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よくわかる、使える会計知識 ~事業再編による子会社株式の連結貸借対照表の表示ほか~

よくわかる、使える会計知識 ~事業再編による子会社株式の連結貸借対照表の表示ほか~

 柴山政行(しばやま まさゆき)

ニュースから学ぶ全社戦略・事業再編 

 2024年4月10日の日経新聞一面で、株式会社セブン&アイ・ホールディングスが、傘下の株式会社イトーヨーカ堂などのスーパーストア事業に係る株式を2026年度以降に一部売却する検討に入った、と報じられました。

 このニュースから想像されるのは、株式会社セブン&アイ・ホールディングス全体で約11兆4700億円もの売上を上げていますが、このうち売上高約9200億円の国内コンビニ事業や約8兆5000億円の海外コンビニ事業を中核事業と位置付けた一方、約1兆4700億円強のスーパーストア事業を非中核事業と位置付けたということです。株式会社イトーヨーカ堂はセブン&アイ・ホールディングスの100%子会社です。

 ではここで、株式会社セブン&アイ・ホールディングスの事業単位(セグメント)別に最近の業績がどうなっているか、決算書の情報を確認してみましょう。
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(引用:「株探(かぶたん)」HP日経平均チャート https://kabutan.jp/stock/chart?code=0000

 2024年4月10日に発表された決算短信によると、連結ベースの営業収益(売上高に相当)は11兆4717億5300万円、営業利益に相当するセグメント利益の合計は5342億4800万円ですから、売上高利益率は4.7%になります。
 これに対し、国内コンビニエンスストア事業は営業収益9217億600万円、セグメント利益2505億4400万円なので売上高利益率は27.2%と高い収益性を記録しています。売上高に対する営業利益が20%を超える事業は一般的には非常に儲かっているといえます。
 しかし、スーパーストア事業を見ると、営業収益1兆4773億8400万円と国内コンビニエンスストア事業よりも多いのですが、セグメント利益は135億8800万円なので、国内コンビニエンスストア事業の利益に対して18分の1という非常に少ない利益の計上となっています。売上高利益率は0.9%と1%にも満たない低さです。

 この状況を見ると、確かに新聞報道でも言われている通り、一部の株主から株式会社イトーヨーカ堂などを不採算事業と指摘して分離を求める声が上がっても不思議ではないですね。全社的な視点から見て、事業の再編を真剣に検討する必要があるのかもしれません。
 
 経営学においては、このように会社全体としてどの事業領域にリソースを集中し、どの事業領域からリソースを引き上げるか、あるいは縮小するなどの変更をするかといった将来設計をすることを「全社戦略」といいます。いいかえれば、会社全体の将来を見越して、いまからどの事業に限りある経営資源を振り分けるか計画することが全社戦略と考えることができます。
 そして、事業ごとに経営資源の振り分け方が決まったら、会社内で事業部の創設をしたり事業部を廃止したりすることもありますが、時には一会社の枠を超えて、他の会社と手を組む、あるいは事業の一部を譲渡するなど、会社の売り買いというような取引に発展することもあります。このような会社や事業の売り買いみたいな大きな取引の領域を、会計的には「事業再編」といいます。
 
 事業再編には、企業規模を拡大する「企業の結合」と、企業の規模を縮小する「事業の分離」の2つの領域があります。いずれもほとんどが日商簿記1級や公認会計士・税理士などの上級レベルの会計資格で学ぶテーマとして位置づけられています。

 また、同じ事業規模の拡大に貢献する戦略のひとつとして、企業結合に類するものとして子会社の連結がありますね。たとえば、企業結合の代表例の一つである吸収合併は、相手の会社を取り込んで一つの会社になるため、吸収される側の会社は法人格が消滅します。
 いっぽう、ある会社の株式を過半数所有するなどして子会社化した後も、支配されている子会社の法人格はそのまま継続します。



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【連結決算】100%子会社のバランスシート表示を理解しよう

 ある会社をグループに引き入れようとした場合、その会社の発行済み株式の過半数を取得して子会社化するという方法がよくとられます。
 その場合、子会社としようとする会社の株式を100%取得することを「完全子会社化」といいます。
 いっぽう100%ではないが50%を超えて取得することを部分所有といます。

【ケース1】100%子会社を設立した場合

 例えば、P社が100万円を出資して100%子会社であるS社を設立したとしましょう。

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 P社の個別貸借対照表では、出資後は現金預金が1,000万円から900万円に減っており、代わりにS社の個別貸借対照表で現金預金が100万円増えています。各法人(個別の会社)単位では、現金の移動がありますね。これは、P社とS社を別の法人格つまり別の存在として考えていることになります。

