公認会計士 中田清穂の会計放談 2018.10.01 (UPDATE:2020.10.02)
中田 清穂(なかた せいほ)
このコラムの読者の皆さんは、「東ロボくん」についてご存じでしょうか?
東ロボくんは、「AI(人工知能)で東京大学に合格させよう」というプロジェクトから生まれました。
プロジェクトは、主に国立情報学研究所が研究・開発を進めた人工知能プロジェクトです。
プロジェクトのスタートは、2011年でした。
プロジェクト開始後から4年後の、2015年6月の進研模試「総合学力マーク模試」で偏差値57.8をマークしました。
これは、MARCH・関関同立の合格圏内であり、かつ、国公立大学も狙える成績でした。
ちなみに、進研模試「総合学力マーク模試」は、5教科8科目で実施されました。
本格的な模試で、10数万人の受験生が受験しました。
偏差値57.8というのは、上位20%に入るほどの優秀な成績です。
つまり、当時の受験生は、80%がAIに負けたことになります。
ところが、このプロジェクトでは、東大合格に必要となる「読解力」に問題があることが判明しました。
すなわち、現在の、「ビッグデータ」と「深層学習」を利用した統計的学習というAI理論では、これ以上の成績向上は不可能と判断されました。
そして、2016年11月にAIによる東京大学合格は断念されました。
私が感心したのは、この時のプロジェクト・リーダーの判断です。
「読解力」に大きな課題があるはずの東ロボくんが、偏差値57.8をたたき出せたことに、大きな疑問を持ったのです。
そこで、研究対象を、「AI」から「人間」に変えたのです。
変えるといっても、180度の大転換です。
研究対象を人間に変えたプロジェクト・リーダーは、2016年から、全国の中高生の読解力を問うプロジェクト「リーディングスキルテスト」を始めました。
その結果出版したのが、『AI vs. 教科書が読めない子供たち』という本です。
この本によれば、短い文章で単純な四択の問題でも正答率が低いということです。
この東ロボくんの話を聞きながら、私は経理担当者のことを考えました。
今の経理担当者で、東ロボくんに勝てる人はどれくらいいるだろうか。
将来ではなく、今のレベルのAIにすら勝てない経理担当者はどれくらいいるだろうか。
東ロボくんのプロジェクトでもわかる通り、今のAIには限界があります。
しかし、東ロボくんは、限界のあるAIとはいえ、8割の人間に勝ったのです。
それは、人間の読解力の方が劣ってきているからです。
もっと読解力を磨けば、まだまだ生身の受験生は勝てるのです。
「敵」に勝つための鉄則は、「敵の弱点を突く」というものですね。
しかし、今の受験生は、「敵の弱点を突く」どころか、「敵の弱点よりも弱くなっている」のです。
これで勝てるわけがありません。
そういう意味で、今のAIの力ではできないことができる経理担当者にならなければ、AIに淘汰される経理担当者になってしまうでしょう。
今のAIにはできないことで、本来経理担当者がなすべきことは、以下のようなことだと思います。
いずれも今の日本企業の多くの経理担当者にはできていないと思われることです。
おそらく今のAIにもできないでしょう。
経理はもっと現場に行って、現場で行っていることが、「売上」や「利益」にそのように「関連」しているかを把握して、それを経営に説明して、経理の暴走や判断ミスを防ぐ機能を充実させるべきでしょう。
今のメイン業務である「過去の実績の集計」は、RPA(ロボティクス)やAIに、相当程度取って代わられるでしょう。
その時に、上記の3つができるように、今から変わっていかなければ、「経理担当者」として生き残ることはできないように思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。