公認会計士 中田清穂の会計放談 2020.09.01 (UPDATE:2020.10.03)
中田 清穂(なかた せいほ)
テレワークを進めていくためには、いろいろなコストがかかります。
ざっと上げてみると以下のようになります。
これでも網羅的ではありませんが、このようなコストをだれが負担するべきか。
答えは明快ですね。
会社です。
会社で行うべき業務を自宅で行ったことにより発生したコストですから、当然会社が負担すべきです。
しかし、あいまいな部分もあります。
会社の業務を行う目的だけで発生したのか、個人的にも使うことがあるのか、ということになると、全額会社に負担させるというのもはばかられる思いがします。
いずれにしても、会社はテレワークを推進するためには、ある程度の支出が必要になります。
そこで、経費精算や稟議による、「上長の承認」が必要になります。
ここで問題が発生します。
課長:「最近はやってるZoom飲み会とか、やっぱりやってる?楽しいのかな?」
社員:「あー、やってます、やってます。やってみたら意外と楽しいですよー。」
課長:「ってことは、今回申請されたこのPCは個人でもかなり使ってるんですねぇ。そうなると、会社の負担ではなくて、個人負担になりますねぇ。」
こんなこと言われたら、会社を辞めたくなりますね。
今、日本中で発生しているような気がします。
また、テレワークを推進するためには、請求書や領収書などの「紙」のエビデンスを電子化することは、非常に重要なポイントになります。
しかし、エビデンスの電子化には、スキャンするための機器や人件費などが発生します。そこで、エビデンスの電子化のために、スキャナーの購入や派遣社員の採用などの稟議をあげると、上長から以下のような発言があります。
「テレワークで必要だという『エビデンスの電子化』のためにこれくらいのコストが発生するのはわかりました。それでどのくらいの効果があるのかも算出して稟議をあげてください。そうしないと、会社にとって必要な支出なのかどうかが判断できません。」
つまり、エビデンスの電子化を行うことでの「費用対効果」の有無を言っているのです。
エビデンスの電子化はテレワークを推進するためにやろうとしているんです。
テレワークの目的は、かけるコストに対して、「他のコストが下がる」とか「売上が上がる」とう効果があるからやるんでしょうか。
ちょっとおかしいように感じます。
テレワークの目的は、以下の二つだと思います。
以上2つの目的を達成するために発生するコストに対して、「コストダウン」や「売上増加」などの効果は測定できません。
つまり、テレワークの目的は「費用対効果」ではないんです。
しかし、今の日本企業では、稟議申請のモノサシが「費用対効果」一辺倒なので、費用を上回る効果があるという案件しか、稟議が通らないのです。
このままでは、社員の健康や命も守れない会社になってしまいます。
このままでは、感染症、台風、集中豪雨、地震、噴火などが発生した時に、業務が全くできない会社になってしまいます。
今回、新型コロナウイルスから学んでいることは、「社員を大切にする会社にするためにはどうしたら良いか」とか、「事業の継続に重大なインパクトのあるリスクが発生した時でも、なんとか事業を継続できるようにするためにはどうしたらよいのか」を、しっかり考えて対応をし始めることが必要だ、ということだと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。