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効果的なリ・スキリングの進め方とは

効果的なリ・スキリングの進め方とは

 深瀬勝範(ふかせ かつのり)

 リ・スキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」を意味します。経営者や人事関係者の中には、リ・スキリングの必要性を認めながらも、「リ・スキリングをしても業績向上に結びつかない」、「リ・スキリングは従業員の転職を引き起こす」等の不信感をお持ちになっている方もいらっしゃいます。
 業績向上に結び付くように、また、従業員の転職を引き起こさないように、リ・スキリングを進めるには、どうすればよいのでしょうか?
今回のコラムは、このような効果的なリ・スキリングの進め方について解説します。

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担当業務に関わる資格の取得等を推奨する

 リ・スキリングは、一般的に「デジタル技術等の専門スキルが対象になる」と捉えられていますが、これらの専門スキルを獲得することは極めて難しく、また、スキルを獲得したところで業務に活かせるとは限りません。ですから、「会社がリ・スキリングに取り組んでも、従業員のスキルは向上しないし、業績向上にも結びつかない」と言う人が出てくるのです。
 このように言う人は、リ・スキリングの対象を狭く捉えすぎています。会社でリ・スキリングを進めるときには、スキルの内容やレベルにこだわる必要はありません。担当業務や能力レベルに合わせて、従業員一人ひとりに適した形でのスキル向上を促したほうが、リ・スキリングはスムーズに進みます。
 各従業員に適した形でのリ・スキリングを進める場合、会社は、従業員に対して、スキル向上を証明できるような「公的資格の取得・社外検定の受験」などを推奨すると良いです。
 リ・スキリングにおいて重要なことは、「獲得されたスキルが社外でも広く通用するかどうか」ということです。この「世間で広く通用する」ことの証としては、公的資格や社外検定が最適です。また、「勉強するための教材が市販されていること」、「従業員は『自分のためのスキル向上』という意識を持ちやすいこと」等からも、公的資格等はリ・スキリングのツールとして使いやすいものと言えます。
 近年、業界団体や研修機関等によって、様々な資格・検定制度が整備されており、オンライン研修を受講できるサービスの普及も進んでいます。「担当業務に関わる資格・検定を取得しよう」と会社が促せば、従業員は自主的にリ・スキリングに取組むようになり、その結果は業績向上となって確実に表れます。

DX関連の社内プロジェクトに参加させたうえで、研修を受講させる 

 従業員の中には「(担当業務とは無関係だが)デジタル技術等の専門スキルを身につけたい」と思っている人もいるでしょう。今後、どの会社においても、デジタル分野の専門スキルを持つDX担当者を確保することが必要になります。ですから、会社としても、このような思いを持っている従業員には、研修を受講させる等して、リ・スキリングの機会を積極的に与えるべきです。
 ただし、デジタル技術等の専門スキルは、実際に使わなければ向上しません。ですから、「デジタル技術を身につけたい」という従業員には、何らかの形でDX関連の社内プロジェクトに参加させて、そのうえで研修などを受講させるようにすると良いです。プロジェクトやミーティングで使われているデジタル用語が分からない、システム会社等との折衝がうまくできない…。こうした経験を重ねるうちに、その従業員は、自らの知識・スキル不足を痛感して、自主的かつ真剣に勉強するようになります。
 参加させる社内プロジェクトについて、規模の大小や内容は問いません。どのような形であっても、実際に使う機会を与えることによって、効果的なリ・スキリングを進めることができます。
 「このような形でリ・スキリングを進めると、スキルアップした途端に、その従業員は転職してしまうのではないか」と心配する方がいらっしゃるかもしれません。確かに、転職してしまう可能性はありますが、当方が見てきた限り、そういう人は少数です。DX関連の仕事をしながら専門スキルを身につけていくと、その従業員は、スキルを活用することの難しさも知ることになります。ですから、転職せずに、現勤務先でDX分野のリーダー的存在になることを選ぶ人が多いのです。
 DX関連の社内プロジェクトに参加させたうえでリ・スキリングを進めることは、従業員の転職を防ぐうえでも効果があるものとお考えください。

リ・スキリングの進捗状況をチェックして、それをもとに業務配分を決定する

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 「DX関連のプロジェクトへの参加が転職防止策になる」ことからも分かる通り、リ・スキリングに成功した従業員の転職を防ぐには、獲得したスキルを業務の中で活かせるようにすることが一番です。ですから、リ・スキリングを効果的に進めるうえでは、各従業員の資格取得や研修受講等の状況をチェックして、それをもとに業務配分を決定していくことも必要です。
 近年、従業員の資格取得、研修履歴等のスキル情報を管理できる人事情報システムも増えてきています。このようなシステムを使って、従業員のスキル向上と業務配分を一致させることにより、業績向上と転職防止を実現する、効果的なリ・スキリングを進めることができます。

 「社内でリ・スキリングを進めたい」とお考えの経営者や人事関係者は、是非、今回のコラムを参考にして、取組みを始めてください。
 次回のコラムでは「リ・スキリングに関する情報開示」について解説したいと思います。

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