公認会計士 中田清穂のIFRS徹底解説
中田 清穂(なかた せいほ)
金融庁は、平成21年12月に「国際会計基準に基づく連結財務諸表の開示例」を公表しました。
その後6年あまりも放置され、全く改定・更新が行われていませんでした。
しかし、平成28年3月31日、「国際会計基準に基づく連結財務諸表の開示例」を改訂し、「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例(以下、「開示例」という。)」として取りまとめました。
「開示例」の作成は外部に委託されましたが、最終的には、FASF(公益財団法人財務会計基準機構)が落札したものです。
つまり、今回の「開示例」は、FASFが作成したものです。
ちなみに、FASFは、ご存じの通り、企業会計基準委員会(ASBJ)の運営母体です。
さて、本「週刊中田」でも再三取り上げてきた、IFRS開示のあり方について、金融庁から久しぶりに「開示例」が公表されたことから、これまでの私の主張とこの「開示例」がどのような異同があるのかを見ていきたいと思います。
まずは、「開示イニシアチブ」です。
特に、
開示ボリュームを激減させる具体例(第36回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-036
では、以下のように指摘していました。
(「IFRS実務記述書─財務諸表への重要性の適用」は) 金融庁が追加的要求をするかどうかはまだわかりませんが、重要なことは本資料にある「実務記述書(案)」の内容です。 内容のほとんどは「開示イニシアティブ(IAS第1号の改訂)」での改訂内容を丁寧にわかりやすく解説したものだという印象です。 その中でも「わが意を得たり!!」と感じたのは、20ページ目にある第55項の表現です。 第55項は、「重要性がない情報」という見出しの中にあります。 |
つまり、IFRS財団が実務記述書の中で明示した「重要性がないので開示すべきでない情報」として、「会計方針の開示」があげられていて、金融庁もそれを認めるかどうかがポイントだということでした。
今回の「開示例」を見ると、まず、4ページ目に、「IFRSの開示規定を適用する際の留意事項(IAS第1号の改訂概要)」として、「開示イニシアチブ」の内容がそっくりそのまま記載されています。
また、「開示例」の25ページ目には、「重要な会計方針」が示されていますが、以下の項目については、見出しのみで、全く開示例が表現されていません。
(2)企業結合
(3)外貨換算
(7)売却目的で保有する資産
(10)リース
(12)非金融資産の減損
(13)従業員給付
(14)株式報酬
(15)引当金
(16)資本金
また、「(8)有形固定資産」を見てみると、日本のIFRS先行適用企業がことごとく開示してきた、いわゆる「借入費用の資産化」や「不動産取得税の取得原価参入」などについての開示はありません。
これらは、選択適用や企業の判断が介入する余地がなく、すべてのIFRS適用企業にとって、準拠する以外ないものだからでしょう。
したがって、日本企業においても、自信をもって「開示イニシアチブ」を適用し、まずは、「重要な会計方針」の記載をバッサリ削減することができるでしょう。
ちなみに、開示イニシアチブ(IAS第1号「財務諸表の表示」の改訂)は、2016年1月1日に開始する事業年度から強制適用ですが、すでに早期適用が認められています。
経理部門の工数を削減するのであれば、積極的に早期適用を検討するべきでしょう。
金融庁が平成28年3月31日に公表した、「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」は、以下のサイトからダウンロードできます。
http://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20160331-5.html
また、これまで、本コラムでは「開示イニシアチブ」を以下のように取り上げてきましたので、参考にしてください。
注記情報の大幅削減が可能に!!(第33回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-033
開示ボリュームを激減させる具体例(第36回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-036
HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約(第43回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-043
日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示(第44回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-044
改定されたIAS第1号「財務諸表の表示」(開示イニシアチブ)の適用状況調査(第41回)
https://www.superstream.co.jp/column/tettei-vol-041
中田 清穂(なかた せいほ)
1985年青山監査法人入所。8年間監査部門に在籍後、PWCにて 連結会計システムの開発・導入および経理業務改革コンサルティングに従事。1997年株式会社ディーバ設立。2005年同社退社後、有限会社ナレッジネットワークにて、実務目線のコンサルティング活動をスタートし、会計基準の実務的な理解を進めるセミナーを中心に活動。 IFRS解説に定評があり、セミナー講演実績多数。