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第180回 令和7年度 税制改正(速報)

第180回 令和7年度 税制改正(速報)

 アクタス税理士法人

 12月20日に「令和7年度税制改正大綱」が公表されました。令和7年度税制改正は、所得税の基礎控除引上げ等による物価対応、中小企業支援、防衛力強化の財源確保などが盛り込まれています。今回は大綱の中から主要な改正点を速報でお伝えします。

法人課税

◆防衛特別法人税(仮称)の創設
◇概要
 防衛力強化のための安定的な財源確保を目的として、法人税額に対して付加的に課税する新たな法人税が創設されます。中小企業に配慮し基礎控除制度が設けられます。
◇内容
 ・課税対象:各事業年度の所得に対する法人税を課される法人
 ・課税標準:基準法人税額※ ― 基礎控除(年500万円(通算法人の場合は基準法人税額の比で配分))
   ※所得税額控除、外国税額控除等を適用しないで算出した法人税額
 ・税  率:4%
 ・申告納付:法人税の申告期限と同時
 ・税額控除:外国税額控除等の適用あり
 ・中間申告制度あり
◇適用時期
 ・令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用
 ・中間申告は令和9年4月1日以後開始事業年度から適用

◆中小企業者等の法人税軽減税率の特例延長
◇概要
 中小企業の経営環境や賃上げ・物価高への対応を考慮し、軽減税率の特例を延長しつつ、高所得企業への見直しが行われます。
◇内容
 ・原則:所得800万円以下について15%の軽減税率を維持
 ・所得10億円超の事業年度:800万円以下の所得に対して17%に引上げ
 ・適用対象から通算法人を除外
◇適用時期
 2年間延長

◆中小企業経営強化税制の拡充と2年延長
◇概要
 売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業の設備投資を促進するため、B類型(収益力強化設備)の投資計画が一定の要件を満たす場合には、対象資産に建物が追加される拡充措置をした上で、2年間延長されます。
◇内容
 B類型の拡充措置
  ・要件:売上高10億円超90億円未満
   投資利益率7%以上
   売上高100億円超及び年平均10%以上の売上高成長率を目指すこと
   給与等支給額を増加させる計画であること
   経済産業大臣の確認が必要
   投資上限:60億円
  1.   ※拡充措置の適用を受ける場合、投資計画の計画期間中、中小企業投資促進税制、少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用を受けることができない

  ・税制措置
   建物及び附属設備
   (1)特別償却
    ・給与増加割合2.5%以上:取得価額の15%
    ・給与増加割合5%以上:取得価額の25%
   (2)税額控除
    ・給与増加割合2.5%以上:取得価額の1%
    ・給与増加割合5%以上:取得価額の2%
     ※給与増加割合2.5%未満の場合は特別償却、税額控除共に適用不可
   機械装置・工具・器具備品・ソフトウェア
   (1)特別償却
    ・即時償却(取得価額の100%)
   (2)税額控除
    ・資本金3,000万円以下:取得価額の10%
    ・資本金3,000万円超:取得価額の7%

 現行類型の適用要件の見直し
 ・要件:
  A類型:生産効率指標を生産量・歩留まり率・投入コスト削減率のいずれかによる評価に明確化する
  B類型:投資利益率が5%以上→7%に引上げ
  C類型:デジタル化設備は対象除外になる(C類型は廃止)
◇適用時期
 2年間延長

◆地域未来投資促進税制の見直しと3年延長
◇概要
 地域の特性や魅力を活かした地域社会の創出に向け、制度を見直した上で3年間延長されます。
◇内容
 投資規模要件の厳格化
  ・最低投資額が2,000万円から1億円に引上げ
  ・前事業年度の減価償却費の25%以上という要件を追加
 特別償却率の見直し
  ・通常の場合:35%(現行40%から引下げ)
 対象類型からの除外
  ・サプライチェーンの強靭化に資する類型を対象から除外
◇適用時期
 ・3年間延長

