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よくわかる、使える会計知識~現金を稼ぐ力が10年間変わらず停滞している日本企業の営業CF~

よくわかる、使える会計知識~現金を稼ぐ力が10年間変わらず停滞している日本企業の営業CF~

 柴山政行(しばやま まさゆき)

売上高営業キャッシュ・フロー比率が伸び悩んでいる(日経朝刊11月23日15面)

 11月23日の日経朝刊15面(投資1)において、日本企業の現金を稼ぐ能力が伸びずに停滞している、と報じられていました。
 日本経済新聞社が主要な上場企業約400社で、売上高と営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)の比率を調べたところ、2023年度で10.4%と過去10年間横ばいになっていたそうです。
 日本の2023年度(2023年9月期~2024年8月期)における売上高営業CF比率10.4%は、前年度比で2.6ポイント上昇しましたが、過去10年の平均9.6%とそれほど変わらない水準となっています。
 同じ年度のアメリカが16.1%、欧州が14.6%であることと比較してみると、やはり見劣りがするようですね。

 売上高と営業活動から得られるキャッシュ・フロー(営業CF)との関係をおおざっぱに見ると、次のようなイメージになります。

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 詳しい構成要素とそれらの経営活動とのかかわりについては、次の項目で解説いたしますが、まずは上の図をざっくりと理解ください。

「損益計算書の営業利益に営業の債権債務・在庫・減価償却など一定の調整をして営業CFを求める」

 このことがイメージできていれば、次の話に進むことができます。
 以上は損益計算書を起点としたお話ですが、次に営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)と貸借対照表の「現金預金」の関係について、見ていきます。

(注意:正確には、貸借対照表の「現金預金」とキャッシュ・フロー計算書の資金を構成する「現金及び現金同等物」は、細かい点で定義が異なることから一致しないことが多いですが、おおむねどちらもキャッシュの概念であること、および企業によっては現金預金と資金残高が一致するケースもありえることから、ここでは、議論の厳密性よりも読者のイメージのしやすさを優先して、便宜的に両者をイコールの関係として扱っておきます。ご了承ください。)

※連結貸借対照表の「現金及び預金」と連結キャッシュ・フロー計算書の「現金及び現金同等物」が同じ場合
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(設例1)売上高営業CF比率10%の計算例
03(※)投資CF:投資活動によるキャッシュ・フロー。設備投資や貸付などの支出・回収による増減を表示。
   財務CF:財務活動によるキャッシュ・フロー。借入れ・社債・増資など、資金調達に係る増減を表示。

 上記の場合、営業活動によるキャッシュ・フローが10であるため、売上高営業CF比率が10%ということになりますね。

 【売上高営業CF比率】 営業CF10÷売上高100=10%

 これが、同時期の米国における売上高営業CF比率16%だとしたら、たとえば次のような感じになるのではないかと思います。

(設例2)売上高営業CF比率16%の計算例
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 上記の場合、営業活動によるキャッシュ・フローが16であるため、売上高営業CF比率が16%と日本企業の平均よりも高い、ということになりますね。
 設例1の営業CF10と、設例2の営業CF16の違いを生み出す要因をもうすこし詳しく探ってみましょう。

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営業活動によるキャッシュ・フローを構成する要因と経営活動

 細かい話を割愛して、初心者向けにおおまかな営業CFの計算過程イメージを示すと、次のような形になると思います。

(設例3)日本企業における売上高営業CFの構成要素
column_sibayama_12_設例3
 一つずつ見ていきましょう。
 まず、売上高100は商品の引渡額です。しかし、出荷ないし引渡の都度、売上代金を受け取るなどという煩雑なことはしませんね。ふつうは一か月分をまとめて月末締めで請求する、みたいな感じになります。

 そうです。売掛金などの売上債権が増えると、売上の一部が未回収ということで、営業CFを減少させますね。
 上記の例で行くと、売上高100に対し、売上債権が12増えているので、正味の回収額は100-12=88となるはずです。売上債権に回収不能債権や長期未回収の停滞債権などがあると、営業CFを悪化させることが分かります。

 つぎに、仕入高(売上原価)60について、ここは2つの主な要素があります。
 仕入高(売上原価)は販売した商品の原価です。つまり、仕入の支払額とは微妙に違うのですね。
 ひとつめは買掛金などの仕入債務の存在です。
 商品の仕入についても、毎日仕入れるたびに現金を払う、などということはふつう行われません。一か月分をまとめて月末に請求し、翌月に支払う、などの手続をとるはずです。
 したがって、キャッシュ・フローの視点では、「買掛金の増加」は支払の節約ということで営業CFの増加要因になるのですね。

 仕入高(売上原価)に関するふたつめの要素は棚卸資産です。
 お客様から受注があったときに品切れなどをおこしてしまうと、ビジネスチャンスを逃してしまいます。したがって、近い将来の受注を見込んで、先行して多少の在庫を購入して持とうとしますね。
 これは、損益計算書の仕入高(売上原価)のほかに、将来の受注を見込んだ在庫の先行支出なので、営業CFのマイナス要因となります。

 減価償却費以外の諸経費は、支払い経費に相当すると考え、未払い・前払いなどの細かい債権債務の調整などをすればよいでしょう。

 そして、営業CFを考えるうえで非常に重要なものに減価償却費の存在があります。

 普通の経費は次のように、貸方:現金のようになります。
(借方)交 際 費 10,000  (貸方)現   金10,000

 しかし、減価償却費の仕訳は次のようになりますね。
(借方)減価償却費100,000  (貸方)減価償却累計額100,000

 貸方を見ると、現金の支出になりません。
 それは、さかのぼること〇年前、固定資産の取得として現金を先行して支払っているからですね。
(借方)固定資産1,000,000  (貸方)現金預金1,000,000
 これは、「投資活動によるキャッシュ・フロー」として事前に計上されているはずです。ご参考まで。

