公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
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【実際】
海外子会社が現地通貨で販売活動を行っているからといって、今後も従来の報告通貨で良いとは限らない。
先月のコラム『第60回「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」』でもコメントした海外子会社の「機能通貨」の問題です。
IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の第9項では、「機能通貨」を決定する主たる指標として以下の3項目を明記しています。
海外に製造拠点がある場合には、主原料や基幹部品を日本から輸入し、現地で製造・組立を行うケースが多いでしょう。
現地で製造・組立した製品を現地ではなく、ほとんど輸出するケースでは、『第60回「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」』でコメントした通り、現地通貨を「機能通貨」とすることは難しいと思われます。
これに対して、現地で製造・組立した製品をそのまま現地で販売するケースでは、現地通貨を「機能通貨」とすることに問題がないとされることが多いようです。
しかし、主原料や基幹部品を日本から輸入し、現地で製造・組立を行う場合で、労務費も高くない場合には、日本からの原材料費の製品原価に占める割合が大きくなる場合が多いので、上記③に抵触する可能性があり、さらに、製品原価に影響を与えた結果、①の現地での販売単価にも大きく影響を与えることも十分に考えられます。
さらに、海外子会社が製造拠点ではなく、販売拠点である場合にはなおさら、日本から仕入れた製品を現地で販売するだけなので、仕入値が販売価格を大きく左右することが考えられます。
この場合、仕入れる場合の取引通貨が、日本円やUSドルの場合には、現地で販売する場合の取引通貨が現地通貨であっても、「機能通貨」としては、日本円やUSドルにするように、会計監査人から指摘される可能性があるので注意が必要です。
また、現地通貨を「機能通貨」にする必要が生じた場合には、業務やシステムに深刻な影響を与える可能性があるので、こちらにも十分な注意が必要です。
IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の第21項に以下の規定があります。
「外貨建取引は、機能通貨による当初認識においては、取引日における機能通貨と当該外貨間の直物為替レートを外貨額に適用して機能通貨で計上しなければならない。」
この場合の、「外貨」とは、「機能通貨以外の通貨(第8項)」です。
したがって、例えば、EUの子会社の「機能通貨」が日本円とされた場合には、その子会社にとって、「ユーロ」は「外国通貨」になってしまうのです。
そうすると、日常的に発生する給与や経費も、日本円で計上する必要があるのです。
この場合に考えられる方法は、以下の2つです。
現在IFRS対応プロジェクトでこの問題に直面した企業の中には、日本から現地に輸出する場合の取引通貨を、これまでの日本円やUSドルから現地通貨に変えることも検討しています。
この場合、為替リスクは日本の親会社や子会社側が追うことになります。
ただ、そもそも為替リスクを海外子会社に追わせてきた従来の在り方自体に問題があったのではないかという反省にもなり、為替リスクのコントロールを親会社で統括し、グループ経営の中で統制する動きにつながることにもなるようです。
以上
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。