公認会計士 中田清穂の会計放談 2020.02.05 (UPDATE:2020.10.02)
中田 清穂(なかた せいほ)
仕入先などから送付される請求書に関連する業務は、なかなか効率化ができない、代表的な経理業務です。
一般的に、以下のような課題があると言われています。
このような課題を解決するための一つの方法として、最近のITの利用が提案されています。
具体的には、
A) ペーパーレス化です。
Aのペーパーレス化は、まず、紙の請求書を複合機などで読み取って(スキャンして)、画像(PDF)ファイルにします。
そして、PDFファイルにタイムスタンプを付して、改ざんできないフォルダやサーバーに格納するようにします。
その他電子帳簿保存法(スキャナ保存法)の要件を満たしたら、税務上の原本として扱えるようになるので、
紙の請求書は原本ではなくなり、捨てられるようになります。
これにより、上記課題の(4)の運送コスト、(6)のファイリング、(7)の請求書探し及び(8)の保管コストなどの課題を解決できるでしょう。
Bのテキスト化は、紙の請求書をスキャンしてPDFファイルにすることが前提になります。
PDFファイルは画像なので、以下のような項目が「テキストデータ」になっていません。
そこで、OCRを利用して、「画像データ」を「文字データ」に変換します。
OCRは、紙に書かれたり印刷された文字を、複合機、スマートフォンあるいはデジタルカメラによって読みとって画像データにしたものを、
コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術です。
そうすることで、請求書のPDFファイルに、上記①から③の情報を「文字データ」として付与することができます。
そして、人間が一件一件入力しなくても、文字データを会社のシステムに取り込めるようになります。
これにより(3)の現場での受発注システムなどへの入力業務や(5)の経理での会計システムへの入力業務などが改善できるでしょう。
しかし、便利なことばかり書いていますが、実際にはそんなに単純な話ではありません。
以下のような問題により、経理の現場ではOCRはまだ普及していないようです。
(ア)OCRの識字率が100%ではないために、画像データが文字データに適切に変換されていないものについて、人間が修正や補完的な作業を行う必要がある。
(イ)課題の(1)にあげたように、発行元によって請求書のフォームがばらばらで、請求書のどこが発行元で、発行日なのかなどを、発行元ごとに事前登録する手間がかかる
しかし、最近は、「AI-OCR」という言葉が良く使われるようになり、このような問題が解消できるようになりました。
例えば、(ア)の識字率を向上させるために、人工知能(AI)を利用して、手書きであっても、相当高いレベルの識字率になってきました。
(イ)のフォームも、事前登録しなくても、「会社」がついているテキストを「発行会社」として識別できる機能などが開発され、利用され始めています。
さらに、「AI-OCR」が文字として認識しやすくするために、PDFファイルを作成する機器(ハードウェア)の機能も充実してきました。
以下は、特に「ドキュメントスキャナー」というスキャン専用機器の機能ですが、例えば、
こういったハードウェア側の機能をフルに生かすことで、OCRによる文字への変換が飛躍的に向上します。
さらに、ドキュメントスキャナーには、複数枚読み込んだら自動的に止まったり、スキャナ保存法対応用に加工しないでPDFを作ると同時に、上記のOCRが読み取りやすいモードでのPDFも作成したりするなど、一度のスキャンで同時に複数種類のPDFファイルを作成する機能などもあります。
ドキュメントスキャナーは、スキャン専用機器なので、1分間に数十枚から100枚もスキャンしてPDFファイルを作ります。
請求書業務を改善したいなら、最新の情報を集めて、検討することは、非常に有用だと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。