 次に、×1年1月1日(連結第1期の期首)時点におけるP社とS社を結合した連結貸借対照表を見てみましょう。

Step①:まずP社の貸借対照表とS社の貸借対照表を単純に合算

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 ここで注意してほしいのは、P社貸借対照表における「子会社株式100」とS社貸借対照表における「資本金100」はお互いに対応しており、借方(左側)と貸方(右側)で両建てになっていることです。
 この両側にある100万円は、P社グループ全体では実体のない勘定科目なので、連結決算で相殺消去します。このような連結上の処理を「投資(子会社株式)と資本(S社の資本)の相殺消去」といいます。

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Step②:相殺

 この際に、連結決算上で行われる仕訳は次のようになります。

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 借方(貸借対照表の左側)にあった子会社株式100万円は、連結修正仕訳で貸方に100万円に記載されることで相殺され、残高がゼロになります。貸方(貸借対照表の右側)にあった資本金S 100万円は連結修正仕訳で借方に「資本金S 100万円」と記載されることで相殺され、こちらも残高がゼロになりますね。

 これで、P社の連結スタート時における連結貸借対照表ができました。
 しかし、この時点では、そもそもS社の株式を100%取得する前とまったく同じ貸借対照表に戻ってしまっていますね。
 実は、子会社であるS社がP社グループに参加した後に稼いだ利益をP社の連結決算に取り込むことで、P社とS社の支配獲得後(連結グループ傘下後)のグループ全体の業績や財務状況を表現することができるようになるのです。

 それでは、連結スタートから一年後(×1年12月31日時点)の連結1年度末におけるP社・連結貸借対照表を見てみましょう。
 話を単純にするために、一年間でP社は現金預金と利益をそれぞれ100万円ずつ増やし、おなじくS社も一年間で現金預金と利益をそれぞれ100万円ずつ増やしたことにしましょう。
 つまり、A社連結グループ全体では、現金預金はP社+S社で200万円増加し、利益剰余金も200万円増加したことになります。

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 S社が一年間で稼いだ利益100万円は、持ち分比率100%の株主である親会社P社に帰属するため、連結上もこのS社の利益剰余金100万円はそのまま加算されます。

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 これで、連結会計1年度目のS社が稼いだ利益100万円をそのままP社の連結上の業績として利益剰余金に加算することができました。
 このように、100%子会社が稼いだ利益は文字通り「100%」すべてが親会社に帰属します。

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【連結決算】部分所有子会社(50%超~100%)のバランスシート表示を理解しよう

 次に、100%子会社ではなく、その会社の発行済み株式の過半数を取得した場合を考えてみましょう。 ここでは話を単純にするために、新たに設立する会社の株式の60%を取得するケースを見ていきます。

【ケース2】60%の出資をして部分所有子会社を設立した場合

 P社が60万円を出資して、資本金100万円の子会社S社を設立したとしましょう。残り40万円は、個人投資家M氏が出資したことにします。

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 P社の個別貸借対照表では、出資後は現金預金が1,000万円から940万円に減っており、代わりにS社の個別貸借対照表で現金預金が100万円増えています。100万円のうち40万円はM氏からの出資ですね。
M氏は個人であり、P社の連結決算とは無関係であることから上記の図から除外しています。

 次に、×1年1月1日(連結第1期の期首)時点におけるP社とS社を結合した連結貸借対照表を見てみましょう。

Step①: P社の個別貸借対照表とS社の個別貸借対照表の単純合算

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 ここは【ケース1 100%子会社】の時と同じですね。一つ違うのは、子会社株式が60万円であることです。

Step②:相殺

 では、上記の単純合算貸借対照表から、ダブっている子会社株式60万円と資本金S 60万円相当を相殺すると同時に、貸方の資本金Sの残り40万円部分については、S社を支配していない株主という意味で「非支配株主持分」という勘定科目を用い、そちらに資本金Sから振替えてみましょう。

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 100%子会社のときはなかった「非支配株主持分40万円」が出現しましたね。
 これは、P社が100万円のうち60万円(60%)しか出資しなかったため、差額の40万円(40%)についてM氏の持分すなわち非支配株主持分と表示することになったのです。

 それでは、連結スタートから一年後(×1年12月31日時点)の連結1年度末におけるP社・連結貸借対照表を見てみましょう。
 話を単純にするために、一年間でP社は現金預金と利益をそれぞれ100万円ずつ増やし、おなじくS社も一年間で現金預金と利益をそれぞれ100万円ずつ増やしたことにしましょう。
 つまり、A社連結グループ全体では、現金預金はP社+S社で200万円増加し、利益剰余金も200万円増加したことになります。

