人的資本の情報開示についてのポイント 2024.12.18 (UPDATE:2024.12.17)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
このコラムでは、2024年1月から12回にわたり「人的資本情報の集計・開示のポイント」について解説してきました。最終回となる今回は、人的資本の情報開示の今後の動きと企業が取るべき対応について説明します。
これらの情報開示が義務化されれば、企業は、残業削減や同一労働同一賃金などの取組みを積極的に実施せざるを得ません。すでに、一部の企業では、これらの情報を自主的に開示していますが、今後は、法令によって、一定規模以上の企業に対してこれらの情報の開示が義務付けられるものと考えられます。
情報開示の対象企業や開示するべき情報項目が拡大されると、どのようなことが起こるでしょうか?
近年、若手労働者は、インターネット上の情報を見て、就職先を決定する傾向が強まっています。働きやすい雇用環境などの情報を開示している企業に就職希望者が集中し、一方、良い情報を開示できない企業は、学生や労働者から敬遠されて、人材確保が困難な状況に陥ることになります。すなわち、良い情報を開示した企業は、優秀人材が集まることによって業績が向上し、一方、悪い情報しか開示できない、あるいは情報開示を行わない企業は、慢性的な労働力不足に陥り、業績を悪化させていくことになります。
このように、情報開示の拡大によって、企業間の業績の良し悪しの差が広がっていくものと考えられます。
ですから、企業は、人材確保と業績向上を図るために、人的資本情報を積極的に開示するように、また、少しでも良い情報が開示できるように、できり限りの努力をしていかなければなりません。
なお、(2)(3)の対応を進めるうえでは、自社内の人事情報システムの整備も必要になります。この機会に、人的資本に関するデータの集計や情報開示に関する機能が装備されたシステムへの切り替えを検討することも必要でしょう。
日本における人的資本の情報開示はスタートしたばかりで、これからも法改正などの様々な動きがあるものと予想されます。人事部員の皆さまには、このコラムを参考にしつつ、世間の動きもチェックして、人的資本の情報開示を適切に実施していただきたいと思います。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。