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第183回 電子記録債権の活用について

第183回 電子記録債権の活用について

 アクタス税理士法人

 近年、ネットバンキングによる振込やクレジットカード、QRコード決済などの電子決済手段が急速に普及するなか、全国銀行協会は紙の約束手形・小切手を決済する電子交換所の運営を2027年4月に終了すると発表しました。これに伴い、金融機関でも紙の手形・小切手の取立受付を順次終了する見込みです。紙の手形等が実質的に廃止される流れにある中、代替手段として電子記録債権の活用が期待されています。 

電子記録債権とは

 電子記録債権は、手形や売掛債権などの従来の紙媒体による金銭債権を、電子的に記録・管理する新しい形式の債権です。主に中小企業の資金調達の円滑化を目的とし、2008年12月に施行された電子記録債権法に基づき創設されました。
 電子記録債権のおもなメリットは、分割譲渡が可能なため資金調達の柔軟性と流動性が高まるほか、債権の存在や帰属関係が電子的に記録・管理されトラブルを防止し取引の透明性が確保され、さらにペーパーレス化により用紙代や郵送料などコスト削減と手形の受け渡しや保管にかかる事務作業の効率化が実現できます。加えて紛失や盗難、災害、偽造といったセキュリティ上のリスクも大幅に軽減されます。

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(画像:金融庁HP 広報誌第56号から引用)

電子記録債権の導入にあたって留意すべきポイント

 手形が廃止され、電子記録債権などを扱うことになると入出金のタイミングが変わることになります。これにより資金繰りが変わり、資金の過不足が生じる可能性があります。導入にあたっては、資金管理の見直しが必要になってきます。

(1)キャッシュフローの見直し
 電子記録債権はデジタルデータで管理され、リアルタイムで情報が共有されるため、従来の手形と比べて決済や処理のスピードが向上します。受取側からみると入金サイクルが早まる分、手元資金が潤沢になります。この資金的余力を、新たな事業展開や人的資源への投資に振り向けることができます。一方、支払から考えると、支払サイクルが早まることにもなるため、必要に応じて、取引契約における支払条件の変更・見直しや、運転資金の確保策を講じる必要が出てきます。

(2)社内取扱い体制の整備
 電子記録債権は紙の手形と異なり、デジタル上でやり取りされるため、適切な管理体制を構築する必要があります。例としては次のような対応が求められます。

  1. ・責任者の明確化 : 登録や管理業務の担当者・承認者を明確にし、不正やミスを防ぐ。
    ・取引契約の整備 : 電子記録債権を利用する際の取引条件を契約書で明確にする。
    ・ログ記録と監視 : 取引履歴や操作ログを記録し、不審な動きを監視する。

    ・バックアップ体制 : システム障害やサイバー攻撃に備えて、定期的にデータをバックアップする。
導入にあたっては、社内事務ルールの整備や取引先との運用ルールのすり合わせを行うことが重要です。

電子記録債権に係る会計・税務の取扱い

(1)勘定科目の設定
 電子記録債権は会計上、手形債権に準じて扱われ、受取側は通常の債権と区別して「電子記録債権」勘定で計上することになります。また、支払側は「電子記録債務」勘定を用いて負債に計上します。貸倒引当金の設定などに関しては従前の手形と同様に処理します。

(2)科目内訳明細書への記載
 電子記録債権は法人税申告書の科目内訳明細では受取手形に準じて記載することになります。ただし、摘要欄に「電子記録債権」等と記載し、従前の手形と区別することが必要です。

(3)印紙税の取り扱い
 紙の約束手形または為替手形は印紙税の第3号文書に該当し、手形金額に応じて印紙税が課税されます。しかし、電子記録債権は印紙税の課税対象外になります。

Q&A

Q1.電子記録債権を利用するためにはどのような手続きが必要ですか。

A.電子記録債権を利用するためには、債務者(支払側)と債権者(受取側)の双方がそれぞれ手続きを行う必要があります。まず、取引銀行の窓口へ利用申込書を提出します。申し込み後、金融機関による審査が行われ、承認されると利用契約が締結されます。登録完了後、企業は利用者IDと初期パスワードを受け取り、システム利用環境を整えます。その後、操作研修を受講し、テスト環境での操作確認を経て、実際の債権発生・譲渡等の取引が可能となります。

Q2.電子記録債権とでんさいは異なるのですか。

A.電子記録債権はでんさいと言われることが多いですが、でんさいとは「株式会社全銀電子債権ネットワーク」(でんさいネット)が商標登録した電子記録債権の名称です。でんさいネットは全国銀行協会が100%出資して設立した電子債権記録機関で、複数ある機関の中で最多の金融機関が参加する国内最大の決済インフラとなっています。

Q3.電子記録債権以外の電子決済手段はどんなものがありますか。

A.電子記録債権以外の電子決済手段としては、主に次のような方法が挙げられます。

  1. ・銀行振込:企業間決済で最も一般的な手段です。インターネットバンキングやモバイルバンキングを利用すれば、即時実行が可能です。
    ・法人向けクレジットカード:ポイント特典などのメリットがある一方、利用手数料がかかります。
    ・ファクタリング:売掛金を第三者(ファクタリング会社)に売却して早期現金化する方法。

このほかにも多様な決済手段が存在しますが、手数料・スピード・導入難易度は手段によって異なります。取引先の対応状況や利用シーンに応じて、最適な方法を選択することが求められます。

Q4.ファクタリングとの違いについて教えてください。

A.電子記録債権とファクタリングはいずれも、金銭債権を譲渡し、期日到来前の現金化を行うための仕組みですが、以下のような違いがあります。

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Q5.電子記録債権でも支払不能となることはありますか。

A.手形取引のように支払期日に債務者側の決済口座に資金がなければ支払不能となり、不渡と同じ状態になります。この場合、従来の不渡手形と同様の会計処理が必要となります。 具体的には、以下のような処理が必要となります。

  1. 債権者(受取側):支払期日経過電子記録債権/電子記録債権
    債務者(支払側):電子記録債務/未払金

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