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 上記のS社における貸借対照表につきまして、S社が一年間で稼いだ利益剰余金100万円は、持ち分比率60%の株主である親会社P社に60万円帰属し、持ち分比率40%の非支配株主M氏に40万円帰属します。
 そこで、連結上はこのS社の利益剰余金100万円のうち60万円はP社の利益剰余金に加算され1,360万円になり、残り40万円は非支配株主持分に加算され、40万円+40万円=80万円が結論としての非支配株主持分の金額になります。

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 これで、連結会計1年度目のS社が稼いだ利益100万円のうち60万円(60%)をP社の連結上の業績として利益剰余金に加算する一方で、40万円(40%)を非支配株主持分に振替えることができました。

 それではここまでのまとめです。
 P社がS社を100%子会社としているケースとP社がS社を60%子会社としているケースで連結貸借対照表の表示がどのように異なるか比較してみましょう。

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 連結上の利益剰余金がS社の利益剰余金100×0.4=40万円だけケース2(1,360万円)はケース1(1,400万円)より少なくなり、その分非支配株主持分に加算されていることがわかりますね。

 子会社を部分所有している場合の連結財務諸表には「非支配株主持分」が発生することをご理解いただけたでしょうか。

【個別決算】関連会社株式と持ち合い株式の表示方法

 さきほどまでは、子会社を親会社の財務諸表に合算する「連結財務諸表」の枠組みでお話してきましたが、子会社がいない場合は連結財務諸表を作りません。
 現実に、上場企業の中でも連結決算をしていない企業が一部あります。
 また、連結決算をしている会社でも、補足情報として親会社の個別財務諸表を有価証券報告書で表示したりします。

 たとえば、支配までには至りませんが、その会社の意思決定などに重要な影響を与える会社のことを「関連会社」といいまして、例えばおおむね持株比率が20%~50%の間で過半数には届かないけれど相当程度の持ち株比率である状況がそれです。

 関連会社株式を持っている場合、個別決算の上では原価法といって、時価が変動しても原則として取得したときの支出額を基礎として期末の貸借対照表において評価されます。
 基本的に事業戦略上の理由から所有しているため、建物や設備のような固定資産と同じく、事業に関連して使用し、売却をすることはグループ経営の観点からは一応想定されていないのですね。
 なお、連結財務諸表を作る場合には、連結決算上は「持分法」という特殊な評価方法で関連会社株式を評価するのですが、ちょっと上級レベルの簿記の話となるので、将来、機会があればまたその時にあらためて詳しく解説していきたいと思います。

 さらに、持ち株比率は20%を下回るなどもっと低い所有割合である場合は、もはやその会社の経営にあまり重要な影響を与える存在とは言えないのが普通ですが、それでもお互いの取引関係を維持するために株式を持ち合うなどして、関係を安定化する目的で株式所有することがあります。
 ニュースや外国の投資家から、度々日本企業の従来の問題点として閉鎖性が指摘されたりする、いわゆる「持ち合い株」がこれに当てはまったりします。

 この持ち合い株などに代表される有価証券は、会計の世界では「その他有価証券」といいまして、子会社でも関連会社でもないことからグループ企業の一員とはみなされず、より将来の処分などがしやすいこともあるため、時価で評価することとされています。

(ポイント) 

  • 子会社株式は100%子会社も部分所有子会社も連結して連結財務諸表を作成する。
  • 関連会社株式は、連結決算では持分法により評価し、個別決算上は原価で評価する。
  • その他有価証券(持ち合い株等)は時価で評価するのが基本。

 最後に、株式会社セブン&アイ・ホールディングスの決算短信より、部分所有子会社がある場合の「非支配株主持分」の表示場所についてみておきましょう。
※株式会社セブン&アイ・ホールディングスの決算短信より… 非支配株主持分の表示例

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 2024年2月期の非支配株主持分は184,041百万円となっており、前期(2023年2月期)の173,565百万円よりも10,476百万円すなわち104億円あまり増加していることが分かりますね。

 同じグループ内企業でも、100%子会社のケース、部分所有子会社(過半数所有)のケース、関連会社(20%~50%所有など)のケースでは、それらの株式を取り込んだ時の決算書上表の表記がそれぞれ異なることをイメージできるようになると、連結決算を読む楽しみ方がまた少し変わってくるのではないでしょうか。


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