 なお、わが国の制度におけるキャッシュ・フロー計算書の営業CFには、利息の支払いや法人税等の支払いなども含めて、表示するようになっています。

 ここで、実際の企業の開示例を見てみましょう。
 さきほど、餃子の王将を例にとりましたので、ここでふたたびご登場いただこうと思います。

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 営業活動によるキャッシュ・フロー4,627百万円のうち、減価償却費は1,492百万円を占めていますので、やはりその影響はかなり大きいですね。

 さて、ここでは「営業利益」と「営業CF」の関係の理解を深めるために、制度会計の表示方法とは少し異なりますが、営業利益から営業CFへの調整過程イメージを明確にしてみましょう。

 これにより、営業CFを改善するためのヒントが手に入ります。

※営業利益から営業CFへの調整過程イメージ(税金、利息等はここで考慮外としている)
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 まず、①営業利益を増やすという点については、「売上を増やす」「仕入原価を下げる」「諸経費を節約する」などの施策が考えられます。いわゆる営業活動の効率化、拡大化などですね。

 つぎに、②売上債権 ③在庫管理 ④仕入債務の管理 は、貸借対照表の項目であり、バランスシート対策となります。

営業活動によるキャッシュ・フローとCCCの関係

 ここで、よく出てくる議論にCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の考え方があります。
 CCCとは、企業が商品や原材料の仕入れに現金を投入してから売上により現金を回収するまでの日数を示し、企業の資金効率を分析・検討するための指標です。
 CCCの計算式は次の通りになります。

 CCC=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

 それでは、上記3つの計算要素についてみてみましょう。

①   売上債権回転日数=売上債権/(売上高/365日)
  売上債権は、一般的に「受取手形+売掛金-前受金」で求められます。

②   棚卸資産回転日数=棚卸資産/(売上原価/365日)
  棚卸資産は、一般的に「商品+製品+原材料+仕掛品等」で求められます。

③   仕入債務回転日数=仕入債務/(売上原価/365日)※
  ※分母の(売上原価)は、(仕入債務支払高)におきかわるなど、ほかの考え方もあります。
  仕入債務は、一般的に「支払手形+買掛金-前払金」で求められます。

 ここで、2024年11月23日の日経朝刊16面で報じられている通り、日本企業のCCCは2023年度で82.1日と前年度から7.6日長くなり、過去10年で最長だったそうです。
 これに対し、米国企業のCCCは30.2日と非常に短いそうです。欧州は71.6日と大きいですが、それでも日本企業の平均よりは短いですね。

 売上債権・棚卸資産・仕入債務は運転資金を構成するので、将来、どのくらいの数字になるのか、それをどれくらいまで改善していくのか、経営陣の先見性が問われるところと言えます。

(計算例)
 A社の年間売上高は219億円、売上原価は146億円、期末の売掛金残高は24億円、期末の棚卸資産残高は28億円、期末の買掛金残高は8億円だった。
 以上のデータをもとに、A社のCCCを求めなさい。

 ①   一日あたりの売上高:219億円÷365日=6千万円
 ②   一日あたりの売上原価:146億円÷365日=4千万円
 ③   売上債権回転日数:24億円÷6千万円=40日
 ④   棚卸資産回転日数:28億円÷4千万円=70日
 ⑤   仕入債務回転日数:  8億円÷4千万円=20日
 ⑥   CCC:40日+70日-20日=90日

 以上より、A社のCCCは90日と計算することができました。
 日本企業の平均82.1日より一週間強長い日数となっています。

(補足:このほか、CCCを「売上債権+棚卸資産-仕入債務」から一日当たりの売上(日商)で割って求めるなど、採用する企業の考え方により、異なる方法がありえます。ご参考まで)

 売上債権回転日数、棚卸資産回転日数および仕入債務回転日数の中で、一番長いのは棚卸資産回転日数の70となっています。もしも在庫管理をさらに効率化して、棚卸資産回転日数を10日短く60日にできれば、CCCは80日となるので、日本企業の平均よりも効率的といえるレベルになります。

 具体的な数字としては、X億円÷4千万円=60日なので、X億円=60日×4千万円=24億円とするのが棚卸資産残高の目標値になると考えられますね。
 別の視点で見れば、これまで28億円あった在庫が24億円で良いということになれば、4億円ほどの在庫投資をしなくて済むようになるので、それだけ運転資金が浮いてきます。
 短期借入れが少なくて済むため、財務戦略にも良い影響が出てきますね。

 このように、日経新聞などの時事ニュースで営業活動によるキャッシュ・フローがテーマとして取り上げられるときに、紙面に余裕があってさらに深堀りした議論が展開される場合、時としてCCCの話題にまで踏み込んで議論されることがあります。
 CCCの議論が発展的で、経営陣にとって使い勝手が良いと思われる理由として、債権管理・在庫管理・仕入債務管理など、会社の内部統制に関わる多くの場面に示唆を与える情報となり得る点があげられます。

 ぜひ、以上の議論をご参考になさっていただき、営業活動によるキャッシュ・フローの構成要素を深く理解し、キャッシュ・フロー改善の一つの対策として、CCC改善の方法を探っていくことで、会社の財務改善に少しでもつなげていただけたらと思います。

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