公認会計士 中田清穂の会計放談 2021.03.09 (UPDATE:2021.03.11)
中田 清穂(なかた せいほ)
令和5年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度が導入されます。
適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。
「適格請求書発行事業者」になるためには、登録申請書を提出し、登録を受ける必要があります。
ただし、登録申請書の提出が可能となるのは、令和3年10月1日以降となります
仕入先が適格請求書発行事業者の登録を受けなければ、仕入先は適格請求書を交付することができないため、購入側である会社は仕入税額控除を行うことができなくなります。
この場合、以下の3通りのどれかになります。
① 仕入税額控除されるはずだった消費税を自腹で負担
② 自腹で負担したくないので、消費税分値下げ要求(消費税の上乗せ禁止)
③ 自腹で負担したくないので、この仕入先との取引をやめる
購入側としては、①の仕入税額控除相当分を自腹で負担することで納税額が増えることは避けたいところです。
そうなると、②の仕入先に、従来の取引代金から消費財相当分を減額するようお願いしたいところです。
仕入先が②のお願いに応じてくれないと、③同じような製品・サービスを提供する業者に変える、つまり従来の仕入先との取引を辞めることになるかもしれません。
したがってきちんと対応するためには、仕入先に「適格請求書発行事業者」の登録をお願いする手続きが有効になるでしょう。
この時がチャンスなのです。
何のチャンスかというと、請求書を発行する場合には、「紙」ではなく、PDFなどの「電子データ」で送ってもらうチャンスなのです。
すなわち、仕入先に「適格請求書発行事業者」の登録をお願いする手続きの際に、以下の2項目を同時にお願いするのです。
① インボイス制度導入に伴い、適格請求書発行事業者の登録をしてほしい。
② 同時に、今後はできるだけ「紙」ではなく、「PDFファイル」で送ってほしい。
これはまさに「一石二鳥」ではないでしょうか?
1回のお願いで、「インボイス制度」への対応と「電子帳簿保存法に基づくスキャナ保存制度」への対応ができるのです。
「電子帳簿保存法に基づくスキャナ保存制度」は、令和3年度において、「大幅な改正」というよりも「抜本的な改革」と言えるものです。
いろいろなケースごとに要件があるのですが、多くのケースでは、税務署の承認をえることなく、請求書や領収書などの「紙」のエビデンスが捨てられるのです。電子的な保存だけで許されるのです。
したがって、私は今回の改正が「大幅な改正」ではなく「抜本的な改革」だと言っています。
この電子帳簿保存法の「抜本的な改革」に関する法案は、すでに財務省から国会に提出され、国会でくだらない議論で空転しない限り、3月中に成立する予定です。
そうすると、令和4年1月1日から、エビデンスは電子的保存だけにすることができるのです。
「紙文化」からの脱却といっても、「紙」を捨てることに抵抗がある人は、捨てなくても良いのです。
「万が一」に備えて「紙」を保管しておきたければ、捨てても良いと思ったときに捨てれば良いのです。
重要なことは、経理業務を「電子データとなったエビデンスを中心とした業務」に変えることです。
このメリットは以下です。
① エビデンスを格納しているシステムやフォルダにアクセスさえできれば、エビデンスを
「いつでも・どこでも・誰でも」見て、利用することができる(利便性向上)
② 書庫やキャビネットに「紙」のエビデンスを探しにいく手間や時間が無くなる(効率性向上)
③ テレワークを「非効率にしないで」促進できる。
このメリットはさらに複数のメリットを生みます。
i. 出社を抑制することで、社員の「命と健康」を守る。
ii. 交通機関が遮断されても「いつでも・どこでも」経理業務ができるので、経理の「業務継続性(BCP)」が実現できる。
いかがでしょうか。
「インボイス制度」の「適格請求書発行事業者」の登録は「任意」とされてはいますが、事実上、登録が必須でしょう。
ほとんどの企業が対応するチャンスを生かして、「エビデンスの電子化」さらにはデジタルトランスフォーメーション(DX)への扉を開ける、絶好の機会だと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。