人から、「IFRSを適用して連結財務諸表を作成するためには、ベトナムの子会社の個別財務諸表はドン・ベースではだめです。USドル・ベースで作成させてください」と言われ、大変困っている。到底納得もできない。
企業サイドとして、納得できないのも理解できます。
そして、「昨年度までの現地監査人のIFRSベースでの監査の適正意見は何だったのか」という切実で悲痛の叫びも、当然だと思います。
まず、事実として、IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の第9項から第14項に、機能通貨の規定があります。
これによれば、例えば、ベトナムの子会社が単なる製造拠点で、主要原材料や基幹部品は親会社から仕入れ、その際の取引通貨はUSドル・ベースで、そのベトナムの子会社で生産された製品は、ほとんどベトナム国内では販売されず中国や日本に輸出され、その際の取引通貨もUSドル・ベースになっているようなケースでは、機能通貨は、ドンではなく、USドルにする必要性が極めて高いのです。
ではなぜ、前年度までIFRSベースで監査をしていた現地監査人はベトナム・ドン・ベースの財務諸表に適正意見を出していたのか。
何か特別な判断があったのか。
あるいはIFRSをきちんと理解していなかったのか。
IFRSをきちんと理解していなかったということが、ありえない話ではないのです。
IFRSは先進国が本格的に利用し始めたのが、2005年のEUからですから、自国でIFRSを適用していない国の会計士が、IFRSを理解していなくても不思議ではないのです。
「そんなことでは困る」とか、「そんなことがないように、大手アカウンティング・ファームに加盟している会計事務所を使ったのに」とか言いたくなる気持ちはわかります。
それよりも、問題は日本です。
親会社の監査人も、IFRSを十分に理解していたのかということです。
結局、現地も日本もIFRSを十分に理解していなかったという可能性があるのです。
高い監査報酬を払っている企業サイドからすると、「もってのほかだ」ということになりますが、事実は事実なのです。
もしまだ監査人と海外子会社の機能通貨について協議されていない場合には、注意していただきたいと思います。
今後このようなトラブルは増加すると予想しています。
以上
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。