人的資本の情報開示についてのポイント 2023.04.06 (UPDATE:2024.11.20)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
“サントリーホールディングスが7%の賃上げを決定した。”
“三井住友銀行が2023年の大卒初任給を前年比5万円高い25万5000円とする方針を固めた。”
大幅な賃上げを行う大企業の記事が連日のように報道されています。このような動きは中小企業にも広がってきており、2023年は、バブル経済崩壊後、最も高い水準の賃上げとなりそうです。
しかし、すでに経営者の中から「賃上げ率を高く設定しすぎたのではないか」という声が聞こえてきたり、また、従業員の中から「会社は人件費増加に耐えられるのか」と心配する声が聞こえてきたり、労使ともに大幅な賃上げに対する不安も広がってきているようです。
今回のコラムでは、自社における賃上げの影響をチェックする方法について解説します。すでに賃上げ率を決めた会社の皆さんも、賃上げを検討している会社の皆さんも、これから自分がするべきことを明確にするために、是非、お読みいただきたいと思います。
会社は、利益を出せなければ、事業を継続できなくなります。そして、利益を出すためには、コストの増加を上回るだけの付加価値(会社の「儲け」)の増加がなければなりません。賃上げは、コストの大きな部分を占める「人件費」の増加となりますので、例えば、3.5%の賃上げを行うのであれば、3.5%を上回る付加価値の増加が必要ということが、基本的な考え方になります。
「賃上げした分、売価に上乗せすれば済むことじゃないか」と思われるかもしれませんが、それほど単純な話ではありません。一般的に値上げをすると販売量が落ちて、売上高が思ったようには増えませんし、また、原材料費などの中には10%近いコスト増が見込まれているものもありますので、賃上げ率を超える付加価値を出すということは、会社にとって簡単なことではないのです。
このようなチェックを行い「賃上げにより事業運営が厳しくなる」と言う結果が出たとしても、会社としては、一度上げた賃金を引き下げることは、極めて困難です。そうなると、結局、会社は、賃上げを上回る、あるいはそれに近い付加価値の増加を目指さなければなりません。
付加価値を増加させるためには、「利益率の良い、あるいはヒットが見込める製品・サービスの開発や販売に力を注ぐこと」または「DXにより業務合理化を進めてコストダウンを図ること」など、様々な方法があります。
大幅な賃上げを行う経営者は、付加価値を増加させる戦略について徹底的に考えてみる必要があります。
また、従業員も、賃上げの影響をチェックして、付加価値を増加させるために自分が実施するべきことを考える必要があります。「大幅な賃上げをしたが、付加価値が一向に増えない」ということになると、最終的に、会社は人員削減(リストラ)に着手せざるを得ません。このような最悪の事態にならないように、従業員は、会社の付加価値の増加に協力していくことが求められます。
今回の賃上げは、現在の物価上昇に対応するだけではなく、会社の将来的な付加価値増加について考える機会でもあるのです。経営者も従業員も、今回の賃上げの事業への影響をチェックして、これから自分が実施するべきことをしっかりと考えてみましょう。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。