人的資本の情報開示についてのポイント 2024.11.25 (UPDATE:2024.11.25)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
生産性や人件費に関する情報は、財務的側面から人的資本の適正性をとらえることができるもので、投資家や労働者は、企業に対して、その開示を強く求めてきます。しかしながら、ほとんどの日本企業は、これらの情報を社外には開示していません。
将来的には、生産性や人件費に関する情報を適切に開示しているか否かが、その企業の株価や採用に大きな影響を与えることになるものと考えられます。ですから、企業は、これらの情報を算出、開示できるように、また、投資家や労働者にこれらの情報に関することを説明できるようにしておくことが望ましいと言えます。
今回のコラムは、生産性や人件費に関する情報の算出および開示の仕方について説明します。
【図表1】生産性、人件費に関する経営指標の算出方法と一般的な捉え方 |
企業が情報開示に消極的だった理由の一つとして、「これらの情報は、投資家や労働者に、どのように受け取られるかが分からないため、企業は、開示することに対して不安を持っていること」を挙げることができます。
例えば、企業が、投資家に対して「効率的に経営が行われていること」をアピールしたいと思い、「労働生産性が同業他社よりも高い」という情報を開示したとします。ところが、その情報をチェックした労働者は「業務量の割に労働者が少ないので、仕事がキツそうだ(就職を見送ろう)」と思うかもしれません。
生産性や人件費に関する情報は、「高い(低い)ほど良い」と一概に言うことができず、それを見る人の立場によって捉え方が変わってしまいます。同じ情報であっても、見る人によって「良い状態」とも「悪い状態」とも捉えられてしまうのです。最悪の場合、これらの情報開示により、その企業は、投資家や労働者から誤解されてしまうこともありえます。
ですから、企業は、生産性や人件費に関する情報を、あえて開示してこなかったとも言えます。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。