リスキリングと人事DXの進め方 2025.04.16 (UPDATE:2025.04.16)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
前回のコラムでは、リスキリングを導入・運用するための5つのステップの概要を説明しました。本コラムでは、これから5回にわたり、各ステップの具体的な進め方を見ていきます。
今回は、ステップ1「会社方針の決定と社内説明」について解説します。
多くの従業員が、リスキリングに対する不信感(「会社は本気でリスキリングに取り組むつもりなのか?」といった疑問など)を持っています。そこで、リスキリングを進める最初のステップとして、会社は、人材育成に関する方針を社内に説明し、従業員の不信感を払しょくすることが必要になります。
会社方針は、職業能力開発促進法に定める「事業内職業能力開発計画」に基づいて決定するとよいでしょう。「事業内職業能力開発計画」とは、雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画のことで、経営理念及び経営計画に基づく人材育成を進めるための方向性や進め方などを示したものです。
この計画の作成は、国から人材開発支援助成金(人材育成支援コース)の支給要件ともなっています。リスキリングを進めるときに、国から助成金を受けたいと思っている会社は、この計画を作成しておくべきです。
【図表1】事業内職業能力開発計画の位置づけ
資料出所:厚生労働省「事業内職業能力開発計画」作成の手引き
事業内職業能力開発計画には、次の8項目を盛り込みます。
厚生労働省の『事業内職業能力開発計画作成の手引き』では、この計画の作成方法や盛り込むべき項目の具体例などが示されています。この手引きを参考にして、リスキリングに関する会社方針を決定してください。
(手引きの入手先URL: https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/0000199757.pdf)
リスキリングに関する会社方針が決まったら、それを従業員に説明することが必要となります。説明方法としては、全従業員を対象とした説明会を実施することが挙げられますが、それとあわせて、次のような方法で方針を社内周知すると効果が倍増します。
これらの方法の中から自社に適したものを選択して、従業員への方針の徹底を図ってください。
【図表2】ある会社の人材育成・リスキリング方針の例
従業員への説明会において、リスキリングに関する方針を経営トップが説明するときには、「会社として新分野に挑戦すること」と「全従業員がリスキリングに取り組む必要があること」を話すべきです。また、経営トップが「経営層が率先してリスキリングに取り組む」という決意表明をすれば、従業員もリスキリングに積極的に取り組むようになります。
会社方針が社内に浸透したか否かによって、リスキリングの効果が大きく変わってきます。「インターネット経由で入手した育成計画の事例をそのまま使えば良い」とか「会社方針の説明は、形式的に行えば良い」などと軽く考えずに、リスキリングに関する方針を従業員にしっかりと伝えるようにしてください。
以上が、リスキリングを進めるうえでのステップ1「会社方針の決定と社内への説明」です。
次回は、ステップ2「リスキリングの対象となるスキルの抽出」について解説します。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。