公認会計士 中田清穂のインボイス制度と電子帳簿保存法の解説講座 2025.03.31 (UPDATE:2025.04.17)
中田 清穂(なかた せいほ)
さらに、「経営情報の質の低下」と「経営スピードの鈍化」を招くことにも触れました。
そして、上記課題が発生する、受取請求書業務の特徴を以下のように整理しました。
上記(1)から(4)の特徴は、①から⑦までの課題の原因であるとも言えます。
したがって、受取請求書業務の課題を解決するためには、原因である阻害要因を取り除いていけば良いことになります。
(1)の「形式が様々」であることについては、請求書を発行する業者に対して、同じフォームの請求書を作成してもらう方法があります。
いわゆる「指定伝票」です。
しかし、この方法は業者に対して、指定伝票への転記などの工数を課すために、力関係について自社が業者よりも強い場合でしか採用できないことがほとんどです。
(2)の「紙の請求書が多い」ということについては、業者にPDFファイルで作成してもらい、そのPDFファイルをメールで送ってもらえば良いことになります。
しかし、こちらも業者の業務や仕組みを変えてもらわなければならないので、あまり進まないケースがほとんどです。
(3)の「入手部署が多い」ということについては、業者からの物品を受け取ったり、サービスの提供を受けたりした現場部門でないと、受け取った請求書の内容を確認できないので、入手部門を変えることはなかなかできません。
(4)の「8割以上が同じ業者」ということについては、会社として必要なモノやサービスを必要としているので、経理業務のために業者を変えることは全く意味がありません。
ここまでの検討では、原因に対して個々に対策を検討しても有効な対策が思いつかないことがわかりました。
そこで、視点を変えて、受け取った請求書を「紙のまま」取り扱うのではなく、「電子化したらどうなるか」という視点で考えてみましょう。
(1)の「形式が様々」であることについては、紙で入手した請求書をスキャンして電子化すれば、形式が様々であっても、自社で作業を効率的にするために、標準化した形に変換することができます。
このための機能が、Optical Character Recognition(以下OCR)です。
OCRは、PDFや写真などの「画像」の中にある文字の部分を認識して、「テキストデータ」に変換する技術です。
そして最近のOCRの機能には、人工知能(以下AI)の機能が利用されて、識字率が圧倒的に改善されて、手書きではない、印字された請求書であれば、99%以上の正確性が実現されています。
そして、「形式が様々」であっても、発行会社、発行日、請求金額あるいは税額などが、PDFや写真などの画像の中のどの部分なのかを、AIによって自動識別できる仕組みも出てきています。
そうすれば、業者は何も変えずに、今まで通りのフォームで紙の請求書を、自社に送ってもらっても、自社で電子化してテキスト変換することが、手間も少なく実現できるでしょう。
(2)の「紙の請求書が多い」という原因についても、業者が今まで通りのフォームで紙の請求書を、今まで通り何も変えずに、自社に送ってもらっても、自社で電子化してテキスト変換してしまえば、その後の承認業務やシステムへの登録業務の効率は上がるでしょう。
さらに、税務調査などでエビデンスを提示する際にも、「紙」を探し出す必要はなく、エビデンスを格納している仕組みで「検索」をすれば、ワンクリックで見つけることができるでしょう。
(3)の「入手部署が多い」ということについては、今まで現場に送ってもらっていた請求書の送付先を、「請求書集中処理センター」といった組織に、業者にお願いして変更してもらうのです。
「請求書集中処理センター」では、送られてきた請求書をすべてスキャンして電子化します。
そうすれば、請求書は「紙」ではなく電子ファイルになり、日本中どこでもいつでも確認できます。承認やチェックも、海外出張中でも、日本時間の夜間であっても、行えるのです。
つまり、請求書が現場部門に送られてこなくても、現場で内容が確認できるのです。
これが実現できれば、社内での運搬、回覧、保管を行う作業がなくなり、コストもなくなります。
「工数の削減」と「コストの削減」です。
また、支払もれや遅延も防げるでしょう。
(4)の「8割が毎月同じ業者からの請求書」であることについては、発行会社や請求金額などが、PDFや写真などの画像の中のどの部分なのかを自動識別できる機能がなくても、発行会社や請求金額などが業者ごとの請求書のどこに位置しているかを一度登録してしまえば、後は適切に発行会社や請求金額などを識別できます。
そうすれば、同じような作業を毎月毎月繰り返し行う経理担当者の作業も減らすことができ「モチベーションの低下」を防ぐことができます。
以上をまとめると以下のようになります。
(1) 受取請求書業務を改善する最初のステップは、「紙」の「画像データ化」(電子化)
(2) 次のステップは、「画像データ」の「テキスト化」
これらの、視点を変えた対応で、請求書の集中入手や業務の自動化が実現することになるでしょう。
次回は、さらに視点を変えた対応について説明します。
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。