人的資本の情報開示についてのポイント 2023.11.09 (UPDATE:2024.11.18)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
2023年1月末、有価証券報告書に女性管理職比率等の記載義務を定めた内閣府令が施行され、企業の「人的資本の情報開示」を後押しする行政の動きが一段落しました。2022年6月以降、男女の賃金差異の公表など、政府が打ち出す情報開示の促進策への対応に追われていた人事関係者は、ここにきて、やっと安心されたことでしょう。
少し落ち着いたところで、この1年間の「人的資本の情報開示」動きを振り返り、行われたこと・行われなかったことを整理してみましょう。
この1年間、「人的資本の情報開示」に関して、次のことが行われました。
一方、(投資家や労働者等が期待に反して、)次のことは行われませんでした。
以上の点を踏まえると、この1年間で、上場企業・中堅企業において「女性活躍推進」に関する情報開示は行われるようになったものの、中小企業における情報開示、あるいは「女性活躍推進」以外の情報開示は、ほとんど進まなかったと言えます。なお、有価証券報告書への記載が義務付けられた「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」は、以前から女性活躍推進法や育児介護休業法で公表が義務付けられている項目であることから、厳しい見方をすれば、この1年間で新たに開示が義務付けられた人的資本情報はなかった(目新しいことは何一つ行われなかった)ということになります。
だからと言って、「国が人的資本の情報開示に本気で取り組んでいない」ということではありません。
もともと、「人的資本の情報開示」は、各企業が自主的に行うべきものと考えられます。ですから、本件に関して、政府は、最初から「ある程度の流れを作ったら、あとは各企業の判断に任せる」というスタンスをとっていました。この「ある程度の流れ」が、この1年間で作られたのです。
これから、「人的資本の情報開示」は、各企業が自主的に行っていく、新たなステージに入っていきます。
そこで、次回のコラム(この特集の最終回)では、「これからの『人的資本の情報開示』 ~今後の課題と人事部門の役割」というテーマで、このことについて解説したいと思います。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。