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人的資本情報とリ・スキリング~中小企業も「リ・スキリング」に取り組むべきか?~

人的資本情報とリ・スキリング~中小企業も「リ・スキリング」に取り組むべきか?~

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 「リ・スキリング」が世間の注目を集めています。
 人的資本の情報開示が進む中で、2023年4月から、上場企業は、人材育成方針を有価証券報告書に記載することが義務付けられました。また、2023年6月16日には、「経済財政運営と改革の基本方針 2023」が閣議決定されて、国としても「リ・スキリングによる能力向上支援」を推進していくことが示されました。これらがきっかけとなって、多くの大企業において、リ・スキリングへの取組みが始まっています。
 一方、中小企業においては、リ・スキリングに関する取組みは、ほとんど進んでいません。その背景には、経営者や人事関係者が、「リ・スキリングは当社のためにならない」という不信感があるものと考えられます。

 「中小企業も、リ・スキリングに取り組むべきでしょうか?
 今回のコラムは、このような疑問に対してお答えしていきたいと思います。

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リ・スキリングとは

 リ・スキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(経済産業省、デジタル時代の人材政策に関する検討会 資料より引用)を言います。
 技術革新が進む中、労働者には、これまで培ってきたものとは異なるスキル(特にデジタル分野やデータ分析に関するスキル等)が求められるようになっています。また、企業は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で、従業員に新しいスキルを習得させる必要性に迫られています。このように労働者、企業双方からリ・スキリングを求める声が高まってきています。
 政府は、リ・スキリングに取り組む労働者や企業を積極的に支援する方針を打ち出しており、企業側も従業員にデータ分析に関する研修を行う等、リ・スキリングを推進する施策を実施するようになってきました。
 ところが、このような施策が実施されているのは、主に大企業で、中小企業のほとんどは、リ・スキリングに取り組んでいないというのが実情です。その背景には、中小企業の経営者や人事関係者が、「リ・スキリングは、当社のためにならない」という不信感があるものと考えられます。

リ・スキリングに対して、中小企業が持つ不信感 

 「リ・スキリングに対する不信感」とは、具体的に言うと、次のようなものです。
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 「リ・スキリングをしたところで、高度なスキルが身につくはずがない。仮にスキルを身につけることができたとしたら、その従業員は大企業等に転職してしまうだろう。つまり、リ・スキリングに失敗しても、成功しても、当社にとって良いことは何一つない。」
 リ・スキリングの定義に示されていた、新しい職業に就くことができる、あるいは大幅な変化に適応できるスキルを身につけるのであれば、大学等で専門的な教育を受けることが必要です。「社内研修を増やしたぐらいのリ・スキリングでは、高度なスキルを身につけることはできず、それでは役に立たない。」中小企業の経営者等は、このように考えます。
 それでも、研修等を積極的に実施して、リ・スキリングに成功したとします。その従業員は、おそらく、リ・スキリングによって身につけた高度なスキルを活用できる仕事ができる企業、より待遇が良い企業に転職しようとするでしょう。大企業であれば、リ・スキリングに成功した従業員に新しい仕事や高報酬を与えて、転職を阻止することができます。しかし、このような対応が困難な中小企業にとっては、「リ・スキリングの成功=優秀な従業員の退職」ということになってしまうのです。
 「リ・スキリングに取り組んでも、従業員のスキルは高まる可能性は低いし、仮にスキルが高まったとしても、その従業員は転職してしまう。」このように考える中小企業の経営者等がリ・スキリングに不信感を持つことは当然のことと言えます。

中小企業もリ・スキリングに取り組む必要がある

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 それでは、中小企業はリ・スキリングに取り組まなくてもよいのでしょうか?

 答えは「NO」です

 社会全体でDX化が進む中、それに対応しうるスキルを従業員に身につけさせない企業は、事業を続けることが難しくなってしまいます。また、今後は、企業に対して、従業員のリ・スキリングに関する情報開示を求める動きが広がることが予想されます。そうなると、リ・スキリングに取り組んでいない企業は、学生や若年労働者から敬遠されて、優秀な人材を確保できなくなってしまいます
 したがって、中小企業も、事業を続けるためには、リ・スキリングに積極的に取り組む必要があります。
ここでポイントになることは、「会社の役に立つスキルが身につく、かつ優秀者の転職を促さない、効果的なリ・スキリングを進めていくには、どうすればよいのか」ということです。
 次回のコラムでは、効果的なリ・スキリングの進め方について解説したいと思います。

有価証券報告書への情報掲載

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