リスキリングと人事DXの進め方 2025.05.15 (UPDATE:2025.05.15)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
リスキリングを導入・運用する第2ステップでは、「対象となるスキルの抽出」を行います。このステップでは、会社が、業務に必要なスキルまたは今後の事業に必要となりそうなスキルを洗い出して、それらの習得を従業員に求めます。リスキリングの対象スキルの抽出方法には、「職務調査による社内からの抽出」と「社外情報からの抽出」の2種類があります。ここでは、それぞれの抽出方法について説明します。
「職務調査」とは、担当業務の内容や必要とされるスキルなどを従業員に記入してもらうアンケート調査をいいます。この調査の回答から「業務を遂行するために求められるスキル」や「受講するべき研修、取得するべき公的資格」などを抽出し、それをリスキリングの対象として社内に公表します。(【図表1】参照)
職務調査を行えば、その時点で社内業務を遂行するために必要なスキルを洗い出すことができます。つまり職務調査には「今すぐに業務に活かせるスキルを抽出できる」という長所があります。
一方、職務調査には「社内で行われていない業務に必要なスキル、今後の事業に必要になりそうなスキルを抽出できない」という短所があります。また、「従業員にしてみれば、社内のアンケートに基づくスキルでは、世間で通用するかどうかが分からないため、積極的に習得する気にはならない」という短所もあります。
そこで、リスキリング対象スキルの抽出においては、職務調査に加えて、様々な社外情報を収集し、そこから「将来必要とされそうなスキル」や「世間で通用するスキル」を洗い出すようにしなければなりません。
【図表1】職務調査の実施イメージ
「将来必要とされそうなスキル」を洗い出すには、最新技術に関するオンライン研修を提供しているWebサイトなどを参考にすると良いでしょう。例えば、独立行政法人情報処理推進機構が運営しているポータルサイト「マナビDX」では、デジタルスキル習得に関する講座が数多く紹介されています。講座のタイトルを見るだけでも、今後に向けてビジネスパーソンが身につけておくべきスキルを把握することができます。それらは、「将来、自社においても必要になりそうなスキル」であり、リスキリングの対象として、従業員に習得を求めるべきです。
また、「世間で通用するスキル」を洗い出すためには、様々な機関が実施している資格・検定試験(【図表2】参照)に関する情報を参考にすると良いでしょう。公的資格等を保有していれば、「専門スキルを持っている人材」として社会的に認めてもらえます。資格・検定試験には様々なものがありますが、会社は、その中から自社の業務と関係性が強いものをリスキリングの対象として、従業員に取得を勧めていくと良いでしょう。
公的資格等を保有している従業員が多く在籍していれば、その会社の「技術力の高さ」を世間にアピールすることができます。また、公的資格等の取得を会社として推奨すれば、「世間で通用する人材になりたい」と思っている従業員の積極的なリスキリングを促すことができます。資格等の取得を通じてリスキリングを進めることは、会社、従業員の双方にとって有益な施策と言えるのです。
【図表2】資格・検定試験の種類
「ステップ2 リスキリング対象スキルの抽出」が完了したら、次のステップに進みます。そこでは「スキルの習得方法の選定および仕組み化」を行います。
近年、従業員が好きな時間・場所で受講できるオンラインセミナーや、安価なサブスクリプション型研修など、新しいスキル習得方法が広がってきています。これらの活用の仕方によって、リスキリングを進める際の、従業員の取組み度合いや会社のコスト負担が大きく変わります。リスキリングを効果的に進めるためには、会社として、スキルの習得方法を決めて、その仕組み化を行うことが必要となります。
次回は、この「スキルの習得方法の選定および仕組み化」のポイントについて解説します。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。