公認会計士 中田清穂の会計放談 2020.03.03 (UPDATE:2020.10.02)
中田 清穂(なかた せいほ)
2020年2月19日付の日本経済新聞に以下の見出しで記事が掲載されました。
「IT人材争奪、アジアに後手 (データ分析の年収、日本は中国の7割)」
この記事では、以下の職種で中国、香港、マレーシア、シンガポールなどのアジア諸国の年収と比べて、日本企業の年収が、3割から7割も低いということです。
また、従業員の昇給も、日本企業は中国と比べて消極的だということです。
記事では、「日本企業は在籍期間でなく、スキルや経験を重視する風土や文化に変わる必要がある」というコメントを掲載して、成長に向けた人材確保のための技術者らに、高額の報酬を出さない日本企業の問題を指摘しています。
しかし、私はこの記事を読んで、これは利益率の低さの問題だと直感しました。
日本企業の利益率の低さは、もはや周知の事実です。
日本企業は、赤字にならなければOKで、利益率を高めることにあまり強い関心を持っていません。
特に、「自分の会社の利益率が、何%以上なければならないのか」ということを、きちんと説明できる経営者はいません。
いえ、経営者だけではありません。
経理・財務担当役員や経理部長ですら、必要な利益率を把握していません。
同業他社と同程度の利益率であれば、大満足です。
さて、「企業の目的は何か」
これはドラッカーの有名な投げかけです。
ほとんどの人が「利益」と答えるでしょう。
しかし、「利益」は手段であって、目的ではありません。
ドラッカーの分析では、企業の目的は「社会に変化を与えること」です。
個人では社会を変えることができなくなった現代において、社会と個人の間に存在して、社会を変えうる立場にいるのが、企業なのです。
そして、利益は、企業が社会に変化を与えるために必要なものなのです。そのために、利益が必要なのです。
企業が持続的に成長するためには、他社が達成している利益率を十分に上回る必要があります。
なぜなら、自社が黒字でも、他社がそれより儲けていれば、優秀な人材獲得や開発、
さらにはマーケティングなどに、他社の方がどんどん投資して、ビジネスの競争上、どんどん優位に立っていくからです。
黒字でも、競合他社よりも利益率が低ければ、投資劣位を継続していくうちに、ビジネスの競争に負けるのです。
テレビで負け、半導体で負け、ITでも負け始めています。
当初黒字だったはずです。
しかし、利益率が低いために、将来への投資ができず敗北者になってしまったのです。
今回の記事では、このことが実証されたように感じました。
利益率の低いIT企業は、優秀な人材獲得ができず、次第に敗色が濃くなっていくのだと思います。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。