◆リースに関する取引の見直し

◇概要
 リース取引に関する税務上の取扱いを抜本的に見直し、オペレーティング・リース取引の費用計上時期を明確化するとともに、リース譲渡に係る収益・費用の特例が廃止されます。また、所有権移転外リース取引に係る減価償却方法についても見直しが行われます。
◇内容
 (1) オペレーティング・リース取引の取扱い
  1. 各事業年度の費用は、債務の確定した部分の金額を損金算入
    支払金額には賃借のための費用や事業供用のための直接費用を含む
    原価、固定資産取得費用、繰延資産となる費用は除外
 (2) リース譲渡に係る収益及び費用の特例の廃止
  1. 延払基準による収益・費用の計上方法を廃止
    経過措置として一定期間は利息相当額の収益計上を認める
 (3) 所有権移転外リース取引の減価償却
  1. リース期間定額法の計算で残価保証額を控除しない
    リース期間経過時点で1円(備忘価額)まで償却可能
◇適用時期
 (1) オペレーティング・リース取引
  1. 改正法の施行日以後の取引から適用
 (2) リース譲渡特例の廃止
  1. 令和7年4月1日前のリース譲渡について、令和9年3月31日以前開始事業年度まで延払基準の 適用可
    令和9年4月1日以後は利息相当額のみ収益計上可能
    延払基準適用中止の場合は5年均等で収益計上
 (3) 所有権移転外リース取引の減価償却
  1. 令和9年4月1日以後に締結された契約から適用
    既存契約は令和7年4月1日以後開始事業年度から新規定を選択可能
◇留意点
 事業税の付加価値割の課税標準算定にも影響
 会計処理との整合性に配慮した改正
 実務への影響を考慮した経過措置の設定

所得課税

◆基礎控除額の引上げ
◇改正の概要
 物価上昇による実質的な税負担増加への対応として、所得税の基礎控除額が10万円引き上げられます。
◇具体的な内容
 合計所得金額に応じた控除額は以下のとおり改正されます
 ・2,350万円以下の場合:58万円(現行48万円)
 ・2,350万円超2,400万円以下:48万円(現行32万円)
 ・2,400万円超2,450万円以下:32万円(現行16万円)
 ・2,450万円超2,500万円以下:16万円(現行0円)
◇適用時期
  ・令和7年分以後の所得税について適用
  ・給与等および公的年金等の源泉徴収は令和8年1月1日以後の支払分から適用

◆給与所得控除の最低保障額引上げ
◇改正の概要
 就業調整への対応と物価上昇への対応の観点から、給与所得控除の最低保障額が10万円引き上げられます。
◇具体的な内容
  ・最低保障額を現行の55万円から65万円に引上げ
  ・給与収入に対する控除率は現行どおり
  ・源泉徴収税額表(月額表、日額表)も併せて改正
◇適用時期
  ・令和7年分以後の所得税について適用
  ・源泉徴収は令和8年1月1日以後の支払分から適用

◆大学生年代の特定親族特別控除の創設
◇改正の概要
 人手不足対策としての就業調整対策の観点から、大学生等の就労を促進するための新たな所得控除制度が創設されます。
◇具体的な内容
 対象者要件
  ・19歳以上23歳未満の親族等
  ・合計所得金額が123万円以下の者
 控除額
  親族等の合計所得金額に応じて段階的に控除額が変動
  ・85万円以下:63万円
  ・85万円超90万円以下:61万円
  ・90万円超95万円以下:51万円
  ・以下段階的に逓減
◇適用時期
 ・令和7年分以後の所得税から適用

◆扶養親族等の合計所得金額要件の引上げ
◇改正の概要
 基礎控除の引上げに合わせ、各種所得要件の判定金額についても10万円の引上げが行われます。
◇具体的な内容
 以下の制度における所得金額要件を48万円から58万円に引上げ
  ・同一生計配偶者の要件
  ・扶養親族の要件
  ・ひとり親の生計を一にする子の要件
 関連する見直し
  ・勤労学生の合計所得金額要件:75万円→85万円
  ・家内労働者等の必要経費の最低保障額:55万円→65万円
◇適用時期
 ・令和7年分以後の所得税について適用

◆エンジェル税制の見直し
◇概要
 スタートアップへの投資促進を図るため、再投資を促進する新たな制度が創設されます。特に、譲渡益の発生と再投資のタイミングのずれに対応した施策となります。
◇内容
 ・繰戻し還付制度の創設
  1. 譲渡益発生年の翌年の投資について、譲渡益発生年に遡って投資額相当を控除
    還付申告が可能
 ・再投資非課税措置の見直し
  1. 株式取得の翌年末までの売却は課税
    健全な制度利用の促進措置を導入
◇適用時期
 ・令和7年分以後の所得税から適用
 ・制度の継続性を確保しつつ、適正な運用を図る

