公認会計士 中田清穂のインボイス制度と電子帳簿保存法の解説講座 2025.05.02 (UPDATE:2025.05.02)
中田 清穂(なかた せいほ)
すでに多くの方々はご存じだと思いますが、請求書をやり取りする際に「Peppol(ペポル)インボイス」というものがあります。
従来多くの企業では、請求書は「紙」でやり取りしてきましたし、今でも圧倒的多数だと思います。
しかし最近では、PDFファイルやCSVファイルなどの「電子ファイル」でやり取りするケースが増えてきています。
さらに、「Peppolインボイス」でやり取りするケースも増えてきています。
これらの業務のイメージを示したのが、以下の図です。
(出処:キヤノンマーケティングジャパングループのサイトから筆者加筆:https://canon.jp/biz/trend/dwa-digital-invoice)
「Peppolインボイス」でやり取りするケースは、3番目の「標準形式データでやり取り」するケースです。
「Peppolインボイス」がPDFファイルなどの「電子ファイル」でやり取りするケースと決定的に異なるのは、請求書のフォームや記載事項が標準化されていることです。
PDFファイルなどの「電子ファイル」は、「紙」と比べれば、発行側では、印刷・封緘・切手貼り・ポストに投函などの作業はなくなるので、その分は業務の効率化や残業代削減効果はあると思います。
しかし、PDFファイルなどは、作成する業者によって、フォームがバラバラだったり、請求書番号があったりなかったりして、受け取った企業として、業務の効率化には限界があります。
「Peppolインボイス」は、こういった限界を一気に突破する画期的なやり方です。
「Peppolインボイス」の「Peppol」というのは、国際標準なのです。
何の標準かというと、請求書のフォームや記載事項などの文書の仕様ルール、運用上のルール及びネットワークの標準規格なのです。
この「標準化」がもたらす意味は以下です。
最近のクラウド会計ソフトでは、Peppol対応しているものが相当増えてきています。
Peppol対応していない会計ソフトを使うことは、大事な取引先や仕入業者を失いかねません。
「自社で使用する会計システムが自社のビジネスの足を引っ張る」ということになりうるでしょう。
「Peppolインボイス」のメリットは他にもあります。
それは人的側面です。
標準化された仕様で請求書を作成するため、相手先ごとに異なる内容にするためのノウハウも必要ないので、「属人化」しにくく、業務の引継ぎがしやすくなります。
受取側も同様です。請求書がみな同じフォームで受け取れるので、仕訳の作成や登録、さらには支払にいたるまで、相手先ごとに異なる内容にするためのノウハウが必要なく、「属人化」しにくくなります。
経理人材の高齢化や不足が、会社の深刻な課題になっている場合には、とても大切なメリットと言えるでしょう。
ここで、「Peppolインボイス」を導入しようとしても、お金がかかるからやらない、という会社も多いようです。
しかし、現在日本では、中小企業のIT化を促進することで日本企業の間接業務の効率化を進めて、ひいては、日本経済の発展を促す方針(骨太の方針)が継続されています。
その流れで「IT補助金制度」が創設され、まだこの制度は生きています。
政府を上げて日本企業のIT化を進めているのになかなか進まないので、この「IT補助金制度」がまだ続いているのです。
しかし、最近の電子帳簿保存法やインボイス制度に関連して、「電子取引」によるエビデンスの電子保存が義務化されるなどの動きと共に、IT化を進める企業は増えています。
これらの企業の多くは、当然「IT補助金制度」を活用しています。つまり、「IT補助金制度」の予算の残りはどんどん少なくなっています。
周りの様子を見て判断すると、「Peppolインボイス」を導入しようとした時に、高額なコストが発生することも、十分にありうると思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。