公認会計士 中田清穂のインボイス制度と電子帳簿保存法の解説講座 2022.04.05 (UPDATE:2024.11.21)
中田 清穂(なかた せいほ)
私は最近、2022年1月1日から強制適用されている電子帳簿保存法(以下、改正電帳法)について各種サイトやメールマガジンで記事を提供しています。
特に、ITメディアビジネスオンラインに掲載した記事には、多くの読者からコメントが寄せられるので、皆さんの関心の高さや理解の深さについてとても参考になります。
改正電帳法について掲載した記事に対して、読者からいただいたコメントを拝見すると、改正電帳法への対応は、「任意であって義務ではない」という理解をされている方や、真逆の「義務であって任意ではない」という理解をされている方がいらっしゃいます。
もっと具体的に言うと、
(1) 「税務署に電子保存を選択したという申請をしなければ、たとえ電子的に入手したエビデンスであっても電子的に保存する必要はなく、従来通り紙に出力して保存すればよい」という理解と、
(2) 「電子的に入手したエビデンスだけでなく、紙で入手したエビデンスであっても、電子的に保存する必要があって、紙で保存してはいけない」という理解
の両極端な理解です。
上記(1)(2)いずれも間違っています。
正確な理解ではありませんし、かなり混乱しているように感じています。
今回はこの辺りを整理して、きちんとした理解ができるようにしていただきたいです。
改正電帳法への対応が「義務」になるのは、「電子取引」への対応です。
改正電帳法で「電子取引」とされているのは以下のケースです。
(1) 電子メールからの入手だけではなく、
(2) インターネットのホームページからのダウンロードによる入手
(Amazon、楽天、ネット通販、スマホ代、交通系ID決済、クレジットカード支払明細などなど)
(3) ホームページ上やメール本文に表示される請求書や領収書等のスクショ(画面ハードコピー)
(4) ファイル保存機能のあるFAXでの受信による入手
(5) EDI取引
(6) クラウドサービスを利用した入手(BtoBプラットフォームなど)
上記(1)から(6)はすべて「電子取引」によるエビデンスの入手とされています。
そして、これら「電子取引」によって入手されたエビデンスは、「電子的に保存」する義務があります。
「任意」ではないのです。
個人事業主であろうと、法人であろうと、消費税と所得税の、全ての納税者が対応しなければなりません。
なお、「電子的に保存」する義務があるのは、「入手」する場合だけでなく、
「送付」する場合も全く同じ義務があることにも留意が必要です。
改正電帳法への対応が「任意」になるのは、エビデンスを「紙」で入手した場合の対応です。
エビデンスを「紙」で入手した場合には、従来通り「紙」のまま保存することができます。
しかし、人手不足を補うために、経理業務などを効率的にしていく上で、便利なITツールを利用するために、まずは「紙」をPDFなどに電子化して、「電子的に保存」することを「任意」に選択している企業が少しずつ増えています。
最近政府は、日本企業のIT化を促進するために、様々な施策を講じています。
中小企業に対しても、「IT導入補助金」なども年々充実させて、とにかく日本企業の事務作業の生産性向上に躍起になっています。
少子高齢化、経理業務の不人気化、取引先や政府のIT化などの時代の流れの中で、「義務」ではなくても、自ら「電子的保存」を選択する企業は、増えることはあっても減ることはないでしょう。
では、同じ内容のエビデンスを「紙」でも「電子取引」でも入手する場合、
そのエビデンスを「電子的に保存」するのは、「義務」でしょうか、あるいは「任意」でしょうか。
もっと具体的に言うと、エビデンスをメールなどにPDFで添付されるなどして「電子取引」で入手した際に、
別途書面(紙)のエビデンスが郵便で送られてくることがあります。
この場合、紙のエビデンスの方が「原本」になることがあります。
電子的に保存することは構いませんが、原本である紙を捨てると、法律違反(電子帳簿保存法違反)となり、重加算税や青色申告取消の恐れが出てきますので、十分な注意が必要です。
紙のエビデンスの方が「原本」になるケースとしては、以下のようなケースが考えられます。
(1)支払いの締めに間に合わせる目的などで、取りあえず電子メールで請求書などのPDFファイルを送付するが、あくまでも「原本」は紙であることを取引相手と確認して、別途同じ内容の紙のエビデンスを郵送してもらうケース。
(2)取引相手は、どちらが原本であるかについての明確な意思表示はしていないが、「電子データと紙の両方を受領する場合には、紙を原本とする」など、自社の社内規定で「原本」は紙であることを規定しているケース。
(3)取引相手と「原本」が紙であることを明確に確認しておらず、かつ「原本」が紙であることを明文化した社内規定もない場合で、取引相手に「紙」を原本とする社内規定があるケース。
なお、11月12日に国税庁のサイトに「お問合せの多いご質問(令和3年11月)」という文書が掲載されました。
この文書の6ページ目に
「電取追1 電子取引で受け取った取引情報について、同じ内容のものを書面でも受領した場合、書面を正本として取り扱うことを取り決めているときでも、電子データも保存する必要がありますか。」 |
「電子データと書面の内容が同一であり、書面を正本として取り扱うことを自社内等で取り決めている場合には、当該書面の保存のみで足ります。ただし、書面で受領した取引情報を補完するような取引情報が電子データに含まれているなどその内容が同一でない場合には、いずれについても保存が必要になります。」 |
──という回答になっています。
「電子取引で受け取った取引情報について、同じ内容のものを書面でも受領した場合、電子データを正本として取り扱うことを取り決めているときには、書面(紙)は廃棄してもよいのではないか」 |
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。