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人的資本情報を集計・開示するときの注意点とポイント

人的資本情報を集計・開示するときの注意点とポイント

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 人的資本の情報開示が本格的にスタートしてから、1年が経過しようとしています。
 会社は、これから毎年、開示した人的資本情報を更新していかなければなりません。とくに「男女の賃金差異」など法令で開示が義務化されているものは、一定の期限までに更新が必要なので注意が必要です。
 また、人的資本に対する社会的関心の高まりを受けて、今後は、投資家や労働者が開示情報の詳細について質問してくるものと考えられます。会社は、これらの質問にしっかりと回答できるように準備しておくことも必要です。
 このコラムは、これから数回に分けて、それぞれの会社で「いつ、どのような人的資本情報を集計・開示するべきか」そして「人的資本情報ごとに、どのような点を注意するべきか」について解説していきます。
 今回(第1回)は、人的資本情報全般について集計・開示するときの注意点とポイントを説明します。

人的資本情報を集計・開示するときの3つの注意点

 人的資本情報を集計・開示するときには、次の3点に注意しなければなりません。

  1. 集計・開示する人的資本情報の定義計算方法をしっかりと定めること
    集計・開示する人的資本情報については、社外の人が見ても理解できるように、また過去のデータとの比較ができるように、定義や計算方法をしっかりと定めておくことが必要です。なお、法令によって開示が義務付けられている情報については、行政指針等に定義や計算方法が定められていますので、それに従って算出しなければなりません。
  2. 集計・開示する人的資本情報の関連情報も収集すること
    人的資本情報に関する質問に回答するときに、会社は、開示情報以外の情報も示さなければならないことがあります。例えば、女性管理職比率に関する質問に回答するときには、ほとんどの場合、管理職候補者数の男女比を示すことが必要になります。開示情報を集計する段階で、社外から来る質問が想定できるのであれば、回答するときに使う関連情報も一緒に収集しておいたほうが良いでしょう。
  3. 重要な人的資本情報をリアルタイムで収集できるようにすること
    人的資本情報は、入社・退職や人事異動等の影響で常に変化するものなので、できるだけリアルタイムで収集し、状況を把握できるようにしておくべきです。とくに人事部門は、人的資本情報に関する社内外からの問い合わせに、いつでも対応できるように準備しておかなければなりません。例えば、経営者が「女性管理職比率は、今、何%なのか」と突然聞いてくることがありますので、人事部門は、いつでも対応できるようにしておくことが必要です。

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業務効率化のポイントは「マニュアル化」と「情報の一元管理」

以上の注意点を踏まえながら、人事部門は、人的資本情報の集計・開示に関する業務を、限られた時間の中で正確に行っていかなければなりません。そのためには、次の2つのポイントを押さえて、この業務の効率化を図ることが必要となります。

  1. 情報集計・開示業務のマニュアル化を進める
    集計・開示業務の効率化には、人的資本情報の「定義、計算方法」および「情報の収集方法、同時に収集する情報」等をまとめたマニュアルを作成することが必要です。このマニュアルには、集計・開示する情報ごとに、「どのシステムのデータを使って、どのような計算をするか」ということを定めておきます。
    また、情報集計・開示における役割分担(誰がどの情報を収集するのか、問い合わせ対応窓口はどこか)や年間スケジュール(毎年何月に情報を収集するのか)等もマニュアルに定めておくべきです。そうすれば、情報集計・開示業務を漏れなく、スムーズに進めることができるようになります。
  2. 人的資本情報を一元管理する
    人的資本情報は、業務ごとに運用しているシステム等で別個に管理されていることが多く、それを収集するときには、様々なシステムや台帳をチェックすることが必要になります。人的資本情報が1つのシステム上で一元的に管理されていると、集計・開示業務を大幅に効率化することができます。
    なお、グループ経営が行われている場合、連結子会社の人的資本に関する質問が親会社にまとめて来ることがあります。親会社は、すべての連結子会社の人的資本情報を、一元的に管理できる体制の構築を早急に進めるべきです。

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人的資本情報の集計・開示は、人事部門の「年中行事」になった

 開示した人的資本情報は、原則として、毎年更新することが必要となります。とくに法令で開示が義務付けられている人的資本情報については、定められた期限までに更新することが必要です。
 もはや、人的資本情報の集計・開示は、人事部門にとって、毎年一定の時期に発生する「年中行事」になったと捉えられます。その意味では、「新入社員受け入れ」や「年末調整」と同じ位置付けになったとも言えるでしょう。
 人事部門は、「何月に、どのような人的資本情報を集計し、開示するか」という年間スケジュールを把握しておかなければなりません。そこで、次回は、人的資本情報に関する業務の年間スケジュールをお示しして、人的資本情報の効果的な集計方法と開示の仕方について説明します。

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