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第166回 従業員の現物給与に関わる税務上のポイント

第166回 従業員の現物給与に関わる税務上のポイント

 アクタス税理士法人

新年度が始まり、多くの企業で新入社員の入社や人事異動による新たな配属が行われる時期になりました。企業では研修実施による費用の負担や、転勤による社宅家賃の提供など、従業員への経済的利益の供与に関わる税務的な取り扱いを考えておく必要があります。そこで今回は、従業員の「現物給与」に関する税務上のポイントについて整理しました。

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■社宅・社員寮の貸与は「賃貸料相当額の50%以上の負担」を確認

自社所有の物件、又は他社物件を借りて社宅・社員寮として「従業員」に貸与するときに、次の算式で計算した賃貸料相当額(①~③の合計額)の50%以上を従業員が負担している場合、給与課税は不要となります。
①その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
②12円×(その建物の総床面積(㎡)÷3.3㎡)
③その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%

【具体例】社宅の賃貸料相当額が月額10,000円と計算された場合
・従業員負担額が月額3,000円の場合・・・賃貸料相当額10,000-3,000=7,000円を給与して課税する
・従業員負担額が月額5,000円の場合・・・賃貸料相当額の50%以上を負担しているため給与課税不要

■在宅勤務時の費用負担や物品支援は「業務利用部分」の明確化がポイント

会社の負担する在宅勤務時に発生する費用や物品支給の給与課税の要否はそれぞれ次のとおりです。

内容 給与課税の有無
在宅勤務手当として金銭を支給 毎月定額を渡切りで支給する場合、給与課税される
在宅用のパソコン、机、空気清浄機等を貸与 貸与として所有権が会社にある場合、給与課税不要
在宅勤務をレンタルオフィスで行った場合 領収書を会社に提出することで給与課税不要
従業員が負担した通信費等を精算 業務に使用した部分の金額の支給は給与課税不要

■教育研修費用や資格取得費用は「業務関連性」と「適正金額であること」を確認

従業員に仕事に関係のある技術や知識を習得させるために研修や講習等を受講させ、その費用等を会社が直接負担した場合、以下の要件を満たしたものであれば給与課税は不要となります。

  1. ①    その技術や知識等を取得することが会社の業務遂行上必要であること
    ②    その技術や知識等がその社員の職務に直接必要なものであること
    ③    その金額がその技術や知識等を取得するための費用として適正なものであること

■従業員への食事の支給は「従業員の負担割合」「会社負担額」を確認

従業員に対し、通常の勤務時間中に食事を提供した場合、原則その食事の価額と従業員負担額の差額が給与課税されますが、以下のいずれの要件も満たす場合には給与課税は不要となります。

  1. ①    従業員が食事の価額の50%相当額以上を負担していること
    ②    支給した食事について会社が負担した金額が月額3,500円以下であること

【具体例】給食業者から会社が食事を購入し、従業員へ提供した場合の課税関係は以下のとおりです。
食事の購入価額 従業員負担額 負担割合 会社負担額 給与課税される額
5,000円/月 2,500円/月 〇(50%) 〇(2,500円/月) 給与課税不要
5,000円/月 2,000円/月 ×(40%) 〇(3,000円/月) 3,000円/月(=5,000-2,000)
8,000円/月 4,000円/月 〇(50%) ×(4,000円/月) 4,000円/月(=8,000-4,000)

■レクリエーション旅行等の開催は「会社負担額」や「日数」「参加割合」がポイント

旅行の目的、規模、内容等を総合的に勘案し、また経済的利益の供与が少額の現物給与については強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱していない社員旅行については課税しないこととされています。
具体的には、旅行代金として従業員に供与する経済的利益の額が少額で、かつ、下記の要件を満たす慰安旅行については、原則として給与課税は不要となります。

  1. ①    旅行の期間が4泊5日以内であること。
    ②    旅行に参加した人数が全体の人数の50パーセント以上であること。

■Q&A

Q1.社宅の水道光熱費を会社が負担した場合、給与課税は必要でしょうか。

A.社宅の水道光熱費は従業員が負担すべき費用であり、原則給与課税が必要です。
ただし、社員寮など会社が負担する水道光熱費の金額が居住のために通常必要とされる範囲内のもので、かつ、従業員ごとの使用部分に相当する金額が明らかでない場合、給与課税は不要です。

Q2.会社へ出社しての勤務と在宅勤務を併用する従業員に対し通勤手当を支給した場合、非課税となる金額はどのようになりますか。

A.対象となる従業員の勤務形態を「原則出社」「原則在宅勤務」に分類し、それぞれ給与課税の取り扱いが異なります。「原則出社」の従業員の場合、在宅勤務を行わない従業員と同様に通常の非課税限度額までの通勤手当は非課税となります。「原則在宅勤務」の従業員の場合、出社の都度、実費で精算する交通費は給与課税が不要となります。

Q3.在宅勤務を行う従業員に対し、在宅勤務中に業務に使用した通信費を実費精算する際に、「業務に使用した部分の金額」はどのように算定すればよいでしょうか。

A.通信費のうち業務に使用した部分について、通信費の料金体系や業務での使用時間等を考慮し合理的に算定する必要があります。簡便的な方法として次の算式により計算した金額も認められます。

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Q4.在宅用に貸与した事務用品等を使用しなくなった場合、従業員自身で破棄してもよいでしょうか。

A.在宅勤務に関連する事務用品の貸与は、会社所有のパソコン等の貸与を前提としており、所有権は会社にありますので、原則として使用後は会社に返還する必要があります。

Q5.従業員のスキルアップを目的に、全従業員を対象として希望者へ大学院の入学金や授業料に充てるため学資金を給付しています。この場合、給与課税は必要でしょうか。

  1. A. 法人が従業員に給付する学資金については、以下の要件のいずれも満たす場合は所得税法上、非課税所得となり給与課税は不要となります。
    ①    通常の給与に加算されて給付を受けるものであること
    ②    従業員本人の学資に充てるために給付するもの
    ただし、この制度対象が特定の従業員に限定されている場合は給与課税されます。

Q6.通常の勤務時間外で残業を行う従業員に対し夕食を現物で支給しています。この場合の給与課税の有無の判定は通常の勤務時間中と同じ要件でしょうか。

A.通常の勤務時間外で残業や宿日直勤務を行う従業員に対し現物で食事を提供した場合、無料で食事を提供したとしても原則給与課税はしなくてもよいとされています。

Q7.社員の親睦等を目的に例年行っている社員旅行について、参加割合が全体の50%を下回った場合にはただちに給与課税の対象となりますか。

A.参加者が50%に満たなかった場合にも、旅行の目的や規模、内容等を総合的に勘案し、社会通念上一般に行われるレクリエーション旅行と認められる場合には、給与課税は不要です。ただし、不参加者に対して別途金銭等を支給した場合には給与課税の対象となります。

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