公認会計士 中田清穂の会計放談 2021.05.10 (UPDATE:2021.05.10)
中田 清穂(なかた せいほ)
「Afterコロナで業務が変わる!!」
最近よく耳にする言葉です。
さらに、コンサルティング会社などの業者のセミナーでは、「新常態(ニューノーマル)」という言葉も良く使われています。
「従来とは全く異なる状況が当たり前になる」という意味です。
「新常態」の前提になっているのがテレワークでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大が長期化していて、職場での感染も問題視されていることから、政府や自治体では、テレワークの推進が叫ばれ、「出勤者7割削減」などの数値目標まで要請されています。
さてここで落ち着いて考えてみましょう。
テレワークによって「出勤が7割減った状況」が「常態化」するでしょうか。
緊急事態宣言の期間中は、なんとか在宅勤務で我慢するものの、宣言解除となれば、元通りの出社勤務に戻そうという方針の会社がほとんどだと思います。
これは最近のいろいろな調査でわかってきています。
例えば、昨年4月にダイヤモンド社とスーパーストリーム社が共同で「経理業務のテレワークにおける課題」についてアンケート調査を実施して、経理・財務部門では、他の部門と比較して、テレワークが進んでいない実態が明らかにされました。
そして今年も4月に同様のアンケートが実施されました。
その結果の詳細は、近いうちにダイヤモンド・オンラインに掲載されると思いますが、私が衝撃を受けたのは、「多くの業務がリモートではできないため、基本的に出社している」と回答した経理・財務部門の方が、32%から59%に激増したことです。
ほぼ倍増です。
経理・財務部門では、明らかにテレワークは後退しているのです。
その最も重要な原因は、請求書や領収書など「紙」に係る業務の改善が進んでいないことのようです。
また、同じ緊急事態宣言期間中であっても、昨年と今年では緊張感が異なり、今年の方が緊張感が緩んでいると感じられます。
今年の方が感染者数は圧倒的に多いのに、「飲食店され気を付ければいいんだ。職場には行っても大丈夫だろう」という考えが多くなっているようにも感じられます。
いずれにしても、このままでは、経理・財務部門ではテレワークは定着しないでしょう。
「紙文化」から脱却できない以上、仕方がないと思います。
しかし、「命や健康が害されるリスク」や「業務不能に陥るリスク」が高まった際には、混乱なくテレワークを行えるようにしておくことがポイントになるのだと、私は考えています。
つまり、「テレワークの常態化」ではなく「テレワーク移行体制の常態化」です。
「いつでもテレワークに移行できるようにしておく」ということです。
これは津波への備えに似ています。
津波に備えるためには以下の方法があります。
もうおわかりかと思いますが、テレワークとの対応関係で説明すると、(1)が「テレワークの常態化」です。
そして、(2)が「テレワーク移行体制の常態化」です。
(1)はベストな対応ですが、時間とコストがかかりますね。
(2)はリスクを完全には排除できませんが、きちんと整備・運用を怠らなければ、リスクへの対応は相当程度期待できます。
ただ、(2)にしても、経理・財務部門のテレワークに話を戻せば、対応のための1丁目1番地は、「紙文化の脱却」であることに間違いはないと思います。
「命と健康」及び「業務の継続性」を脅かすリスクは、感染症だけではありません。
地震、津波、台風、豪雨豪雪、河川氾濫などなど・・・。
「テレワーク移行体制の常態化」を怠ることは、社員として、管理責任者として、取締役として、責任を果たしていないということになるように思います。
そして政府も法制度を改正して、テレワークのための「紙文化からの脱却」を後押ししています。
①電子帳簿保存法の大幅な緩和と②インボイス制度導入における「電子インボイス制度」です。
したがって今や、この二つの大きな法制度の変更について、一層の関心を持って情報収集をして、「紙文化脱却」への第1歩を進める、絶好のタイミングだと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。