人的資本の情報開示についてのポイント 2023.03.09 (UPDATE:2024.11.20)
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
4月は、新入社員の受け入れや昇給など、人事関係者にとって1年で最も忙しい時期であると同時に、多くの改正法令が施行される時期でもあります。
今回のコラムは、2023年4月に実施される法改正等の概要と人事関係者が実施するべきことについて説明します。
2010年4月に大企業を対象に実施された、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を引上げる措置が、中小企業にも適用されます。
これにより、国内のすべての会社が、月60時間超の時間外労働の割増賃金率が50%以上となります。
会社は、労働者から同意を得た場合に、「○○ペイ」などを運営する資金移動業者が提供するスマートフォンのアプリでデジタルマネーとして賃金を支払うこと(いわゆる賃金のデジタル払い)が可能になります。
なお、これを実施するためには、対象となる労働者の範囲や資金移動業者の範囲などを記載した労使協定を締結することが必要です。
育児介護休業法の改正により、常時雇用する労働者が1,001人以上の事業主は、男性労働者の「育児休業等の取得率」または「育児休業等及び育児目的休暇の取得率」を年1回公表することが義務付けられます。
公表は、自社のホームページ等に情報を掲載する等の方法で行います。
2022年7月8日に施行された改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して「男女の賃金の差異」の情報公表が義務付けられました。
公表は、2022年7月以後、最初に終了する年度の次の年度の開始後3か月以内に行うこととされておりますので、3月末決算の会社は、2023年6月末までの間に実施することになります。
昨年より話題となっていた「人的資本の情報開示」に対応することも必要です。
2023年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正が行われ、上場企業は有価証券報告書に「人材育成の方針」や「女性管理職比率、男性の育児休業取得率及び男女間賃金格差等の指標」等を記載することになりました。
このような情報開示の動きは、非上場企業にも広がってきています。中小企業の中には、取引先である大企業から女性管理職比率等の情報を提供するように求められているところも増えてきています。
また、最近は、学生等はインターネット上の情報をもとに就職先を選ぶようになっているため、若年労働者を採用したい企業は、人的資本の情報開示を積極的に行っていくことが必要です。
大企業も中小企業も、投資家、取引先、学生等にアピールするために、人的資本の情報開示に積極的に取り組まなければなりません。
これから、多くの企業が、このような取組みを本格的にスタートさせることになるでしょう。
上記1-(1)の「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ」を実施していない中小企業は、速やかに就業規則を改定し、給与計算システム等のプログラムを修正することが必要です。
一方、1-(2)の「賃金のデジタル払いの解禁」については、これから厚生労働省による資金移動業者の指定が始まりますので、当面は、その動きを注視しておけばよいです。
そして、自社において「賃金のデジタル払い」を実施していくのであれば、資金移動事業者を選定したうえで労使協定を締結するようにします。
1-(3)(4)および2の「情報の公表・開示」については、厚生労働省の説明資料(インターネットを通じて入手可能)に基づいて、自社の「男女の賃金の差異」等を算出し、自社のホームページ等で公表・開示しなければなりません。
なお、人的資本に関する情報を公表・開示すると、投資家や労働者等から問い合わせが来ることが予想されますので、人事関係者は、それに対して明確な回答ができるように準備しておくことも必要です。
以上、2023年4月に実施される法改正等の概要をまとめました。
これを参考にして、皆さんの会社でも、法改正等にしっかりと対応できるようにしておいてください。
深瀬勝範(ふかせ かつのり)
Fフロンティア株式会社
代表取締役 人事コンサルタント 社会保険労務士
一橋大学卒業後、大手電機メーカーに入社、その後、金融機関系シンクタンク、上場企業人事部長等を経て独立。
現在、経営コンサルタントとして人事制度設計、事業計画の策定などのコンサルティングを行うとともに執筆・講演活動などで幅広く活躍中。
主な著書に『はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割』
『Excelでできる 戦略人事のデータ分析入門』(いずれも労務行政)ほか多数。