◆iDeCoの拠出限度額引上げ
◇概要
 私的年金の充実による老後の資産形成を支援するため、拠出限度額が引き上げられます。
◇内容
 ・拠出限度額の引上げ
  1. 企業型:月額6.2万円(現行5.5万円)
    個人型(自営業者など第1号被保険者):月額7.5万円(現行6.8万円)
    個人型(会社員など第2号被保険者:企業年金の加入者):月額6.2万円(現行2.0万円)
    個人型(会社員など第2号被保険者:企業年金がない者):月額6.2万円(現行2.3万円)
 ・対象者の拡大
  1. 60歳以上70歳未満の一定の者
◇適用時期
 ・確定拠出年金法等の改正後に適用

◆生命保険料控除の拡充(子育て世帯向け)
◇概要
 子育て世帯への支援強化の観点から、23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除が拡充されます。従来の控除制度の枠組みを維持しながら、特定の条件下での控除額を増額する形となっています。
◇内容
 新生命保険料に係る一般生命保険料控除の計算方法が次のように変更されます
 ・年間保険料3万円以下:全額控除
 ・3万円超6万円以下:保険料×1/2+1.5万円
 ・6万円超12万円以下:保険料×1/4+3万円
 ・12万円超:一律6万円
 また、控除の上限額についても見直しがあります
 ・一般生命保険料控除の限度額を6万円に引上げ(現行4万円)
 ・3つの保険料控除の合計限度額は12万円を維持
◇適用時期
 ・令和8年分所得税から適用
 ・一時払生命保険は2万円上乗せ措置期間中は控除対象維持
◆住宅ローン控除の特例措置の延長
◇概要
 子育て世帯等の住宅取得支援の観点から、認定住宅等に係る住宅ローン控除の借入限度額の上乗せ措置が延長されます。環境性能や子育て対応といった政策目的と連動した制度設計となっています。
◇内容
 特例対象者の借入限度額を住宅の区分に応じて以下のように設定
  1. ・認定住宅:5,000万円
    ・ZEH水準省エネ住宅:4,500万円
    ・省エネ基準適合住宅:4,000万円
 特例対象者の要件:
  1. ・40歳未満の者で配偶者がいる場合
    ・40歳以上の者で40歳未満の配偶者を有する者
    ・年齢19歳未満の扶養親族を有する者
◇適用時期
 ・令和7年1月1日から同年12月31日までの入居者に適用
 ・床面積要件の緩和措置は令和7年12月31日までに建築確認を受けた住宅が対象

資産課税

◆法人版事業承継税制の役員就任要件の緩和
◇概要
 法人版事業承継税制における役員就任要件について、「贈与の直前において」要件を満たしていれば足りることとする見直しが行われます。
◇内容
 ・現行:贈与の日まで引き続き3年以上、特例認定贈与承継会社の役員等であること
 ・改正:贈与の直前において、特例認定贈与承継会社の役員等であれば足りる
 ・3年以上という期間要件を撤廃
◇適用時期
 ・令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用
◇留意点
 ・本特例措置は、今後延長しないことが明確化
 ・個人版事業承継税制の事業従事要件についても同様の見直し

◆結婚・子育て資金の一括贈与の特例措置
◇概要
 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、2年間延長されます。

その他

◆電子帳簿等保存制度の見直し
◇概要
 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度について、一定の要件を満たす場合には重加算税の加重措置の対象から除外されます。
◇内容
重加算税加重措置の適用除外要件
 以下の要件を全て満たし、かつ事前に届出書を提出している場合
 (1)システム要件
  ・訂正・削除履歴の確認可能な特定電子計算機処理システムの使用
  ・訂正・削除ができないシステムも含む
 (2)記録要件
  ・金額記録事項の訂正・削除を行った場合の履歴確認が可能
  ・国税関係帳簿との相互関連性の確認が可能
 (3)保存要件
  ・重要書類の記録事項と帳簿記録事項との関連性確認が可能
  ・特定電子計算機処理システムの使用による保存の確認が可能
 所得税の青色申告特別控除への影響
  ・控除額65万円の適用要件として、上記の要件を満たす電磁的記録保存を認める
  ・要件を満たす場合は、従来の帳簿保存要件に代えることが可能
◇適用時期
・令和9年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用
・青色申告特別控除に係る改正は令和9年分以後の所得税について適用

 これらの改正内容は、現時点での与党税制改正大綱の段階であり、今後、政府税制改正大綱の策定と国会審議を控えています。特に今国会では、与党単独では衆議院での可決が難しい状況にあり、内容の修正を含めた調整が行われる可能性があります。本資料は現時点で公表されている情報に基づくものであり、今後の動向により変更される可能性がある点にご留意ください。

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